リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

膜型ループス腎炎(ループス腎炎 5型)の治療 - その2 -

(前項、その1の続きです)

https://oiwarheumatology.hatenablog.com/entry/12914019

 

 
3.5gなら免疫抑制剤の適応となるわけで、あらかじめ勉強しました。
 
 
Uptodateより>
 
Clinical features and therapy of membranous lupus nephritis
 
Choice of agent —
・膜性LNの免疫抑制療法の選択はあまり研究されていない。最も良いエビデンスはシクロフォスファミドとシクロスポリンに基づくレジメンを(増殖性変化は伴わない)純粋な膜性LNの患者において比較したNIHによる小規模RCT、および純粋な膜性LNにおいてシクロフォスファミドとミコフェノレートモフェチル(MMF)に基づくレジメンを比較した二つのRCTのサブ解析からのものだ。
・びまん性または中等度から重症の限局性増殖性LNも有する患者は増殖性腎炎として治療される。
 
NIH trial of cyclophosphamide versus cyclosporine —
NIHの試験は純粋な膜性LN42例を対象とした;増殖性LNの患者やその他の腎疾患は除外された。蛋白尿の中央値5.4g/(範囲 2.7 - 15.4 g/)、推定GFRの中央値83 mL/min per 1.73 m2。患者は1年間、ランダムに3群のうちの一つの群に割りつけられた。
・プレドニゾンPSN40 mg/m2隔日投与を8週間、ついで10mg/m2に減量される群
・プレドニゾンPSN)隔日+シクロフォスファミドパルス(IVCY)隔月(白血球のnadir≥1500/microL を保つよう0.5 - 1.0 g/m2)
・プレドニゾンPSN)隔日+シクロスポリン(200 mg/m2、約5 mg/kg/日の12時間おきの2分割で開始; 2回以上Cr値が33-49%上昇するか、>0.3mg/dL上昇すれば投与量を25%減量)
3群の中で16例がベースラインの検査の少なくとも1ヶ月以上前からアンギオテンシン阻害療法で治療された。
・完全寛解は蛋白尿<0.3 g/日、部分寛解は蛋白尿2.0 g/日で50%以上の減少と定義。
・アンギオテンシン阻害薬、脂質降下薬はともに持続的または再発性に蛋白尿>3g/日の患者に投与された。
・蛋白尿>3g/日が続く場合、患者はIVCYを受けていればシクロスポリンに、シクロスポリンかPSN単独で治療されていればIVCY (最初の1年は2ヶ月毎、それから3ヶ月毎)で治療された。
・二番目の治療は1年後、患者が改善しなければ中止、蛋白尿の減少が得られ、腎機能が安定している患者では漸減された。
・結果は以下 (figure 1):1年後の寛解の割合はシクロスポリン、IVCYにおいてPSN単独に比べ高かった(83%, 60% vs 27%)。シクロスポリン、IVCY寛解のうち、各々19例中12例、19例中7例は部分寛解寛解になる確率は蛋白尿が5g/日を超える患者では低かった。
・蛋白尿が寛解状態になった患者は10年までフォローされた。中止後の再発はIVCYにおいて有意に遅く、しかも低かった (20 % within 50 months vs 60 % within 36 months with cyclosporine)IVCY群の再発は全例、投与中止後4年以上たって起きた。
・シクロスポリンやタクロリムスに比べIVCYで再発率が低いことは特発性膜性腎症においても報告されている。
 
Mycophenolate mofetil —
純粋な膜性LNの患者においてMMFの役割を直接調べた研究は少ない。LN患者の大規模なRCTより集積したPost-hoc解析はMMFが増殖性LNとそうであるようにIVCYと同様に寛解導入に有効かもしれないという仮説を生みだした。
LN370例を対象としたMMFIVCYを比較したRCTALMS60例の純粋な膜性LNを含んだ。Primary outcomeは尿中の蛋白/Cr比が<3、あるいは50%以上の低下。Secondary outcomeCrの安定化または改善、蛋白尿<0.5g/日、尿沈渣の鎮静化。24週の時点で二群間でPrimary or secondary outcomeを達成した膜性LNの割合に有意差はなかった。
MMFIVCYと比較した二番目のRCT140例のLNを含み、27例が膜性LNだった。完全寛解、部分寛解MMFで治療された14例中7例、IVCYt量された13例中4例。
・この二つの試験からのpooled analysis84例の患者を含んだ:33例がMMF32例がIVCYで治療され、24週間の治療を終えた。>3.5g/日のネフローゼレンジの40例の患者において両群間で蛋白尿の減少%、部分反応の割合(尿蛋白<3.5g/日+ベースラインから50%の減少)、蛋白尿の減少%に有意差はなかった。安全性、耐用性にも差はなかった。両試験とも期間に制限があり長期成績は報告されていない。そのため純粋な膜性LNにおけるMMFの役割は現在のところはっきりしない。
 
Chlorambucil versus methylprednisolone —
Ponticelliのグループは後ろ向きに膜性LNにおけるメチルプレドニゾロン(mPSL)単独、mPSLとクロラムブシル(Chl)の効果を解析した(各々8例、11例)。両群とも2例の限局性増殖性病変を有した。間欠的なmPSLChlはより高い完全・部分寛解率を有し (90 vs 38 %)、腎炎の再発率も少なかった(10 vs 88 %). これらの所見は前項のNIHの試験の結果と同様。特発性膜性腎症の患者ではほとんどのネフロロジストが毒性を減らすためにPonticelliレジメンのChlの代わりにシクロフォスファミドを用いる。
 
THERAPEUTIC APPROACH —
・膜性LNの患者は上述の降圧療法、抗蛋白尿療法、脂質降下療法で治療されるべし。重症ネフローゼの患者において血栓症を予防するための抗凝固療法を用いるかどうかは個々の症例に応じ決められる(別に述べる)。
ネフローゼを呈する純粋な膜性LNについて述べる。私たちは通常、アンギオテンシン阻害薬の使用に関わらず蛋白尿が<3.5g/日であれば、純粋な膜性LNに免疫抑制療法を開始することはない。腎外病変がない限り。
・加えて、腎生検によって抗リン脂質抗体症候群による血栓性微小血管症の病変の併存が明らかになるかもしれない。膜性LNではその他のタイプのLNに比べコモンかもしれない。その場合、追加的な治療が必要になる。
 
Timing of immunosuppressive therapy —
膜性LNの患者において免疫抑制療法のタイミングは様々。一般には以下。
・重症の症状のある患者(通常血清Alb<2.5g/日)は免疫抑制療法とアンギオテンシン阻害と積極的な血圧コントロールにて治療する。
・無症状か軽症から中等度のネフローゼ症候群を呈するAlb>2.5の患者はアンギオテンシン阻害剤の最大量で3-6ヶ月毎にフォローする。
・蛋白尿がアンギオテンシン阻害薬の投与後も持続的に>3.5g/日となる患者は腎症が悪化したり、血栓症や心血管系イベントのような腎外病変が起きるリスクが高い。そのような患者はアンギオテンシン阻害薬を続けながら、免疫抑制療法を行う。
 
Initial therapy —
・純粋な膜性LNの患者に限定した唯一のRCTである、NIHトライアウはIVCY+グルココルチコイド(GC)とシクロスポリン+GCとの同等の効果を示した。1年後の寛解率、治療中止後の再発率ともシクロスポリンで高い傾向があった(各々83 vs 60%60 % within 36 months vs 20% within 50 months)。
MMFIVCYベースのレジメンの有効性が同様であることがALMS試験の純粋な膜性LNのサブ解析で述べられた。この結果のリミテーションはフォロー期間がたったの24週間であること。結果として、ほとんどの専門医はまだMMFが膜性LNの第一選択薬の代参となると考えていない。
・したがって、免疫抑制剤を純粋な膜性LNに用いる時、私たちはMMFよりもシクロスポリンかIVCYベースのレジメンを好む。
・私たちのアプローチはKDIGO (the Kidney Disease Improving Global Outcomes)の糸球体腎炎のための臨床ガイドラインに広く一致しているが、MMFを第一選択薬として提案するEULAR/ERA-EDTA (the Joint European League Against Rheumatism and European Renal Association-European Dialysis and Transplant Association)の推奨とは反する。
NIHトライアルのデータに基づき、IVCYとシクロスポリンのレジメンの選択は患者の好みを含む様々な因子による。
・例えば、再発のリスクを最小限にしたい患者はIVCYを選ぶかもしれない。ひょっとすると高血圧症を有する高齢患者もシクロスポリンの血管系の副作用を避ける事を望むかもしれない。
・子どもを産める年齢の女性は妊孕性のリスクのためIVCYを避けたいかもしれない。さらにIVCYMMFも先天性奇形のリスクにプラスに働くというエビンスがある。結果として子供を産める年齢の女性はこれらの薬を開始する前に妊娠反応をするべきである。
 
Regimens —
・シクロスポリンもIVCYも好まれるレジメンはNIHトライアルのもの。いずれもPSN40mg/m2/日を8週間毎週5mgずつ減量し10mg/m2まで減量)を含む。
・シクロスポリンは200mg/m2(約5mg/kg)を2回に分けて開始。Cr2回連続で33-49%または>0.3mg/dL上昇する場合、投与量を25%減量する。治療期間は1年。タクロリムスはシクロスポリンの代賛として使える。
IVCY (0.5 to 1.0 g/m2)は隔月で1年間(6回)投与する。好中球の絶対数が1500未満になれば次の投与から0.25g/m2BSA減量するか、好中球数が低い間は一時的に中止する。
MMFの好まれるレジメンはALMSのもの。
 
Nonresponders and relapsing disease —
NIHトライアルにおいて、蛋白尿が>2g/日でベースラインから50%未満の減少に留まる場合、患者はnonresponderと判断される。
 
Initial cyclosporine or prednisone therapy(最初の治療がシクロスポリンかPSNの場合)
10例の患者がPSN単独 (n = 4)、シクロスポリン (n = 1)に反応しなかったか、またはシクロスポリン治療後に再燃した (n = 5)。再発はシクロスポリン減量中か中止後に起きた。8例はIVCY+GCレジメンで寛解導入された。寛解の確率(ほとんどは部分寛解)は18ヶ月後に70%36ヶ月後の80%。長期のフォローの間、Crdoublingを経験した者はいなかった。
NIHトライアルで使用されていないが、特発性の膜性腎症の患者に有効である、もうひとつの可能性がある選択肢はシクロスポリンによる再治療である。
 
Initial cyclophosphamide therapy (最初の治療がシクロフォスファミド)
IVCY群では次善の反応に関するデータは非常に限られており役に立つものではない。寛解導入後1例のnonresponder1例の再発例がある。これらの患者の一人はシクロスポリンンによる治療で部分寛解を達成し、もう一例は反応しなかった。IVCY寛解導入されなかった別の5例はシクロスポリンの適応にならなかった:3例はサブネフローゼの蛋白尿、1例は腎機能低下、1例は白血球破砕性血管炎を起こし内服のシクロフォスファミドで治療された。
IVCYnonresponderにおいてシクロスポリン療法を行う基準を選ぶとき、私たちは、蛋白尿≦2g/日+ベースラインから50%以上の減少というNIHトライアルの基準よりも、サブネフロゼの蛋白尿(less than 3.5 g/day)のカットオフを好む。
NIHトライアルでは用いられなかったが、特発性の膜性腎症で有効なもうひとつの選択肢として、シクロフォスファミドを繰り返すというものがある。このセッティングにおける細胞障害性のある治療を行う利益は2コース目による副作用とはかりにかけられなければならない。治療関連の合併症(最初に骨髄抑制と感染症)が経口の細胞障害性治療で治療されたハイリスクの患者の2/3者患者に起きるほど、コモンであるため。加えて、生殖器の毒性は複数回のシクロフォスファミド治療を受けた患者において高い。私たちは2回目のシクロフォスファミドのコースを行うことはめったにない。
 
Combined membranous and diffuse proliferative LN —
膜性LNとびまん性増殖性LNの合併例は積極的な治療が功を奏するびまん性増殖性腎炎よりも予後が悪い。これらの結果のため、そのようなLN患者40例における臨床試験が行われ、MMF+タクロリムスはIVCYと比べアウトカムが有意に良かった。全ての患者がGCの投与を受けていた。40例中26例はシクロフォスファミドかMMFで治療されていた。したがって、私たちはresistant or relapsing diseaseでこのデータを取り上げた。