リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

MTXの腎障害とグルカルピダーゼ

<Scenario case>
70代女性、関節痛に対し、MTX投与された。
 
その後より、口腔潰瘍、肝機能障害、汎血球減少が出現し、紹介入院。
 
入院時、Cr7台。でも、脱水所見なし。
 
(症例は架空です)
 
MTX中毒にしては腎不全だけ合わない、と思っていたら、
 
血液内科の先生より、MTXの腎障害ではないかと言われました。
 
 
 「えっ、MTXは腎機能障害を起こすような薬ではありませんよ。」 (リウマトロジストの心の声)。
 
 
<Uptodateにて>
取り急ぎ、ざっと読みましたので、Upしておきます。
 
Crystal-induced acute kidney injury (acuterenal failure)
 
Methotrexate —正常では約90%が尿より変化しないまま排泄される。高用量の静注MTXは尿細管に沈着し、直接的な尿細管障害を起こしうる。MTX誘発性腎障害のリスクは酸性尿で増加する(MTXは酸性尿ではあまり溶けないため)。また脱水においても尿量が減少し尿細管のMTX濃度が増加するため増加する。加えて、MTX腎障害のリスクは血漿MTX濃度が高い時に高くなる。
 
AKIを来たすリスクは先行する補液とpH>7.0の尿のアルカリ化によって最小限となる。補液は尿量を確保し、尿細管内のMTX濃度を減らすため。尿をアルカリ化にすると、MTXの溶解性を10倍も増やしうるため。静注のMTXを受ける全ての患者において急性腎障害を予防するため私たちは尿pH>7にするよう重炭酸塩溶液の点滴を行う。Euvolemicで腎機能・Naが正常な患者には薬局で無菌の水1Lあたり重炭酸ナトリウム75mEqを混ぜてもらった溶液を投与する。もし患者がHypovolemicであればハーフサリン1Lあたり重炭酸ナトリウム75mEqを含む等張液を投与する。私たちは通常約3L/日(静注なら125ml/h)を投与する。重炭酸の投与はMTX投与の12時間前に行い24-48時間続けるべきだ。
 
ルーチンの血管内ボリュームの補充と尿のアルカリ化を行う時代においてMTXによる急性腎障害の発生頻度は骨肉腫の臨床試験のデータ解析において1.8%と報告された。
 
MTXによる急性腎障害は典型的には乏尿にならず、通常リバーシブル。血漿クレアチニン濃度は通常第1週でピークとなり、1-3週間以内にベースラインに戻る。
 
MTXによる急性腎障害の治療は補液、ループ利尿剤を用いて尿細管内の結晶を洗い出すこと、尿のアルカリ化である。ループ利尿剤、尿のアルカリ化の利益を証明した試験はない。この方法は理論上の利益に基づくものでしかない。
 
上述の通り、尿pH>7.0に保つことは急性腎障害の患者においては難しく、リスクに関連するかもしれない。リスクとはリン酸カルシウムの沈着、および直接的な膜効果とイオン化カルシウム値の低下による低カルシウム血症の症状の誘発・悪化である。
 
以上の制限はあるが、重炭酸による治療の利益の可能性がある以上、私たちはMTXによる急性腎障害の全ての患者に重炭酸を投与する。乏尿がなく低カルシウム、代謝性アルカローシスを有さず、急性透析の適応がない場合。
 
私たちは通常、無菌の水1Lあたり140mEqの重炭酸塩を含む溶液をフロセミドの様なループ利尿剤と一緒に静注的に投与する。乏尿がなく低カルシウム、代謝性アルカローシスを有さず、急性透析の適応がない場合。
 
重炭酸の投与は12時間後も尿pH7.0を超えない場合、代謝性アルカローシスが発生した場合には中止すべきである。
 
急性腎障害は血漿MTX濃度の上昇を来たす。これは臨床的に非常に問題である。なぜなら尿量の減少によって血漿MTX濃度の上昇が2-3週間続くため、MTX毒性が増加するかもしれないからだ。この状況ではチミジンの併用・非併用のもとロイコボリンレスキューを行うことが有効だ。通常よりも高用量投与することが必要になることが多く、またその投与量は血漿MTX濃度に基づくが。ロイコボリンはMTX濃度が0.05ミクロモル未満に落ちるまで続けるべきだ。
 
Glucarpidase葉酸と化学構造が似たMTXのような抗葉酸物を非活性化する薬剤である。Glucarpidaseは補液と尿のアルカリ化にも関わらず高い血清MTX濃度を急速に低下させることによって全身性のMTX毒性を予防するかもしれない。たとえば、ある報告ではMTX投与36-42時間後の血清MTX濃度が高い腎不全患者65例を1回のglucarpidaseで治療した。Glucarpidase投与15分後、血清MTX濃度は中央値87%も低下した。
 
Glucarpidaseはロイコボリンも代謝する。そのため、glucarpidase投与後2日間は継続しなければならない。
 
Glucarpidaseは腎機能障害のためMTX排泄が遅れた患者における中毒性血漿MTX濃度(>1ミクロモル)の治療薬として20121月に米国で承認された。腎機能障害とMTX高値の患者におけるglucarpidaseの使用に関する推奨は別に記す。
 
透析、活性炭血液かん流、血漿交換によって薬剤を除去することは通常価値に制限がある。その理由はMTXは蛋白に結合するため確実に透析されるわけではなく、また比較的大量の血管外の分布があるためである。しかし小規模なシリーズにおいてハイフラックス膜を用いた透析を4-6時間連日行うことはMTX排泄を改善した。高用量のMTX治療以前より透析に依存していたある患者において6時間以内に63%が排泄された。この患者において間を開けて7回のMTX治療が行われ、平均5.6日で薬剤は完全に除去されたことが証明された。
 
アルブミンベースの持続的静静脈血液透析アルブミンを用いない場合と比べMTX排泄が良くなるかもしれない。恐らく蛋白に結合したMTXの除去により良い効果があるため。
 
 
<Scenario caseの経過>
ロイコボリン・レスキューとともに、メイロンの溶解液を開始しました。
 
 
2012年、FDAでグルカルピダーゼが承認されたことがニュースになっていたようですね。