リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

抗ARS抗体症候群の間質性肺炎におけるタクロリムス

アミノアシルtRNA合成酵素抗体症候群(抗ARS抗体症候群)は筋炎、間質性肺炎、関節炎、レイノー現象、発熱、機械工の手などの、特定の臨床所見を有する症候群です。
 
同じ皮膚筋炎の診断でも、MDA-5抗体が陽性の場合とARS陽性の場合とでは随分違います。間質性肺炎が違うのです。前者は急性~亜急性、後者は亜急性~慢性が多いでしょうか。
 
抗ARS抗体は2014年4月より保険適応が通りました。結果は1週間で分かります。
 
経験を積めば、抗ARS抗体陽性が判明するまでにこの病気を疑うことは難しくないと思います。↑の症状を探していくのです。
 
MDA-5は日単位で対応しなければなりませんが、一般には測定できないのです。専門的な施設に依頼しますが、結果が分かるのはずいぶん先になりま。それまでに、Acute or subacute IPのCADM、皮膚潰瘍というパターン認識でもって、治療を開始するのです。CT所見も重要です。
 
さて、2013年6月、皮膚筋炎の間質性肺炎にタクロリムスの保険適応が認められました。
 
既述の通り、Acute or subacute IPにおけるタクロリムスのエビデンスは乏しいです。
 
しかし、ARS抗体症候群Chronic IP)ではn=13の比較的まとまったシリーズの報告があるのです。
 
添付文書上、0.075mg/kgでトラフ値を5-10ng/Lに維持するよう調節するとありますが、このシリーズの報告は参考になるでしょうか。
 
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Treatment of antisynthetase-associated interstitial lung disease with tacrolimus.
Arthritis Rheum. 2005 Aug;52(8):2439-46.
 
Abstract
OBJECTIVE:
抗アミノアシルトランスファーRNA合成酵素ARS抗体関連の特発性炎症性筋症(IIM)による間質性肺疾患におけるタクロリムスの効果を評価する。
 
METHODS:
我々のIIMコホート536例のうち、抗ARS抗体を有する98例が特定された。1992年から2003年の間タクロリムスで治療された抗aARS抗体関連の間質性肺炎15例のカルテをretrospectiveにレビューした。肺のパラメーターの反応にはFVCFEV1.0DLCOが含まれた。徒手筋力検査、CKステロイドの投与量を筋炎の改善を評価するために用いた。タクロリムスの臨床的な反応を評価するために、時間の多項式を考慮したランダム係数モデルを用いた。
 
RESULTS:
純粋な間質性肺炎を有した1例を除く全例がIIMDefinite or probableの例。タクロリムスを3ヶ月未満内服した2例とそのデータは解析しなかった。残り13例において、発症の平均年齢は46.9歳。肺疾患の平均期間は14.7ヶ月。12例はヒスチジルトランスファーRNA合成酵素に対する自己抗体(抗Jo-1抗体)、1例はアラニトランスファーRNA合成酵素に対する自己抗体(抗PL12抗体)を有した。患者は平均51.2ヶ月タクロリムスを内服した。測定された肺のパラメーター全てにおいて有意な改善が見られた。血清CK値は有意に低下し、10例は筋力が改善するか正常な筋力を維持した。統計学的に有意なステロイドの減量が見られた。
 
CONCLUSION:
タクロリムスは、抗ARS抗体陽性患者における筋炎の難治性ILDを管理する上でよく耐用され、有効な治療法である。
 
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気になったところだけ、かいつまんで訳します。
 
Q1. タクロリムスの投与量は?
 
Patients and methods-Tacrolimus treatment.
血漿5–20 ng/mlを維持するよう0.075 mg/kgで投与された。投与量は最終的に治療への反応性、毒性のモニタリングに基づいて調整された。
 
A. 53.3kg なら4mg(朝2mg、夕2mg)、66.6kgなら5mg2.5mg-2.5mg)、80kgなら6mg3mg-3mg)になります。トラフ値が日本の添付文書の5–10 ng/mlよりも高めかもしれませんが、そこは大きな差ではないでしょう。
 
Q2. Tacと同時に併用されたステロイドの量は?(高用量で用いたのか、増量せずに用いたのか)
 
Methodに適当な記載なし。Retrospective chart reviewだから当然か。
Discussionに関連する記載があったので訳しておきます。
この後ろ向き研究においてステロイドの投与量の減量における標準的なアプローチはなかったが、4週間毎に20-25%ずつ減量する試みがなされた。最終的に患者の臨床的な反応があればステロイドを減量した。
アウトカムに対するタクロリムスによる効果とプレドニゾンによる効果を区別することは難しいが、3例を除く全例が過去の免疫抑制療法、すなわちステロイド剤にくわえMTX, AZP, CYを投与されていた中で疾患の進行があったことを認識することは大切だ。しかも、タクロリムス投与中に肺のアウトカムの改善があり、ステロイド量が劇的に統計学的に有意に減量されていた;これはその他の免疫抑制剤を内服している間では評価されなかった。プレドニゾンのアウトカムへの改善の寄与を測定することは難しいが、プレドニゾンが肺機能の改善における唯一の要素でないことは明らかだ。私たちはこの改善はタクロリムスによるものと考える。
 
 
Q3. 15例のうち、解析されなかった2例の経過は?(Tacで改善せずにスイッチされたのではないか?それなら、効果のあった13例のみ解析するのは適切でない)
 
Results
15例中12例がJo-1抗体でProbable or definitePM/DM1例は抗PL-12抗体のILDでその他のARS抗体症候群の所見を有したが、3年以上、筋炎の所見はなかった。抗PL-7抗体の患者2例はともにタクロリムスを3ヶ月未満内服しており、この解析から除外された。1例はタクロリムスを開始された後すぐに同期を訴え、継続を拒否した。もう一例は末期の肺線維症を有し、タクロリムスはレスキューとして用いられ、1ヶ月も使わなかった。
 
A. 3ヶ月未満使用され、解析から除外された2例はタクロリムスが無効で中止したというわけではなかった。
 
Q3. FVC, DLCOの変化は?
Table 2
イメージ 3
 
Figure 2
イメージ 1
Figure 3
イメージ 2
 
A.Figure 2, 3をみれば年単位でゆっくり変化することが分かる。
 
 
Q4. 有害事象は?
 
Results(の最後と最後から2番目のパラグラフ)
3例が死亡。Patient 2心筋梗塞とそれに続く呼吸不全のため死亡。Patient 8は肺アスペルギルス症のため死亡。Patient 9はタクロリムス開始7.25年後に重症の呼吸不全のため死亡した。
・タクロリムスの副作用はNational Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Eventsによると重症なものではなかった。
・全例一過性のCr上昇を経験した。11例はGrade 12例はGrade 2Cr上昇だった。タクロリムスを中止または減量後数週間以内に改善。
Mg低下は13例中10例(77%)で見られたが、Mgの補充で簡単に改善した。
・振戦は半分以上(69%)で起きた。
・軽症から中等症の高血圧症、あるいは元々あった高血圧症の悪化は6例(46%)にみられた。・1例の女性化乳房と頭痛はタクロリムスによるものだった。
・高血圧、振戦、低Mg血症、頭痛はGrade 1女性化乳房Grade 2
 
A. 死亡した3例のうち、アスペルギルス症はタクロリムスとの関連はあると考えるべきでしょう。その他の副作用は比較的耐用できそうなものばかりです。