リウマチ膠原病のQ&A

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IgG4関連疾患の包括的診断基準(2011)

Mod Rheumatol. 2012 Feb;22(1):21-30.
Comprehensive diagnostic criteria for IgG4-related disease (IgG4-RD), 2011.
 
Abstract
BACKGROUND:
IgG4関連疾患(IgG4-RD)は血清IgG4高値、IgG4+の形質細胞の組織浸潤による腫大を特徴とする新たな臨床疾患概念である。IgG4関連疾患は稀ではなく、臨床的に重要な疾患であるが、その臨床的診断基準は確立されていない。様々な臓器障害を含むIgG4-RDの包括的診断基準は総合医と非専門医にとって実臨床での使用を目的としたものである。
 
METHODS:
ふたつのIgG4関連疾患のグループ、UmeharaOkazakiチームが厚生労働省によって組織された。IgG4-RDが様々な疾患を包括したものであるため、これらのグループは日本中の様々な分野の医師と研究者からなった。その領域はリウマチ学、血液学、消化器学、腎臓病学、呼吸器病学、眼科学、歯科学、病理学、統計学、基礎免疫・分子免疫学。Umeharaチームは66名、Okazakiチームは56名からなる。この二つの研究グループの共同研究によってIgG4-RDの臨床症状、ラボデータ、生検組織を詳細に解析し、IgG4-RDの包括的診断基準が完成した。
 
RESULTS:
IgG4-RDの患者の多くがいくつかの臓器障害を同時・異時性に呈し、各々の臓器の病理所見は異なったが、二つの診断項目についてコンセンサスが得られた: (1) 血清IgG4 concentration >135 mg/dl, and (2) IgG+の形質細胞の>40%IgG4+であり、生検組織においてIgG4+形質細胞が>10 cells/high powered fieldあること。包括的診断基準は1IgG4関連自己免疫性膵炎(IgG4-related AIP)の診断に十分感度が高いものではないが、IgG4関連ミクリッツ病とIgG4関連腎臓病の診断には十分感度が高かった。包括的診断基準と臓器特異的診断基準を合わせると、IgG4関連ミクリッツ病、腎臓病、自己免疫性膵炎における感度は100%になった。
 
CONCLUSION:
私たちのIgG4関連包括的診断基準は総合医と非専門医が実臨床で使用する上で役立つものである。
 
 
 
Table 4 Comprehensive diagnostic criteria for IgG4-related disease, 2011
 
I. 概念
IgG4関連疾患(IgG4-RD) は多臓器に同時・異時性に臓器の腫大、あるいは結節状・過形成性病変を来たす疾患である。原因は原因不明の線維化とリンパ球とIgG4+形質細胞の著名な浸潤によるもの。IgG4-RD膵臓、胆管、涙腺、唾液腺、中枢神経、甲状腺、肺、肝臓、消化管、腎臓、前立腺、後腹膜、動脈、リンパ節、皮膚、乳腺を含む様々な臓器を傷害する。IgG4-RDの患者の多くは同時性・異時性にいくつかの臓器病変を有するが、単一臓器を侵すこともある。臨床症状は障害される臓器によって異なり、臓器の腫大・肥厚による閉塞・圧排症状のような重症の合併症、細胞浸潤や線維化による臓器不全を呈する患者もいる。ステロイド治療がしばしば有効である。
 
II. IgG4-RDの包括的臨床診断基準
1. 臨床所見は単一または多臓器のびまん性・限局性の腫大や腫瘤が特徴的である。
 
2. 血液検査にて血清IgG4>135 mg/dl
 
3. 組織所見は以下のとおり:
(1) 著名なリンパ球・形質細胞の浸潤と線維化
 
(2) IgG4+形質細胞の浸潤;IgG4+/IgG+の細胞の比>40% AND IgG4+形質細胞>10/hpf
 
Definite: 1) + 2) + 3)
 
Probable: 1) + 3)
 
Possible: 1) + 2)
 
 
しかしながら、追加の組織学的検査を行うことによって、IgG4-RDを各臓器の悪性腫瘍(例;癌、リンパ腫)、類似した疾患(例;シェーグレン症候群、原発性硬化性胆管炎、キャッスルマン病、二次性の後腹膜線維症、ウェゲナー肉芽腫症、サルコイドーシス、Churg-Strauss症候群)と区別することは重要である。
患者が包括的診断基準を満たした時であっても、IgG4-RDの臓器特異的な診断基準を用いても診断されるかもしれない。
 
III. 注釈
1. 包括的診断基準は総合診療医とその他の非専門医を助けるための最低限のコンセンサスである。障害された臓器各々において、IgG4関連ミクリッツ病、IgG4関連自己免疫性膵炎、IgG4関連腎疾患のために作られた臓器特異的な診断基準を同時に用いられるべきだ。
 
2. 概念:
多巣性線維硬化症との違いは分からない。この疾患はIgG4-RDと同一かもしれないが。多くの患者が多臓器病変を示し、全身性の疾患を有することで特徴づけられる。単一の臓器のみにみられる患者もいるが。
 
(a) 自己免疫性膵炎、タイプ1 (IgG4関連自己免疫性膵炎): この病気はIgG4関連硬化性膵炎/リンパ形質細胞性硬化性膵炎(LPSP)と同義。日本厚生労働省が作った自己免疫性膵炎の臨床診断基準(日本膵臓学会、2006年)を用いても診断できる。
 
(b) IgG4関連硬化性胆管炎:この病気は肝内・肝外の胆管と胆嚢のびまん性または限局性の狭窄で特徴づけられる。円周状の壁肥厚が狭窄部位に見られ、狭窄がないところでも同様の変化を伴う。閉塞性黄疸がしばしば出現するため、この病気を胆管癌膵臓癌のような腫瘍、または原発性硬化性胆管炎と鑑別することが重要になる。明白な原因として二次性硬化性胆管炎を除外することも必要。
 
(c) IgG4関連涙腺、眼窩、唾液腺病変:この病気は涙腺、耳下腺、顎下腺、舌下腺、いくつかの小唾液腺の任意のものの対称性(ときに片側性)の腫脹で特徴づけられるIgG4関連ミクリッツ病を含む。結節性・浸潤性病変が涙腺以外の眼窩組織内で起きてもよい。IgG4関連ミクリッツ病はシェーグレン症候群研究会が作ったIgG4関連ミクリッツ病の臓器特異的な診断基準(2008年)で診断されうる。
 
(d) IgG4関連中枢神経病変: これらには漏斗状下垂体炎、肥厚性硬膜炎、頭蓋内炎症性偽腫瘍が含まれる。
 
(e) IgG4関連呼吸器病変: これらの初期の病変は気管支血管束、小葉間隔壁、肺胞隔壁、胸膜のような間質に起きる。それらはしばしば縦隔・肺門部リンパ節腫脹を合併し、X線にて肺の腫瘤影または浸潤影がみられる。喘息様の症状を有する患者もいる。これらの病変を悪性腫瘍、サルコイドーシス、肺の膠原病感染症と鑑別することが大切である。
 
(f) IgG4関連腎病変: びまん性の腎腫大、腎実質の多巣性の造影欠損、腎腫瘍、骨盤壁の肥厚などの異常陰影がある。腎臓の組織は主に間質性腎炎であるが、膜性腎症のような糸球体腎炎もあってもよい。IgG4関連の尿管間質性腎炎がIgG4関連腎疾患の臓器特異的診断基準を用いて診断できるかもしれない。
 
(g) I gG4関連後腹膜線維症・血管周囲病変:この病気は腹部大動脈の外膜の肥厚と尿間周囲の軟部組織の腫脹で特徴づけられ、しばしば水腎症や腫瘤性病変を合併する。動脈周囲炎は大動脈か、比較的大きな枝の周囲の起きる。レントゲン画像上、動脈壁肥厚が顕著となる。CTを含むX線検査に加えMRIPETが庚腹膜線維症の診断に有効であることが示されている。生検はしばしば診断的でなく、この病気を悪性腫瘍や感染症による二次性の後腹膜線維症から区別することを難しくする。
 
(h) その他の腫大を来たす病変: IgG4陽性の形質細胞とリンパ球の増勢が線維化とともに見られる。従来の炎症性偽腫瘍のいくつかを含み、これらの病変は頭、眼窩、肺、乳房、肝臓、膵臓、後腹膜、腎臓、リンパ節において報告されている。
 
IV. 血液検査所見
1. polyclonalな血清γグロブリンIgGIgEがしばしば上昇し、低補体血症が起きるかもしれない。
 
2. IgG4の上昇がその他の病気でも見られるので(例;アトピー性皮膚炎、天疱瘡、喘息、マルチセントリック・キャッスルマン病)、IgG4-RDに特異的ではない。
 
3. 稀に血清IgG4濃度が悪性腫瘍で上昇することがある。しかし、>270の上昇は膵臓癌らしくない。
 
4. 単一臓器病変とIgG4>135 mg/dlを有する患者ではIgG4+/IgG+の比が診断に有用かもしれない。
 
5. 現在のところ、IgG4-RDの病因・病態生理においてIgG4の上昇はどのくらい重要であるかは分かっていない。
 
V. 組織所見
1. 花むしろ状または渦巻き状の線維化または閉塞性静脈炎がIgG4-RDに特徴的であり、診断に重要かもしれない。
 
2. IgG4+細胞とともに好酸球浸潤がしばしば見られる。
 
3. 膵臓癌の末梢で見られるように反応性のIgG4+細胞の浸潤、線維化が起きるかもしれない。
 
VI. 画像検査
IgG4-RDは体中の様々な臓器に同時に起きても、異時性に起きてよい。臓器には膵臓、胆管、涙腺、唾液腺、甲状腺、肺、肝臓、消化管、腎臓、後腹膜が含まれる。MRIFDG-PETが多臓器病変を検出するのに役立つ。
 
1. 悪性リンパ腫や傍腫瘍性病変を呈する患者は時にステロイド投与で改善することがある。そのため、ステロイドの試験的投与は厳重に避けられるべきだ。
 
2. 診断のために組織検査を行うよう努力をするべし。しかし、膵臓、後腹膜、下垂体のような生検が難しい臓器病変を有する患者でステロイドに反応する場合はひょっとするとIgG4-RDを持っているかもしれない。
 
3. 自己免疫性膵炎の治療ガイドラインに従い、患者は0.5–0.6 mg/kg/日のプレドニゾロンで治療を開始されるべきだ。患者が最初の治療に反応しない場合、診断を再度検討しなおす必要がある。
 
VIII. 除外すべき疾患と鑑別すべき疾患
1. 関連臓器の癌やリンパ腫の様な悪性疾患を除外するために、悪性細胞が存在するかどうかを組織学的に決定することは基本である。
 
2. シェーグレン症候群、原発性硬化性胆管炎、マルチセントリック・キャッスルマン病、特発性庚腹膜線維症、ウェゲナー肉芽腫症、サルコイドーシス、Churg-Strauss症候群のような類似疾患をを各々の診断基準を用いて診断すること。
 
3. マルチセントリック・キャッスルマン病はInterleikin (IL)-6が高値となる疾患であり、たとえ、IgG4-RDの診断基準を満たしたとしてもIgG4-RDには含まれない。