リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

成人の炎症性筋症の分類②(sIBM、ASS、PM)

(つづき)
 
Lancet Neurol. 2018を訳しております
 
Sporadic inclusion-body myositis 孤発性封入体筋炎
その他の炎症性筋症と同様、SIBMの患者は筋力低下を起こし、通常CK上昇と慢性の筋原性パターンのEMG所見を呈する。しかしSIBMは様々な点で異なる。まずその他の炎症性筋症は女性が多いのに、封入体筋炎では男性が女性の2倍であるということ。

2つ目として封入体筋炎は通常50歳以上の患者に起きるが、その他の炎症性筋症の患者では50歳未満あるいは子供でも起きうる。3つ目としてSIBMの患者の多くが緩徐に進行し年単位で筋力低下を呈するということ。その他の炎症性筋症では週単位から月単位である。4つめにSIBMの患者の多くが非対称性の筋力低下を有するということ。その他の炎症性筋症の患者では原則対称性。5番目にSIBMの患者は通常顕著な膝伸展の筋力低下を有し、手指深部の屈曲、手の屈曲、足の背屈を含む末梢の筋力低下を有する;腕の外転と膝屈曲も障害されるが、しばしば末梢の筋力よりも強い。これとは反対にその他の炎症性筋症の患者は疾患が進行するまで末梢は障害されにくい。6番目として患者は進行性の嚥下障害を有し、誤嚥を来たしうる。ビデオ蛍光透視法で観察しうる。7番目にcytosolic 5ʹ-nucleotidase1A (NT5C1a)を認識する自己抗体がSIBM30-60%に見られるが、その他ではPM5-10%DM15-20%SLE10%SjS12%

その他のタイプの炎症性筋症と異なり、SIBMは筋炎特異抗体と関連していない。8番目に免疫抑制剤による治療がSIBMの患者に利益があるかどうかが分かっていないということ。その他の筋炎では通常、免疫抑制療法に反応するが。最後にその他の筋炎と異なり、SIBMは最も特徴的なMRI所見を有する;すなわち大腿の前部が最も重症であるといこと。
孤発性封入体筋炎の筋生検は組織学的にユニークである。すなわち炎症を伴い、ミトコンドリア不全、異常蛋白の集積がみられる。炎症細胞浸潤はCD8T細胞からなり、非壊死性の線維を取り囲むように浸潤する。これらの細胞はT細胞の侵襲性を表す表面マーカー、CD57を表現し、SIBMのほとんどの患者(22 [58%] of 38)T細胞大型顆粒リンパ球性白血病の基準を満たす。この関連性はまだ妥当化されていないが、難治性の経過、高齢者に起きることを説明するものであろう。生検部位の決定のため筋MRIを行うことは診断制度を上げるためSIBM、およびその他の筋炎において重要である。
チトクローム・オキシダーゼ陰性の筋線維の増加とragged-red fibresの存在がミトコンドリアの障害を示唆し、これが孤発性封入体筋炎において最も重要である。さらに孤発性封入体筋炎の患者の筋ではミトコンドリアDNAは激変し、mitochondrial fusion proteinsが無調整になっている。さらにミトコンドリアDNAの欠如の頻度もこれらの患者の筋で増加すると報告されている。
Gomori-trichrome染色で最も良く見ることができるRimmed vacuole(縁どられた空砲)はSIBMの患者の生検像の組織学的な特徴である。これがどうやって形成されるのかは分かっていない。しかし核膜蛋白がrimmed vacuolesの中に見つかっており、このことはこれらの空砲は変性した筋細胞の核の名残であることを示唆する。もう一つの研究はrimmed vacuoles中で集積した蛋白がタンパク質折り畳みとAutophagy(自食作用)に関係していることが示された。すなわちAutophagyの機能障害がそれらの形成に関連しているかもしれないことが示唆された。

さらに病態生理学的に診断に重要ないくつかの細胞質の封入体がSIBMの患者の筋生検で見つかっている。電子顕微鏡でみられるtubofilamentous inclusionから封入体筋炎の名前が付けられた。細胞質のアミロイドの集積がCongo redと偏光顕微鏡で視覚化される。これらの構造はβ-amyloidrelatedand amyloidogenic-related molecules β-secretase 1 andγ-secretaseであり、SIBMの患者の結晶で増加している。その他の蛋白の細胞質内の集積も見つかっている。

SIBMに特異的ではないが、抗NT5C1a自己抗体がこれらの患者の重症度、死亡率の増加に関連する。さらに抗NT5C1a抗体は筋の障害に直接かかわっているかもしれない。そのためそのような自己抗体の存在と筋生検組織における侵襲T細胞の存在は自己免疫がSIBMの病理に関わっているかもしれないことを示唆する。あるいは細胞質の封入体の存在は根底にある変性疾患のプロセスによって疾患が進行することを示唆するものかもしれない。この仮説は免疫抑制療法がSIBMの患者に有効でない意見を支持する。治療戦略を成功させるために免疫をターゲットとするべきのか、蛋白集積をターゲットとするべきなのか、あるいはその両者なのかということは今後の研究が解明するであろう。
 
Overlap myositis
Overlap myositisはその他の膠原病に合併する自己免疫筋症のひとつの型である。自己免疫性の筋症はSLERASjS、強皮症のようなその他の自己免疫疾患の所見を呈する患者にも起きる。これらの多くの患者が特徴的なフェノタイプに関連する自己抗体を有する。

もともと代表的なOverlap myositisの型がアミノ酸をその対応するtRNAと結合させる酵素、アミノアシルtRNA合成酵素をターゲットとした自己抗体を有する抗合成酵素症候群(ASS)である。histidyl tRNA synthetase (anti-Jo1),threonyl tRNA synthetase (anti-PL7), and alanyl tRNA synthetase (anti-PL12)に対する自己抗体が最もコモン。これらのうちひとつの自己抗体を有し、典型的には炎症性筋症、間質性肺炎、関節炎、レイノー症候群、発熱、機械工の手として知られる撓側の手指の過角化性病変のうち一つ以上を呈する患者はASSを有すると定義することができる。ASSの患者は皮膚筋炎に似た皮膚所見も呈しうる。とくにすべてではないがASSの患者は筋力低下を有する。とくに抗Jo-1抗体を有する患者の約90%が炎症性筋症を有し、抗PL12抗体の患者の50%までが筋炎のない間質性肺疾患を有する。さらに抗Jo-1抗体陽性の患者は抗PL7、抗PL12抗体の患者よりも重症の筋力低下を呈する。一方、抗PL7、抗PL12抗体の患者はより重症の肺疾患を有する。

ASSの筋症は近位筋の筋力低下、筋原性酵素の上昇、筋原性のEMG所見のような皮膚筋炎の臨床所見と同様である。ASSの患者はしばしば筋内のT2強調MRI画像で高信号域を有するが、特異的なMRI所見は分かっていない。筋生検は皮膚筋炎に似た筋束周囲の萎縮を呈しうる。しかし皮膚筋炎と比べASS患者の筋生検は筋束周囲の壊死線維の増加を示しうる。さらにこれらの生検のほとんどがnuclearactin aggregation(核アクチンの集積)を示し、これはその他の炎症性筋症ではみられない電顕所見である。しかしASSの自己免疫を何がトリガーして維持しているのかについては分かっておらず、さらなる研究が必要である。

polymyositis-Scl抗体や抗Ku抗体は強皮症の炎症性筋症に関連する。同様に抗U1RNP抗体陽性の結合組織病患者は手指の皮膚硬化のような別の全身性強皮症の筋炎を有する。これらの患者は糸球体腎炎のようなSLE様の症状(通常抗DNA抗体に関連)をも呈しうる。SIBMは遺伝的背景を有する女性においてSjSと関連しうる。
 
Polymyositis多発性筋炎
多発性筋炎(PM)は上述のグループ(DMIMNMOverlap myositisSIBM)を有さない場合で筋力低下、CK上昇、筋原性のEMG所見、筋生検における炎症性CD8T細胞浸潤の存在で定義される。かつてPMと分類された多くの患者が今では臨床的所見、血清学的所見、筋生検の組織所見に応じて皮疹のないASSIMNMSIBMと考えられるかもしれない。真のPMと考えられる患者においても、PMの状況は除外診断である。これらの患者はその他の診断を提供する新たな臨床所見が出てこないか短期間でモニターされるべきである。

 

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