リウマチ膠原病のQ&A

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膜型ループス腎炎(ループス腎炎 5型)の治療 - その1 -

<Clinical scenario>
50歳女性、SLEの患者が紹介された。
 
関節痛と軽度の血球減少。
 
浮腫はなし。蛋白2+、潜血±。蛋白1.5g/日、尿RBC 5/hpf。
 
腎生検にて5型と診断された。
 
(症例は架空です)
 
治療はステロイド? それとも・・・
 
<Uptodateより>
Clinical features and therapy of membranous lupus nephritis
 
INTRODUCTION —
・ループス腎炎(LN)の最適の治療は腎生検時の形態学的所見に基づく分類によって異なる。LN10-20%が純粋な膜性LNClass 5)。
・治療適応はしばしば重症の(症状のある)ネフローゼ症候群クレアチニン上昇and/or腎生検で限局・びまん性の増殖性変化がある症例。
 
CLINICAL PRESENTATION —
・患者は典型的には蛋白尿(3.3-5.4g/日)、低アルブミン血症(2.5-3.0g/日)、末梢・時に眼瞼浮腫、クレアチニンは正常かわずかな上昇。顕微鏡的血尿と高血圧症があるかもしれない。
・血尿と円柱が多い場合、Cr上昇或なしに関わらず、増殖性腎炎の合併を示唆する。これは稀なことではなく、ずっと悪い予後に関連する。79例の膜性LNのレビューで36例が純粋な膜性病変、15例が半分未満の糸球体において管内増殖and/or壊死を認め、28例が半分以上の糸球体でそういう変化を認めた。
・膜性LNSLEのその他の臨床所見や血清学的所見に乏しいLNの一つの型(例;補体は正常かもしれないし、SLEに特異性の高いdsDNA抗体が検出されないこともある)。42例の膜性LNRCTによると、C3, C4低下、ds-DNA抗体は各々3例(7%)、3例(7%)、9例(21%)。そのような患者では根底にあるSLEは腎生検の結果から疑われるかもしれないし、経過中にSLEの腎外所見、血清学的所見が出て始めて疑われる。
 
PATHOLOGY —
・膜性LNの腎生検は特発性膜性じん症と非常に似た所見を露わにする。これには光学顕微鏡検査で全ての糸球体に糸球体基底膜(GBM)のびまん性の肥厚を認めること、蛍光顕微鏡検査にてIgGC3染色でGBMに沿ってびまん性顆粒状パターンを認めること、電子顕微鏡にてGBMの外面に上皮下の電子密度の濃いdepositsを認めることがある。
・しかし、特発性膜性じん症ではなく、SLEが根底にあることを強く示唆するいくつかの所見がある。電子顕微鏡において増殖性のLNと同じように内皮下に電子密度の濃いdepositか明らかなメサンギウム領域のdepositが一緒にみられること。電子顕微鏡において内皮細胞において管状網状の構造があること。管状の規定膜に沿って、また小血管の中に免疫沈着物質があること、糸球体の沈着物においてC1qが顕著であること。
・上述の通り、膜性LNはしばしば限局性・びまん性の増殖性LNに関連する。そのような患者の腎予後は悪い。
 
PROGNOSIS —
・膜性LNの患者で報告される腎予後は様々。多くの研究が増殖性病変を有する患者を含むからだ。そのような患者は純粋な膜性LNと比べESRDに進行しやすい。その他、予後の違いに寄与する因子として、母集団の違い、腎外病変に用いられるかもしれない免疫抑制療法がある。
・増殖性LNが同時に存在することの重要性は様々な腎組織を有する患者の5年生存率、10年生存率を比較した後ろ向き試験によって明らかになった;その試験の対象は純粋な膜性LN36例、限局性(糸球体の半分未満)の増殖性病変を合併した膜性LN15例、びまん性(半分以上の糸球体)の増殖性病変を合併した膜性LN28例。1/Crより予測した平均の腎機能の損失の割合は純粋な膜性LNにおいて有意に低かった (-4.5 versus -18.5 and -15.9 dL/mg per year)。純粋な膜性LNはシクロフォスファミドで治療されることがずっと少ないのにもかかわらず、アウトカムが良かった。
・純粋な膜性LNの研究では10年生存率は72-98%とされる。上述の試験で5年後にESRDになる患者の割合は、びまん性の増殖性病変を有する膜性LNにおいて純粋なLNに比べ有意に高かった (43 versus 14 %)
・膜性LNの患者は初診時に増殖性病変を有しているかもしれないし、時間とともにそれらが出現してくるかもしれない。それはしばしば腎機能の悪化した時、または尿沈渣上での活動性に大きな変化があった時。あるシリーズでは最初にメサンギウム増殖がない、またはほとんどない膜性LN29例において、平均6.9年で二回目の生検が行われた。膜性LNから膜性・増殖性LNに変化するのは10年で35%
 
NONIMMUNOSUPPRESSIVE THERAPY —
膜性LNの患者はアンギオテンシン阻害薬、脂質降下剤などのネフローゼ症候群の一般的な治療の候補もある。患者によっては抗凝固療法も適応となる。治療のもう一つの側面として浮腫をコントロールするための利尿剤、十分な栄養の維持も大切。
 
Angiotensin inhibition —
ACE阻害薬やアンギオテンシン2受容体阻害薬(ARB)の投与は理想的には蛋白尿を呈する全ての慢性腎疾患の患者に勧められる。そのような治療は少なくとも部分的には糸球体内圧を低下させることで疾患の進行の速度を有意に抑えるかもしれないからだ。蛋白尿を呈する慢性腎疾患において推奨される蛋白尿排泄の理想的なゴールは11000mg未満。もしこのゴールが達成できなければ、少なくとも3.5g未満でかつ50-50%の蛋白排泄の低下を提案する。
・いくつかの小規模の比較のない後ろ向き試験において、膜性LNの患者に免疫抑制療法と一緒にACE阻害薬and/or ARBを用いることが評価された。しかし、免疫抑制療法、アンギオテンシン阻害と血圧の低下が尿蛋白の低下にどの程度寄与しているのかを決めることは通常不可能。
・その他の小規模観察研究うによって、特発性膜性じん症の患者におけるアンギオテンシン阻害の効果が評価された。結果は相反するものであり、膜性腎症におけるアンギオテンシン阻害による蛋白尿減少の効果はその他の糸球体疾患と比べ少ない。アンギオテンシン阻害の膜性腎症の進行におけるデータで信頼にたるものはない。
・膜性ループス腎炎においても特発性膜性腎症と同様、RCTによるアンギオテンシン阻害の効果の直接的なエビデンスはない。しかし、奥の医師がアンギオテンシン阻害を膜性LNにおける比免疫療法の重要なパートだとみなしている。
 
Goal blood pressure —
・蛋白尿性CKDはどんな型でも血圧の目標は130/80以下。この目標を達成することは蛋白尿性CKDの進行を遅らせる。CKDは心血管系のリスクを著名に挙げるため、心血管系を保護する作用があるかもしれない。
 
Lipid-lowering —
しばしば血清コレステロールの劇的な上昇を伴う高脂血症ネフローゼ患者ではよくある。LDLのコントロールがスタチン療法の主な適応であるが、CKDにおいても根底にある腎疾患の進行を遅らせる作用もあるかもしれないというエビデンスも少しではあるがある。
 
Anticoagulation —
ネフローゼはいかなる原因によるものであっても過凝固状態である。LNの患者、とくに膜性腎症ではDVT、腎静脈血栓症RVT)、肺塞栓症のような血栓症のリスクが上昇する。これは膜性LN66例の研究で欲示されている。6.9年の間に15例(23%)が血栓症になった。DVT 7例、RVT 4例、DVTのない肺塞栓4例、IVC血栓症2例。
・ハイリスクの患者に予防的な抗凝固療法が有効かが興味のあるところであるが、別に示す。
 
 
INDICATIONS FOR AND CHOICE OF IMMUNOSUPPRESSIVE THERAPY
 
Indications —
免疫抑制療法は通常、以下の一つ以上を有する膜性LNの患者において開始される。 
・持続的で重症・有症状のネフローゼ
Cr上昇
・腎生検で増殖性変化の合併
これらの所見がない場合、通常腎臓の予後はよく、腎炎に対して免疫抑制療法を要さない。腎外症状に対して必要になることはあるかもしれないが。
 
Nephrotic syndrome —
・アンギオテンシン阻害と積極的な血圧コントロールにも関わらず蛋白尿>3.5g/日の患者は免疫抑制剤で治療されるべし。ネフローゼは有意な疾病率を引き起こす。たとえば、血栓塞栓症、高脂血症のリスクが挙がり、動脈硬化が加速する可能性がある。
・加え、蛋白尿が増えることは免疫抑制療法による寛解導入の可能性の低下と、高い割合で進行性となることに関連する。例えば、プレドニゾン±その他の免疫抑制剤で治療された膜性LN42例の研究において蛋白尿>5g/日は寛解導入の可能性が低くなることに独立して関連する。
・一方、ほとんどの腎臓内科医はベースラインの蛋白尿、ACE阻害薬やアンギオテンシンⅡ受容体阻害薬による治療の後の蛋白尿が3.5g未満の患者に免疫抑制療法を行わないであろう。膜性LNにおいてこのアプローチを支持するデータはないが、特発性膜性腎症の患者ではエビデンスがある。
 
 
Increased serum creatinine —
・膜性LNの患者のほとんどは初診時にCr正常か軽度上昇する程度。しかし、血清Cr単独ではいくつかのセッティングで不十分。例えば、女性は男性に比べ筋量が少ないため、血清Crのベースラインはしばしば低い。ベースラインのCr 0.6 mg/dLの膜性LNの女性が0.8mg/dLになるかもしれない。その変化はGFR1/3の損失を表すが、血清Crは正常範囲のままである。
・このようにCrのベースラインの値を決めることが重要。外来受診時のデータや入院時のデータなど。加えて、推定値はより感度の高い推定GFRを提供する。Crも推定値もGFRを過大評価するかもしれないという欠点がある。尿細管におけるCr排泄はネフローゼ患者では上昇しているからだ。結果としてGFRネフローゼでない時のベースラインからわずかに減少しても、その変化を検出できないかもしれない。
 
 
Concurrent proliferative LN —
上述の通り膜性LNの中には限局性・びまん性の増殖性糸球体腎炎を有する患者もいる。これらの患者は腎機能低下が急速で、ESRDになる率も高く、予後が悪い。
 
Choice of agent —
以下はまた次回に。
 
<Scenario caseの経過>
関節痛に対し、プレドニゾロン7.5mgを開始した。ACE阻害薬を開始し、蛋白尿は<1gに減少した。
 
 
その2へつづく