リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

SLEの横断性脊髄炎① - イギリスの15例 -

Clinical Scenario
尿閉にて来院したSLE患者、28歳女性。
 
ステロイドパルス療法を開始して2日目、
 
両下肢が動かしにくいという症状が出現。
 
よく問診してみると、3週間前から歩行が難しかったと。
 
下肢のDTR亢進、Babinski+/+、Chaddock+/+を認めた。
 
脊髄MRIはPoor studyながら脊髄炎の可能性あり。
 
下肢脱力は2日でほぼ膝立てができないほど急速に進行した。
 
SLEの横断性脊髄炎と診断した。
 
(症例は架空です)
 
 
< 疑問発生!>
横断性脊髄炎について勉強しよう。
 
 
Uptodate
Uptodateにてlupus transversemyelitisを検索し、Neurologicmanifestations of systemic lupus erythematosusを読みます。Ctrl+FにてTransversemyelitisを検索して見出しを引っ張ってきます。
 
Transverse myelitis —
横断性脊髄炎(TMと略します)は下肢の筋力低下and/or感覚障害、直腸と膀胱括約筋コントロールの損失が突然に出現する患者において知られる。TMの症状はSLEの初発症状かもしれないが、通常は活動性ループスのその他の所見と同期する。視神経炎を含む。
この症候群は脊髄の動脈炎による虚血性壊死の結果と考えられる。いくつかの研究によると抗リン脂質抗体(aPL)と関連するとされたが[114]、その他のシリーズではTMの有無によってaPLの発生頻度に差を認めていない[112]。脊髄症は血管腫、腫瘍、骨折、ヘルニア、感染症、血管閉塞、脱髄や硬膜外膿瘍でも起きうる。
 
感染症やその他の原因による圧迫病変を除外するためにMRIをとるべきだ。SLETMの患者はMRIにてT2 highの限局性の浮腫を有する[74,115,116]感染症を除外するために髄液検査を行う;SLEでは典型的には蛋白上昇と中等度のリンパ球上昇がある。
 
脊髄症の再発はよくあり、とくにステロイドを減量する間の最初の年に多い。
 
NMO-IgG抗体陽性の脊髄視神経炎(NMO)スペクトラム(両側性の視神経炎とTMを伴う)はSLEと抗リン脂質抗体症候の患者に起きるが、その抗体があれば医師はSLEによる血管炎やその他の合併症と考えるよりも、NMOを合併している所見と考えるべきだ。
 
Treatment — TMは有意に改善するように積極的に速やかに治療しなければならない。私たちやその他の医師は限られた人数ではあるが、PSN 1.5mg/kg血漿交換、シクロフォスファミドによる治療で成功している[74,112,114,118].105例のレビューでは50%が完全に、29%が部分的に回復した[114]
 
aPLを有するTMの患者ではステロイドと免疫抑制療法にワーファリンを加えることで良いアウトカムが得られるかもしれない。
 
 
Uptodateの孫引き>
(ref 74)
Ann Rheum Dis. 2010 Dec;69(12):2074-82.
EULAR recommendations for the management of systemic lupuserythematosus with neuropsychiatric manifestations: report of a task force ofthe EULAR standing committee for clinical affairs.
Bertsias GK, et al.
 
中枢神経ループスにおけるEULARrecommendationです。Myelopathyを読みます。
 
Myelopathy
SLE脊髄症は急速な横断性脊髄炎を呈するが、虚血性・血栓性の脊髄症も起きうる。
・患者は灰白質病変(下肢の運動ニューロン)の障害のサイン(下肢の弛緩と反射低下)を呈するか、白質(上位運動ニューロン)の障害(痙性麻痺、反射亢進);後者はより脊髄視神経炎NMOと抗リン脂質と関連する。その他の主なNPSLEの所見は1/3で見られ、視神経炎が最も多い(21-48%)。
・脊髄の造影MRIは脊髄の圧迫を除外するために有用であり、T2 high lesionを認めるのに有用(70–93%)。3椎体を超える病変は縦断性の脊髄症を示唆する。この所見は血清NMO IgG(アクアポリン)抗体の検出とともに研究され、NMOの併存を診断するのに役立つ。
・脳MRIはその他のNPSLEの症状やサインがあるときには施行すべきである。軽度から中等度のCSF異常がよくあるが(50–70%)、特異的な所見ではないため培養検査が感染性脊髄炎を除外するために必要である。髄膜炎(細菌性または単純ヘルペス)のような強い炎症を呈するCSFは抗生剤・抗ウイルス剤の治療を要するが、MRIでの確認を待つ間、高用量ステロイドを早期に使用し、感染症の除外ができれば継続する。
・メチルプレドニゾロン静注、シクロフォスファミド静注は最初の2-3時間の間の早期に用いればSLEの脊髄炎に有効かもしれないが、神経学的な反応はMRIの改善と並行して2-3日から3週間にかけて起きる。
・再発はステロイド減量中よくあり(50–60%)、これは免疫抑制の維持療法の必要性を強調する。血漿交換療法が重症例に用いられてきた。
aPL陽性の脊髄症に抗凝固療法もよい結果が報告されている。
・重症の神経障害に関連する因子はMRIにおける広範囲の脊髄病変、初診時の筋力や括約筋不全、aPL、治療の遅れ(>2週間)。
 
(ref 74) のまとめ;予後不良因子は
MRIにおける広範囲の脊髄病変、
・初診時の筋力や括約筋不全、
aPL
・治療の遅れ(>2週間)。
 
 
(ref 113)
Transverse myelitis as the first manifestation of systemic lupuserythematosus or lupus-like disease: good functional outcome and relevance ofantiphospholipid antibodies.
J Rheumatol. 2004 Feb;31(2):280-5.
D'Cruz DP, et al
 
イギリスの15例のシリーズ
 
・ループスクリニックを受診した過去10年間のTM15例;初診時にSLE基準を満たしたのは4例のみ。累積的に12例がSLEと分類された。
TMは脊髄病変による特徴的な臨床所見で診断された。臨床的・画像的に記述された感覚障害または運動障害、括約筋障害。
・痙性不全対まひが最も多く(11例)、2例ずつ四肢不全まひ、単不全まひ。14例が感覚レベルを有した:8例が胸髄、3例が頸髄、1例が仙髄、1例は非対称性の頸部と胸部の感覚レベルであった。
・神経陰性膀胱のような括約筋障害を22例に認めた。
・髄液検査は細胞数はリンパ球増多を示した2例を除き正常。蛋白上昇が3例にみられた。オリゴクローナルバンドがこの検査を行われた11例中8例にみられた。髄液培養と最近の血清学的検査は陰性。
14例が脊髄MRIを受け、13例が異常。2例は臨床上の神経学的欠損に関連する病変がなかった。
SLEまたはLupus-like diseaseの臨床所見を同定した。TM発症時ACR基準を満たしたのは4例だけだったが。12例はSLEと分類可能、3例はLupus-like disease。ループス腎炎は1例においてTMの直後に発生した。11(73%)aPLを有した。初診時陰性だった2例は1例は持続的強陽性になり、もう一例は7年後に陽性化した。
・全例がステロイド投与を受けた;5例が高用量のプレドニゾロン」、10例が中等量(20-40mg)。13例は免疫抑制剤を併用した。11例が低用量のシクロフォスファミド静注(IVCY500mg)。後療法としてAZP7例、MTX1例。AZPMTXを初期治療としたのは3例と1例。一例では当初SLEが疑われなかったため抗結核療法とアシクロビルを使用した。この患者は後に静脈血栓症と肺塞栓を発症し、ワーファリンを要した。aPL陽性であった。aPL 陽性の11例中6例がアスピリンで治療され、5例がワーファリンで治療された。
15例中3例は完全寛解6例は良い機能に改善した。5例が少しの障害を残すがまずまずの機能、1例が肺炎のため死亡。この死亡はTMを繰り返し起こし、高位頸髄の脊髄軟化症と重症の四肢不全麻痺のため長期の人工呼吸器管理を要した。彼女は経口ステロイドのみで治療された。もう一例ステロイド単独で治療されたは左上肢の軽度の感覚障害が持続した。低用量IVCYを受けた11例の患者は3ヶ月以内に急速な反応があった。これに対し、他の3例は1例が死亡し、残り2例は症状の安定、または1年かけてゆっくりとした不完全な改善であった。
・加えてaPL陽性の11例中5例がワーファリンを投与され、ワーファリンとIVCYを受けた4例は素晴らしい機能アウトカムを得た。ワーファリンを投与されたが、免疫抑制剤を使わなかった患者5は肺炎で死亡という予後不良な結果であった。これらのaPLを有する4例はワーファリンをIVCYに追加することが有益かもしれないことを示唆する。aPL陽性の3例がステロイド・IVCYに加え、アスピリンを投与され予後が良かったことことも注目すべきであった。
 
Table 1
 
  症状(感覚は略) 治療(免疫抑制剤のみ) アウトカム
1 痙性四肢不全まひ MP1g*4, CYC*3AZA 完全回復
2 右下肢不全まひ、神経因性膀胱 Pred, CYC*6, AZA 正常に回復
3 痙性不全対まひ、神経因性膀胱 MP*3, CYC*3AZA 杖歩行、括約筋回復
4 痙性不全対まひ Pred high dose 平衡失調、括約筋回復
5 四肢不全まひ、両側ホルネル Pred 杖歩行;肺炎で死亡
6 痙性不全対まひ MP1g*3, CYC*6, AZA 杖歩行
7 痙性不全対まひ、括約筋不全 MP*3, CYC*6, MTX 歩行困難あるも改善。括約筋まひ
8 痙性不全対まひ、神経因性膀胱 CYC*6 常歩
9 痙性不全対まひ、神経因性膀胱 CYC*4 常歩行、軽度失調性
10 痙性不全対まひ、括約筋不全 MP*3, CYC*6 著名な改善。軽度の失調性歩行
11 左上肢筋力低下 MP*1, Pred, AZA75 左上肢のみ感覚損失
12 左上肢筋力低下 CYC*7, AZA, CyA 左上肢筋力低下
13 痙性不全対まひ、括約筋不全 MP*3, CYC*6, Pred, AZA 著名改善。正常歩
14 痙性下肢筋力低下、尿失禁 CYC*5, AZA 左下肢筋力低下、杖歩行
15 下肢緊張亢進 Pred20mg, AZA 完全回復
 
有意な運動障害は11例;不全対まひ8例、四肢不全まひ2例、右下肢不全まひ1例。
 それらの患者のアウトカムは正常歩5例、歩行可能(杖・失調など)5例、死亡1例。
 
→ref 113の治療のまとめ
15例中3例は完全寛解6例は良い機能、5例が少しの障害を残すがまずまずの機能に改善した。1例が肺炎のため死亡。
・低用量IVCYを受けた11例の患者は3ヶ月以内に急速な反応があった。aPL陽性の11例中5例がワーファリンを投与され、ワーファリンとIVCYを受けた4例は素晴らしい機能アウトカムを得た。
・ワーファリンを投与されたが、免疫抑制剤を使わなかった患者5は肺炎で死亡という予後不良な結果であった。
・これらのaPLを有する4例はワーファリンをIVCYに追加することが有益かもしれないことを示唆する。
 
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