リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

BCG膀胱内注入療法による反応性関節炎(Reiter症候群)

Clinical scenario
60歳男性、結膜炎と臀部あたりの疼痛
 
7週間前より膀胱癌にてBCGの膀胱内注入を毎週行い、11日前に最後の6回目の投与を終えた。
 
5週間前、2回目の投与後より、投与した翌日だけ排尿時痛を自覚するようになった。6回目の投与後より下腹部痛と強い排尿時痛がある。
 
3週間前、4回目の投与後より腰痛が出現。
 
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週間前より両眼の結膜炎が出現し、眼科にて点眼液を処方された。
 
5日前より発熱が3日間あった。臀部あたりが痛くて歩きにくいため、ERを受診。
 
両側とも眼球・眼瞼結膜の充血を認め、結膜炎と判断した。仙腸関節の圧痛を認め、側臥位にして前上腸骨稜を圧迫することで仙腸関節あたりの疼痛を訴えた。
 
BCG膀胱内注入による反応性関節炎(Reiter症候群)と診断した。
 
治療は?
 
(症例は架空です)
 
 
Pubmedにて>
時間がなかったので、Pubmedbcg intravesical reiter'sを検索しました。
 
1)日本からの報告が多いです。すぐに泌尿紀要に飛び付いたのですが、イスコチンを使うという微妙な記載があったので、リウマチ科からの報告を読んでみました。
 
Reiter's syndrome following intravesical bacille biliE de Calmette-GuErin treatment for superficial bladder carcinoma: report of six cases.
Mod Rheumatol. 2004;14(1):82-6.
 
筑波大学からの報告です。臨床経過が詳細に記載されており、実践的です。 勝手ながら
6例を表にまとめました。
 
BCGHLA-B27尿道結膜炎関節炎
(※)
179M4(-)(+)(+)右肩、両手、両膝、両第1MCP、左足
254M4(-)(+)(+)両膝
358F3(-)(+)(+)肋横突関節、左第4MTP
468F5NA(+)(+)肋骨、両膝
547M6(-)(+)(+)肋骨、右手、右膝、右足
642M6(-)(+)(+)右膝、右第2PIP、左第4PIP、左膝
 
(※)関節炎発症までのBCG回数を記載します。全例、尿道炎についで結膜炎と関節炎が発症するという経過でした。
  
10年以上前の報告であったため、最近の報告を探してみます。
 
 
2)本腰を入れるとMeSHを使わないといけません。
 
Reiter's syndromeのMeSHはReactive arthritisになりました。
 
"Arthritis, Reactive"[Mesh] BCGを検索しますと、2013年にシステマティックレビューがありました。
 
Autoimmun Rev. 2013 Oct;12(12):1150-9.
Reactive arthritis induced by intravesical BCG therapy for bladder cancer: our clinical experience and systematic review of the literature.
Bernini L1, Manzini CU, Giuggioli D, Sebastiani M, Ferri C.
 
Abstract
OBJECTIVE:
BCGの膀胱内注射は膀胱癌に対して有効で安全な免疫療法であるが、副作用として反応性関節炎がある。
・著者は自身の臨床経験の5例について述べ、このトピックにおける文献のレビューをUpdateした。
 
METHODS:
・世界で73の報告があり、計112例に対し概ね一例報告であった。しかし、このレビューは正確な臨床評価をしている61報告にフォーカスをあてた;そのため自験例を含めた計89例を注意深く解析した。
 
RESULTS:
89例のうち73例が男性、16例が女性。
・ヨーロッパが報告が多い地域であった。すなわち報告の80.6%、患者の74.2%を占めた。地中海地域が報告の62.9%、患者の59.6%を占めた。
・反応性関節炎(ReA)の症状は膀胱内注射平均5.8回後に出現した。
・多関節炎が55.1%、少数関節炎が37%、単関節炎が7.9%。多関節炎は51%で対称性、49%が非対称性。少数関節炎は33.3%が対称性で66.7%が非対称性。全体として非対称性が59.6%
・膝と足が最もよく侵される関節炎であった。
HLA B2742.6%で陽性。
・関節液検査は71.9%で臨床的に無菌性。
・関節炎は93.2%6ヶ月以内、70.5%2ヶ月以内に改善した。
NSAIDsステロイド65.1%で単独で、40.4%においてその他の薬剤と併用で用いられた。
BCG膀胱内投与によるReAをその他の原因物質によるReAと比べたところ、いくつかの共通点と相違点があった。
 
CONCLUSIONS:
・過去の報告と比較し、このレビューはこのトピックにおけるいくつかのフィギュアを変えることを可能にした。たとえば、
・多関節炎の頻度は少なくなり(70.5%から55.1%に)、軸性関節と仙腸関節の頻度が少なかった;多関節炎はBCG膀胱内投与による頻度の多い臨床パターンであるが、むしろ非対称性に下肢の大関節に特徴づけられる。
HLAB27との明らかな関連があるが、予後とは関係がない。さらに関節炎は無菌性で抗原暴露からの潜伏期間がある。
・その他の原因によるReAでよく見られる関節外症状に関連する。
・関節炎は通常良性で慢性にはめったに移行しない。
NSAIDs and/or ステロイドが非常に有効。
・注目すべきはこのアップデートされたレビューから新たに分かったBCGの膀胱内投与によって起きる関節炎の全体的な臨床像はその他の細菌性物質によるReAの臨床像と同じようであるということだ。
 
 
Table 2 BCG膀胱内注入療法によるReAとその他の細菌によるReA(一部省略)
 
 ※このTable 2はReAの病原微生物によってまとめられており、必見ですね。
 
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Scenario caseの経過>
本症例は仙腸関節炎を主体とする珍しいタイプであった。
 
今後の臨床経過によっては膝などの関節炎が出現するかもしれないと思った。NSAIDsPPIを処方し、再診予約をとった。
 
無効であればステロイドを用いることを考慮していたが、再診日、NSAIDsを1回飲んだだけで著効したとのことであった(VAS10/10→3/10)。