リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

神経精神SLE(NPSLE)の唯一のRCT - Result & Discussion -

NPSLEに対する世界で唯一のRCTを読んでおります。
 
この度はResults, Discussionを訳します。
 
※Patients and Methodsは以下へ
 
 
Controlled clinical trial of IV cyclophosphamide versus IV methylprednisolone in severe neurological manifestations in systemic lupus erythematosus.
Ann Rheum Dis. 2005 Apr;64(4):620-5.
Barile-Fabris L et al.
 
RESULTS
38例の偶発的な神経精神症状を有する38例の患者のうち、32例(女性30例、男性2例)を登録した。6例は血栓症による神経精神イベントであったため除外された。32例は主に若い患者で疾患の期間が短かった。19例がCy13例がMPの投与を受けた。臨床的な特徴は両群で同様(Table 1)。2例では神経精神症状が最初の疾患の症状であった。Table 2SLEの神経外症状を示す。
 
Disease activity
SLEDAIの中央値はCy10MP14。平均のプレドニゾン投与量は少なくとも40mg/日。Table 3は各治療における異なる神経精神症状の分布を示す。もっともコモンな神経精神症状は痙攣で11例。次に末梢神経障害と視神経炎;残りの神経精神症状は各々4例かそれ以下だった。
 
(Table 3)
 
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全部で反応した割合は75%32例中24例が治療に反応し、治療の失敗は8例のみ。Figure 1は各治療群における治療への反応を示す。治療失敗のほとんどはMP群で見られ、Cy群では1例のみ(p<0.001, Fisher’s exact test)回復またはフルの反応は両群とも平均で5カ月目にみられた。
 
 
(Figure 1) フォロー中の患者のアウトカム
 
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痙攣は私たちの最終データの中で最もコモンだった。統計学的有意差が痙攣だけに関連したものなのか、または全ての神経精神症状に関連したものなのかを調べるため、私たちは4つの層を考えた。
 
(a) only seizures;
(b) peripheral neuropathy;
(c) transverse myelitis and optic neuritis added
(d) the remaining cases, seen in two patients or fewer, included.
 
全体的にp0.002の有意性は持続した。いかなる特定の層においても違いはなかった。
 
Response variables in the different clinical subgroups
Seizures
Figures 2ABは痙攣の数の中央値を示す。全ての患者が全身性発作型で10例は強直間代性(大発作)、1例が欠神発作(小発作)。Cy群では月当たりの痙攣数が有意に低下するを観察した。Cy群の全ての患者が脳電図上改善を示し、てんかんの病巣の消失で示されるか、全体的な脳波リズムのパターンの改善で示された。一方、MP群の5例中改善したのは2例だけだった。
 
 
(Figure 2A, B)
 
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Optic neuritis
視神経炎を呈した5例のうちCy群の4例では、視神経機能は25%から75%まで改善した。全ての患者が最初は1mの距離で指の本数を数えれる程度の視力だったが、2例は1年の治療後に20/40まで改善した。残りの2例は20/70, 20/80の視力を持ち続けた。MP群では改善は見られなかった。
 
Transverse myelitis
横断性脊髄炎の2例はMP群だった。1例目はBirth controlにも関わらず4カ月目までに妊娠した。そのため、彼女は早期に治療中止になった;彼女の脱落までに彼女は改善しつつあった。2例目はMP3ヶ月毎にスイッチされるまでに2年の治療を終了した。彼女の神経学的症状は再発し、毎月のパルスを2ヶ月、その後2ヶ月毎のパルスをもう4ヶ月受けた。肛門括約筋のコントロール6ヶ月目に改善し、膀胱括約筋のコントロールは部分的に改善したのみであった。彼女の神経陰性膀胱は治らなかった。
その他の3例はCyを投与された。2例は死亡した。1例は重症病態(Evans’s syndrome)のため。もう1例は最初は改善したものの、5回のパルス後に治療を中止した。その後、腹部の血管炎を起こし死亡した。3例目は24カ月の治療を済ませ、現在では歩けるようになり、膀胱括約筋のコントロールが一部できる程度である。
 
Peripheral neuropathy
末梢神経障害の4例はCyに割り当てられた;そのうち3例は筋電図所見、感覚と筋力スケール(figs 3 and 4)とも改善し、1例では治療は失敗した。
3例がMPを投与された。そのうち1例は治療失敗のサインがフォローの6ヶ月目にみられ、もう1例は同意を拒んだため早期に治療中止された。最後の患者は膵炎の副作用を経験し、5ヶ月のフォローにて脱落する原因となった。
 
Brainstem disease
各群1例ずつが脳幹疾患を有した。MPを投与された1例は治療に失敗し、誘発電位にて構造的な異常を来たした。Cyを投与された患者は改善した。誘発電位は構造的な脳幹のダメージに一致したが、治療後に正常化し、12ヶ月の評価時においても正常とされた。
 
Coma
各群1例ずつが昏睡を呈した。いずれも最初の治療15日以内に改善した。
 
Nuclear ophthalmoplegia
Cy群の1例が核性眼筋まひを有した。彼女は改善したが、感染症を併発したため治療は一時中断された。その後彼女は髄膜刺激症状、痙攣を来たし、死亡した。
 
7(22%)の患者がMRI異常を呈した。もっともコモンな所見はT2強調画像において高信号のプラークであり3例にみられた(1例は昏睡、1例は脳幹疾患、もう1例は痙攣)。4例は皮質の萎縮。7例中3例が治療1年後にはMRIが正常化した。その3例はCyを投与されていたー1例が脳幹疾患、1例が昏睡、1例が痙攣。
 
個々の変数を解析した際、リンパ球、ヘモグロビン、白血球、好中球数において大きな違いは見られなかった。私たちが統計学的に有意な違いを見つけたのは第3ヶ月目までのプレドニゾンの必要、SLEDAIの中央値であり、いずれもCy群に良い結果であった(Table 4)
 
(Table 4)
 
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興味深いことに髄液の血糖値と蛋白は基本的に中枢神経障害を有する患者全てにおいて正常であった(血糖3.6 (1.6) mmol/l, 蛋白0.28 (0.15) g/l)。
 
両群間に副作用に関して有意な違いはみられなかった (table 5)。最もコモンな副作用は消化管と上気道の感染症。二つの主な副作用がMP群に起き(膵炎とコントロール不能の高血圧)、プロトコールから脱落した。Cy群の患者で主な副作用のために早期に治療を中止した患者はいなかった。
 
CySLEDAIのような特異的な疾患活動性の測定、またステロイドの減量効果に関して有利な効果を出した。またいずれもMP群と比較し、統計学的に有意差があった (table 4)。疾患によるダメージに関して、全身性ループス国際協力クリニック(SLICC)の測定法は試験開始時にCy0.88MP0.82であったが、フォロー終了時には0.720.80まで改善した;有意差まではいかなかったが、Cyでより下がる傾向があった。
 
15例は2年までのプロトコールを完遂することができた:Cyを投与された12例、MP群では3例のみであった。MPを受けた患者は全例、2年間で再燃時に毎月のパルス療法を少なくとも1回は受けなければならなかった。1例は横断性脊髄炎、残り2例は神経学的症状以外のために。
 
 
DISCUSSION
この研究において私たちは長期の比較試験を行った。偶発的なケースを含み、二つの施設でサンプルはバランスがとれていた。私たちの結果ではCyMPよりも有意に有効であった。Cyは明らかに痙攣、末梢神経障害、視神経炎、脳幹疾患の患者では良かった。昏睡と横断性脊髄炎では違いは明らかでなかった。
 
治療の失敗はCy群で1/19MP群で7/13で、この違いは有意であった。加えて、MP群では治療が3ヶ月毎に変更された時に神経学的にも神経外的にも再発がよく見られた。両群において副作用は同様であった。
 
最近まで、神経精神ループスの治療は広範囲に不均一であった。その原因は神経精神症状の幅の広さ、再発性の経過、比較試験で代表となりうるサンプルを集めることの難しさによる。それゆえ、私たちの研究はSLEの稀な比較試験の一つとなる。
 
神経精神症SLEの免疫抑制療法に対する臨床的反応を調べた研究はほとんどが一例か数例の短期間の報告であった(一般に10例を超えない)。またほとんどが長期のアウトカムと持続的な治療の必要性を評価できていなかった (table 6)
 
最近、コクラン研究グループがNPSLEにおけるMP vs Cyの効果に関するメタ解析を行ったが、解析に含むことができる比較試験をひとつも見つけることができなかった。
 
私たちの研究は再発のない理想的な改善を得るためにCyによる治療を2年間続けるべきであることを示唆した。
 
私たちのグループは過去に50例以上の神経精神SLEコホートにおける長期間のアウトカムを報告した;免疫抑制療法を12ヶ月以上継続する前に中止するか否かに関わらず、再発を起こしやすかった。これは生物学的にはもっともらしいと思われる。なぜなら、腎臓のようなその他の腫瘍臓器では長期の生存を改善したり腎不全への進展を予防するために少なくとも2年の治療を必要とするからだ。
 
異なる神経精神症状の亜型によって臨床反応の違いが見られることは病因的メカニズムの違いで説明できるかもしれない。いくつかの病因メカニズムが多彩な臨床症状において役割を持っていることが示唆されている。脳循環を障害する真の血管炎のプロセスは脳の微少循環の変化よりも稀である。いずれの場合も脳の内皮細胞が病因メカニズムのターゲットになるが。
 
この研究はいくつかの制限がある。当初はより大きなサンプルで研究する計画であったが、32例しか研究しなかった。最初に登録した患者たちをフォローする間に評価にはまだ早い4ヶ月という時期においてMP群における治療失敗の割合が許容できないほど高い事が明らかになったためだ。そのため、この研究にさらなる患者を登録することは倫理的でないように思え、プロトコールのルールに応じ早期に患者の登録を中止した。結語として、この初期の研究においてCyは重症の神経精神SLEの治療においてMPよりも有効であるようであった。神経精神SLEにおけるCYの良い効果を記述するためにはより大規模な研究が必要である。
 
 
<批判的吟味>
 
恐れ多いのですが、批判的吟味をしてみます。
 
※ SPELLの「ランダム化比較試験」を参考にしております。
 
P; 神経精神SLEの患者において
E; エンドキサンパルス療法は
C; メチルプレドニゾロンパルス療法と比べ、
O; 神経学的な異常を2割以上改善させるか
 
・センターで、ブロックを用いてランダムに割り付けられている。
・Baselineのデータは臨床的な差はないが、神経学的異常の差はある(Table 3)。
・全ての患者のアウトカムは解析に反映されている(figure1)。
・ITT解析である。
・マスキングはなされていない。
・症例数は十分でない。サンプルは計算されていたかは不明であるが、倫理規定により患者登録を中止した(Discussionの最後のパラグラフ)。
・改善はCyで18/19、MPで6/13(p<0.001)
・NNT = 1/(0.947-0.461) = 2.05 → NNT = 3
 
 

 

 

ps

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