リウマチ膠原病のQ&A

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潜在性結核感染症(LTBI)治療指針

「潜在性結核感染症治療指針」たるものが日本結核病学会より出されています。
 
リウマチ科医師に関係するところを抜粋します。
 
とくに「2LTBI治療の対象」が大切です。
 
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1.策定の基本的な考え方
 
LTBI治療は原則としてツ反またはインターフェロンガンマ遊離試験(IGRA)の実地を条件に、新しい感染のみならず、過去の感染者で免疫抑制状態などにあるため発病のリスクが高いと考えられて治療をする場合を含め、年齢に関わらず公費負担の対象となった。
 
 
2LTBI治療の対象
 
2-1.基本的な考え方
(1) 感染・発病のリスク
・感染のリスクが高い・・・高齢者、ホームレス、高蔓延国居住歴、医療従事者、矯正施設
・感染者の中で発病のリスクが高い・・・最近の感染(1-2年以内)、HIVじん肺、過去の結核に矛盾しない胸部X線所見、低体重、糖尿病、慢性腎不全による血液透析、胃切除、十二指腸回腸吻合術、心不全、頭頸部癌、ステロイド剤等の免疫抑制剤TNFα阻害薬などの生物製剤3-4,11-12)
reference
 
(2) 感染診断と検査法
IGRA結核菌特異抗原を用いているためBCG接種の影響を受けない。日本のようにBCG接種率の高い国では有用性が高いと考えられる。
・活動性結核患者を対象としたQFT-GT-SPOTの比較では、感度はT-SPOTが高く、特異度はQFT-Gのほうが高いとされてきたが15-16)、最近、両者の特異度は差がないとの報告もある17)
 
LTBIについては感染を判定するGold Standardがないことからどちらが優れているか結論付けることは難しい18)
 
(3) 胸部画像診断
胸部正面単純像で異常がない場合でも微細な病変がCTで検出されることがある19-21)CTのコストと被爆を考慮すると、同一集団の感染率が高い場合、免疫学的な問題がある場合、発病の可能性が高いと考えられる場合には実地するのが妥当と思われる。
 
(4) 発病した場合の影響
免疫不全者と常時接する職業、集団生活をしている者にも考慮。合併疾患によって治療が困難になりうる場合、予後の悪化が予測される場合も考慮。
 
(5) 副作用出現の可能性
・副作用のリスクvs結核発病のリスクとのバランスを考える。INHの肝障害は30-35歳以上で頻度が高くなる。RFP重篤な副作用は肝障害、アレルギー反応、インフルエンザ様症状、間質性腎炎、骨髄抑制など。
・妊婦に対するLTBI治療はINHの添付文書では「投与しないことが望ましい」とされるが、ATS/CDCガイドラインでは「最近の感染やHIV結核菌の胎盤への血行性散布または発病が起こりやすい状態では、簿時とも危険な状態に曝される可能性があるので肝機能障害に対して十分な注意をしたうえで治療した方がいい」とされる3)。また、添付文書で「授乳を避けること」とあるが、ATS/CDCガイドラインでは、「これまでに授乳による時への影響は報告されていないことから禁忌ではなく、児にはビタミンB6の補充を行うべき」とされている3)
 
(6) 治療完了の見込み
LTBIは患者の病識が低く、治療の脱落・中断が起こりがち。
 
 
2-2. 発病リスク要因と感染診断
(1) 感染性患者との接触
接触者検診で発見された感染者で若年者では新たな感染である可能性が高い。近年は高齢者においても既感染率が低下していることから、新規感染を起こす可能性がある。
 
(2) 免疫不全を伴う病態
感染診断の感度はツ反とIGRAとも低下することから判断に注意が必要であるが、IGRAの方がツ反よりも低下しにくいとの報告が多い25-26)QFT-GT-SPOTともリンパ球数の減少とともに感度が低くなるが、T-SPOTの方が影響を受けにくく、リンパ球500以下の結核患者を対象にした感度はQFT-G 39% vs T-SPOT 81%27)
 
HIV/AIDS
②慢性腎不全による血液透析および腎移植患者
③その他の臓器移植および幹細胞移植患者
④糖尿病
 
(3) 免疫抑制作用のある薬剤の使用
①生物学的製剤
・投与から発病までの期間はIFX 17週、ETN 48週。発病リスクはIFXETNよりも1.3-5.9倍高く、ADAIFXよりも高いとの報告が多い50)
 
・スェーデンでの全国住民データベースを用いた検討では1999-2001年の間にTNFα阻害薬を使わなかったRA患者でのリスクは一般人口に比べ2倍、1999-2004年の間にTNFα阻害薬治療されたRA患者の発病リスクは未使用に比べてほぼ4倍(全例が報告されていないであろうから、実際はもっと高いと考えられる)51)
 
・フランスの生物製剤登録による症例対象研究では標準化罹患比(SIR)は12.2IFX 18.8, ADA 29.3, ETN 1.8
 
TCZ結核発病リスクは低いと考えられており53)、国内臨床試験でも0.3%ADA 0.6%)。
 
・生物製剤を使用する症例ではしばしばDMARDsが使用されているため、ツ反あるいはIGRA偽陰性が起こる可能性がある56-58)。英国胸部疾患学会は生物製剤を使用するにあたって、既に免疫抑制剤を使用している場合の感染診断にはツ反は有用でないので使用すべきでないと勧告している56)
 
・炎症性疾患患者の結核スクリーングの報告をまとめた結果によると、IGRA陽性の中で多くのツ反陰性(最大50%)が報告されていることから49,59)、ツ反よりもIGRAの感度が高いと考えられる。しかし、IGRAにおいても反応性の低下があるとされており、陽性の閾値を低くする必要性も示唆されている60)
 
以上から、生物製剤の適用にあたっては、まず、対象者の病歴から結核感染のリスク評価をする。次いで、胸部X線検査を行い、活動性結核が疑われる場合は確定診断のための精査が必要となる。陳旧性肺結核が疑われ、治療歴がない場合、もしくは確実な治療が行われていない場合にはLTBI治療を前向きに検討する。胸部X線検査で異常が認められない場合にはIGRAを用いて感染診断の検査を行い、感染が疑われる場合には、3週間前からLTBI治療を行い、生物製剤による治療を開始する。生物学的製剤は、重篤な副作用の発現に対する定期的な検査や、急に発症する可能性のある副作用に迅速に対応できるよう、胸部X線写真撮影が即日可能で、呼吸器内科専門医、放射線科専門医による読影所見が得られる医療環境で、感染症専門医等と連携した対応が望ましい56,57,61,61)
 
②副腎皮質ステロイド
・経口プレドニゾロンPSL115mg(またはその同等量)の1ヶ月以上の投与は統計的に明らかに結核発病のリスク要因とされている。経口プレドニゾロン投与を受けている人の結核発病のオッズ比は4.9、さらに15mg未満とそれ以上のオッズ比は2.87.7との報告がある63)
 
・また、TNFα阻害剤を用いていないRA患者で副腎不全ステロイド剤を投与されている場合には年齢・性別調整標準化比で投与されていない患者よりも2.4倍になっているとの報告もある。
 
・吸入ステロイド投与は経口投与をされていない場合には結核の発病リスクを上昇させると報告されており、特に高用量(フルチカゾン1000mcg/日以上)の場合には吸入ステロイドを用いていない人に比して2倍程度のリスクになる。経口ステロイドの投与を受けている場合にはそれ以上にリスクを挙げることはない。
 
経口PSL110mgの投与はツ反、QFT-Gの反応を抑制することから、IGRAによる感染診断は治療開始前に行うことが望ましい。既に同量相当以上の副腎皮質ステロイド剤を投与されている場合にはIGRAの感度が低下している可能性を考慮してLTBI治療の要否を判断する。
 
③その他の免疫抑制剤
RA患者の結核発病の相対リスクは疾患自体とDMARDsによる影響によって2-16倍とされる51,52)。別の報告ではTNFα阻害薬未投与でDMARDsを投与されている場合は年齢・性別調整標準化比で265)、あるいは3倍とされている66)。これらの検討ではDMARDsとしてMTX, HCQ, SSZ, AZP, LEF, CY, CyA, Gold, MINO, D-penがあげられている。
 
従って、DMARDsが投与されている患者で他のリスク要因がある場合にはIGRAによる感染診断を行い、陽性であればLTBI治療を検討する。
 
(4)その他の感染・発病リスク
①胸部X線検査で結核治癒巣がある場合
②珪肺
③低体重
④喫煙者
⑤高蔓延国出身者
⑥医療従事者
 
2-3. 治療適用の実際
積極的にLTBI 治療をして検討を要するのは(表2 で勧告レベルA)相対危険度で4 以上。
 
イメージ 1
 
3.治療(略)
 
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