リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

抗Mi-2抗体と抗TIF1γ抗体ーIPに関連しない筋炎特異抗体ー

<Clinical Scenario>
皮膚筋炎疑いの60代男性が入院した。
 
筋力低下は三角筋腸腰筋が3/3、首の屈曲が3。
 
CK 6000台。筋電図;筋原性。筋生検;pending
 
間質性肺炎なし。悪性腫瘍の検索にてそれらしい所見はなし。
 
入院時に提出した抗ARS抗体、抗Jo-1抗体は陰性であった。CADMらしくはなかったので、抗CADM-140抗体(抗MDA-5抗体)の測定は依頼しなかった。
 
 
< 疑問、発生! >
間質性肺炎に関連する抗体は良く知られているが(抗MDA-5, 抗ARS抗体)、間質性肺炎がない場合に検討すべき自己抗体は?
 
 
<まずは・・・>
freeで読める平形先生のPM/DMにおける自己抗体の臨床免疫学的意義を読みます。
 
このなかで、抗Mi-2抗体、抗p155抗体では間質性肺炎が少ないという記載があります。
 
 
< Uptodate 
・抗Mi-2抗体 - 抗Mi-2抗体は転写の活動性に関連するヘリカーゼに対する抗体。DM患者においてMi-2抗体はコーカシアンの約7%、中央アメリカの約30%に存在する。比較的急性発症のDMに関連し、伝統的にショールサイン、Vサインと関連する。治療への反応は良好である。
 
155kDの蛋白に対する抗体が筋炎を有する244例中51例 (21%)で見つかった;陽性患者のほとんどがDMの臨床型だった。その他の膠原病では108例中1例、健常人コントロールではゼロ。この抗体を有するコーカシアンの患者はユニークなHLAの危険因子、HLA-DQA1*0301を有した。Vサインの皮疹の頻度が高かった。この抗体を有する患者は臨床的に抗ARS抗体を有する患者とは異なった。
155/140抗体として知られるこの筋炎特異的自己抗体は155kDの核蛋白のtranscriptional intermediary factor (TIF) -1γとの反応性を有し、しばしば140kDのTIF-1αも有する。TIF-1βとの反応も起きてよい。それは日本人の患者でも報告されている。155/140抗体は皮膚筋炎52例中7例(13%)で検出されるが、多発性筋炎、SLE、強皮症、特発性間質性肺炎の患者ではゼロ。155/140抗体は臨床的に多発性筋炎よりも成人・若年のDMと強く関連する。そして悪性腫瘍と関連する。鞭を打ったような紅斑(Flagellate erythema)、伝統的な皮膚筋炎の所見であるゴットロン丘疹、ヘリオトロープ疹があってもよい。
 
→ 日本人の大規模データがほしいところです。
 
 
Pubmed
pubmedでmi-2 dermatomyositis japanese を検索します。
  
(1) Clinical Correlations With Dermatomyositis-Specific Autoantibodies in Adult Japanese Patients With Dermatomyositis
A Multicenter Cross-sectional Study
 
Objective: To clarify the association of clinical and prognostic features with dermatomyositis (DM)- specific autoantibodies (Abs) in adult Japanese patients with DM.
日本人の皮膚筋炎(DM)患者における、皮膚筋炎特異的自己抗体の臨床的所見と予後に関する所見を明らかにすること
 
Design: Retrospective study. 後ろ向き研究
 
Setting: 金沢大学病院皮膚科学と関連施設
 
Patients: 当院と関連施設を2003-2008年に受診した連続的な成人DM患者376
 
Main Outcome Measures: Mi-2, 155/140, CADM-140に対する自己抗体を含む皮膚筋炎に特異的な自己抗体を有する成人DM患者臨床的特徴、およびラボの特徴
 
Results: 皮膚筋炎の患者において抗Mi-2, 155/140, CADM-140抗体 は各々9 (2%), 25(7%), and 43(11%)。これらの皮膚筋炎特異的自己抗体はmutuallyに排他的であり、多発性筋炎34例、強皮症326例、SLE97例では一例も検出されなかった。抗Mi-2間質性肺炎や悪性腫瘍を持たない典型的なDM患者と関連していた。抗155/140抗体は悪性腫瘍と関連していた。CADM-140抗体はしばしばCADMと急速進行性間質性肺炎と関連した。累積生存率は抗155/140、抗CADM140抗体よりも抗Mi-2抗体で良かった(ともにP<.01)。抗CADM140抗体を有する患者における死亡はほとんどすべて診断から1年以内だった。
 
Conclusion: 皮膚筋炎特異的な自己抗体は臨床的にはっきり区別される型を特定する。皮膚筋炎の患者における臨床的な予後を予測するのに有用。
 
 
以下、興味深いTableです(※はリウマトロジストのコメント)
 
Table 1 膠原病における筋炎特異的自己抗体の頻度
 
イメージ 1
 
※皮膚筋炎患者376例(DM325例、CADM51例)のうち、
・抗Mi-2抗体は2%、抗155/140抗体は7%。
・何らかの特異的抗体を持つ割合は167/376=44%。
 
Table 2.
DM患者における抗Mi-2, 155/140, CADM-140抗体の有無による悪性腫瘍と間質性肺炎
 
イメージ 2
 
※ 抗Mi-2抗体があれば、IPはほぼない(IPは1/11 = 9%のみ)。
  抗155/140抗体があれば、IPはほぼない(IPは3/25 = 12%のみ)。
  抗155/140抗体があれば、悪性腫瘍が68%。
 
 
 
(2) Analysis of dermatomyositis-specific autoantibodies and clinical characteristics in Japanese patients. J Dermatol 2011;38(10):973-9.
 
 
nが(1)より少ないので、(1)で十分でしょう。この論文で学べたことは155/140抗体は皮膚筋炎を持たない悪性腫瘍の患者では陽性にならないということでした。
 
 
<Clinical Scenarioの経過>
悪性腫瘍を認めなかったため、抗Mi-2抗体の測定を依頼することにした。
 
155/140抗体は悪性腫瘍と関連するが、100-68%=32%は関連しないので、これも測定を依頼することとした。
 
ステロイド+アザチオプリンによる治療に反応が悪く、SRP抗体を追加したが、陰性であった。
 
1年後、検査結果が返ってきた。なんと、

抗Tif1-α・β・γがいずれも陽性であった。1年に1回の悪性腫瘍のスクリーニングを行うことにした。