リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

リツキシマブの安全性

Scenario case
60歳男性、多発血管炎性肉芽腫症(ウェゲナー肉芽腫症)、GPAの新規発症患者(MPO-ANCA, non-renal)の治療法について検討しています。
 
難治性の合併症があるため、リツキシマブを導入する予定です。
 
リウマトロジスト、実はこの薬の使用に慣れておりませぬ(GPA再発例に1回だけ使いましたっけ)。
 
というのもこの薬、GPAMPAの再発例に保険適応が通ったのが20136月、活動性の高い新規例でも使えるようになったのが20148月のこと。
 
患者さんに効果と安全性を説明しなければなりません。
 
効果の面ではシクロフォスファミドと比較し同等、再発例に限れば優れていました。
(18ヶ月)
 
では、安全性は?
 
(症例は架空です)
 
 
<このブログにて>
以前、RAVE試験について6ヶ月後、18ヶ月後の成績をまとめていました。安全性なら長期がいいので18ヶ月後のデータをみてみます。
 
Adverse events
・副作用は期間中ITTで解析されたが、18ヶ月後までの総AEs、重症AEs、疾患に関わらないAEsの数・率とも有意な差はなかった (Table S3 in the Supplementary Appendix)。少なくとも一つ以上の重症or疾患に関連しないAEsの数に差はなかった。死亡が4例あり、各々2例ずつ (see the Supplementary Appendix)
 
・リ群の安全性をシ群と比較するために患者が各々の治療を受けている間におけるAEsを解析した (Table 2)。リ群ではシ群に比べ、Grade2以上の白血球減少(WBC<3000)が少なかった(5 vs 23, p<0.001)。Grade3以上の感染症の数・頻度に差はなかった。しかし、リ群では3人の患者に4回の肺炎が起きたのに対し、シ群では11例の患者に11回の肺炎が起きた(p=0.03);これらの全てが入院や静注抗生剤を要したわけではないが。白血球減少はシ群における用量調整の頻度を増やしたが、感染症や肺炎に明らかに関連したわけではなかった。
 
・血清IgG, IgA, IgMはベースライン、6ヶ月後,18ヶ月後において両群間で差はなかったし、これらの免疫グロブリンが低い患者の数も同様であった(Table S4 in the Supplementary Appendix)。またIgGが低いことと重症感染症の関連も有意ではなかった。Primary endpointを報告した後試験の終了期間まで新たな癌は発生していない (see the Supplementary Appendix)
 
→これでは、患者さんにお話しようにも、どんな副作用があるのかよく分かりません。
 
白血球減少(<30005%)と肺炎(3例に4回、全例の3%)はリツキサンで有意に少ないようです。
 
重症感染症12%)の詳細、2例の死因について知りたいところですが、詳細が分かりません。
 
→何度も登場してくる、Supplementary Appendixには記載されているのでしょうか。
 
 
Supplementary appendixを読む>
Supplementary appendixの直訳は「補足の付録」になります。Methodの詳細や論文に入りきらなかったResultsの一部を記載しているものです。
 
まずは、PubmedRAVE-18mosアブストラクトを出します。
 
右上のNEJM FREE FULL TEXTをクリックします。
 
右のTOOLSボックスのsupplementary materialSupplementary Appendixとクリックしていくと、PDFがゲットできます。
 
 
リツキサン投与後に死亡した2例の詳細の情報を得ました。
 
Deaths in RAVE
 
Patient 1) 65歳男性のPR3+GPA、再発例。
ベースラインにて耳、鼻、咽頭病変あり、腎炎、肺胞出血を呈した重症再発例。RTXに割りつけられDay1,7,14に投与されたが早期無効と判断され、最善の医療的判断に移行。エンドキサン内服に変更されたが、3週間内服後に汎血球減少→E. faecalis感染症、呼吸器感染、Enterococcus+E coliの敗血症を来たしDay64に死亡。
 
Patient 4) 78歳女性のMPO+MPA、再発例。
ベースラインにて重症の再発。RTXに割りつけられ、6ヶ月、12ヶ月の時点でCRになり、15ヶ月まで維持された。16ヶ月の時点で重症の再発(腎炎、肺胞出血)を来たした。Open-labelRTXが開始されたが、早期の改善がなかったため最善の医療的判断に移行。血漿交換、IVCY1回を受けたが、重症再発から7週間後に呼吸不全で死亡。全身感染症、肺感染症の証拠はなし。死因は治療と無関係に思えた。死亡の原因となった重症の再発が患者が最善の医療的判断にスイッチするよりも早かったため、この死亡は論文のTable2に含められた。脱落日の54日後の死亡であったが。
 
 
Malignancies in RAVE
RAVEPrimary endpointの報告において6ヶ月を超える出版時において発生した全ての悪性腫瘍の詳細なリストと解析結果を提供した。その報告時と試験の完了時との間で新たな悪性腫瘍は発生しなかった。
 
→悪性腫瘍の詳細は6ヶ月の論文にあります。
 
N Engl J Med. 2010 Jul 15;363(3):221-32.
Rituximab versus cyclophosphamide for ANCA-associated vasculitis.
Stone JH, et al.
 
試験の最初の6ヶ月間、固型癌は各々1例ずつ;コントロール群2例、リツキシマブ群1例が死亡した。
6ヶ月後以降、6例の悪性腫瘍が5例に発生した。それらの患者の4例は最初にリツキシマブに割りつけられ、1例がシクロフォスファミドに割りつけられていた。リツキシマブを投与された患者の固型癌のタイプは甲状腺乳頭癌(1例)、子宮癌(1例)、前立腺癌(1例)、大腸癌(2例)、膀胱癌(1例)、肺癌(1例)。シクロフォスファミドを投与された患者では前立腺癌(1例)、肺癌(1例)。リツキシマブに曝露された患者において悪性腫瘍は124例中6例(5%)、リツキシマブに曝露されていない患者73例中1例(1%)と比較し有意差はなかった(p=0.26)。前立腺癌の2例を除くと悪性腫瘍を発生した全例が癌のリスクを高めることが知られている薬剤の少なくとも2剤に曝露されていた(シクロフォスファミド、アザチオプリン、メトトレキサート)。
 
→これ以降、悪性腫瘍は発生していないので、リツキシマブ6例に7回、シクロフォスファミド2例に2回となりますが、ここはなぜか有意差検定はなされていないようです。
 
 
また、副作用の詳細はこの6ヶ月時の論文にあるものが最も詳しいようです。18ヶ月時の報告になかったもののみ追加します。
血小板減少(Plt<5万);リツキシマブ3例、シクロフォスファミド1
静脈血栓症;リツキシマブ6例、シクロフォスファミド9
 
 
< まとめ >
入手できるリツキシマブ群における安全性のデータをまとめました。()はシクロフォスファミド。
 
18ヶ月時
白血球減少;<30005%23%p<0.001
肺炎;3例に4回、全例の3%11例に11回、全体の11%p=0.03
重症感染症12%11%NS
悪性腫瘍;6例に7回(2例に2回;有意差検定はなされていない)
 
6ヶ月時
血小板減少(Plt<5万); 3例(1例)
静脈血栓症6例(9例)
 
 
Scenario caseの経過>
リツキシマブの18ヶ月の臨床試験において、報告された安全性に関するデータを説明した。
 
死亡 2%(2例;敗血症とGPA再発)
悪性腫瘍 6%
重症感染症 12%
肺炎 3%
白血球減少 5% (<3000)
※血小板減少 3%(<5万、6ヶ月の時点)
 
この臨床試験では、ステロイドは比較的速やかに減量されたものであり(↓URLTreatments - ステロイドの詳細)、今後の病状によってはこの通りではないかもしれないこと、ステロイドが増えた場合は感染症はこれよりも増える可能性があることを付け加えた。
 

 

ps;↓でEGPA診断に関するreviewを執筆させていただきました!

 


 

 

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