リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

シェーグレン症候群の中枢神経障害

Scenario case
19歳女性、無菌性髄膜炎にて1週間前に入院。
MRIにて脳の白質病変を指摘されている。
入院後、髄膜炎(発熱、頭痛)、多関節痛は改善しつつあったが、抗SSA抗体を認めたためコンサルトされた。
1年前からドライアイがあるという。
診察上、多関節炎を認めた。
 
(症例は架空です)
 
 
< 疑問、発生!>
この方、シェーグレン症候群の中枢神経症状としてよいか? 
 
 
 
<まずはUptodate
UptodateSjogren syndromeを検索し、
Clinical manifestations of Sjögren's syndrome: Extraglandular disease
を読んでみます。
 
Central nervous system —
シェーグレン症候群(SS)における中枢神経障害(SS-CNS)の頻度は議論される問題だ。20-25%原発SSの患者が中枢神経症状を有し、限局性の中枢神経病変から認知障害多発性硬化症を真似する病状であったりする。しかし、SS-CNSの頻度はそれよりずっと少ないとする報告もある。さらにMRIで認められる脳の白質病変と臨床所見との関連ははっきりしない。
CNS-SSの頻度が多様であることは紹介のバイアス、診断基準の不一致、CNS-SSをどの程度検索するか、そしてMRI所見を解釈する標準的な方法がないことによって説明できるかもしれない。
脳や脊髄のいかなる部位も障害されうる。パターンは一般に多巣性再発性のエピソードのひとつであり、しばしば長期の病気のない間隔を有する。結果として潜在性の進行性の神経障害を来たしうる。
CNSの合併症は重症病態である可能性があること、免疫抑制療法にて治療できる患者もいる事から、CNS病変の可能性に気付くことは重要である。一方で神経症状はしばしばSSの発症に先行する。
 
CNSの病気の範囲には以下がある。
 
・運動障害や感覚障害、痙攣、局所の病変、小脳症候群
・びまん性の脳病変が脳症や精神疾患によって起きるかもしれない。軽度の認知障害から明らかな認知症にまで。
・脊髄病変は急性の横断性脊髄炎や進行性の脊髄症に至ることがある。視神経脊髄炎の報告も少数ある。
・軟髄膜のび慢性の造影効を伴う亜急性の無菌性髄膜炎が報告されている。
・舞踏病での発症も報告された。
・視神経炎は16%の患者におき、初発症状であったり、遅れて発症することもある。
・患者に語られることは稀ではあるが、記憶力・集中力の低下を伴うわずかな認知機能の変化が起きるかもしれない。これらは公式な認知障害の検査にて確認できる。
 
 
 
Uptodateの孫引き>
SS-CNSについての大規模研究(ref63)を読んでみます。
 
Neurologic manifestations in primary Sjögren syndrome: a study of 82 patients.
Medicine (Baltimore). 2004 Sep;83(5):280-91.
 
原発性シェーグレン症候群の神経症
 
・中枢神経障害は原発SSの約20%。しかし、SSの神経障害をの診断はしばしば難しく、CNS障害の報告は稀。この研究の目的は神経症状を呈するSSの患者の臨床的、ラボ的な特徴を述べること、臨床的なアウトカムを報告すること。
Retrospective神経症状を呈する原発SS82 (女性65、男性17)を研究した。診断は2002年の米国欧州基準を用いた。
神経症状を発症する年齢の平均は53歳。
・神経障害はしばしばSSの診断に先行した(81%)。
56例がCNS症状を有し、ほとんどが限局性または多巣性。
29例が脊髄病変を有した(急性脊髄症12例、慢性脊髄症16例、運動ニューロン疾患1例)。
33例が脳障害を呈し、13例が視神経障害を呈した。病気は10例において再発寛解型の多発性硬化症MS)を真似し、13例において一次進行型MSを真似した。
・私たちはびまん性のCNS症状についても報告した:痙攣(7例)、認知障害9例)、脳症(2例)。
51例が末梢神経(PNS)障害を呈した。対称性軸性の感覚運動性の多発ニューロパチーが最多であり(28例)、感覚症状が優位か、純粋な感覚障害を呈した。次が三叉神経、顔面神経、蝸牛神経などの脳神経障害(16例)。多発性単神経炎(7例)、筋炎(2例)、多発神経根障害(1例)もあった。
30%がオリゴクローナルバンドを有し、全例CNS障害を合併した。視覚誘発電位は検査をした患者の61%で異常だった。
58例がMRI検査を行い、70%が白質病変を有し、40%MSの画像的基準を満たした。39例が脊髄MRIを施行し、異常は脊髄障害を呈した患者にだけ見られた。脊髄症の29例のうち、75%T2画像で高信号を呈した。
・末梢神経障害を有する患者はしばしばSSの腺外症状を伴った。
・抗SSA/Ro、または抗SSB/La抗体はSSの診断時に21%、フォロー中に43%で検出された(フォロー期間の中央値10年)。免疫検査異常はCNS障害の患者よりもPNSの患者において多かった(p < 0.01)。
・患者の52%が重症の身体機能の低下を呈したが、そういう患者はPNS障害よりもCNS障害を有しやすかった(p < 0.001)
・シクロフォスファミドによって脊髄症、多発性単神経炎において部分的な反応または安定化が得られた(各々92%100%)。
・本研究はSSに様々な神経学的合併症があることを強調した。SSを示唆する神経症状の頻度、免疫検査異常の頻度(がともに少ない事)はSSがよく見逃されることを説明するかもしれない。
・急性・慢性の脊髄症、軸性の感覚運動神経症、または脳神経障害を呈する患者においてSSを系統的にスクリーニングするべきだ。
・アウトカムはしばしば重症で、とくにCNS障害の患者においてそうだ。
・私たちの研究はSSの期間中に起きる脊髄症と様々な神経障害に対しシクロフォスファミドが有効であることも強調した。
 
(Abstract髄膜炎の記載がないので、本文のPDFでmeningitisを検索し読んでみます)
 
45例(66%)が髄液検査を受け、細胞数増多は16例(30%)。これらは無菌性のリンパ球性髄膜炎だった。30%がオリゴクローナルバンドを有し、そういう症例は全例がCNS障害を伴っていた。純粋な末梢神経障害で細胞数増多を認めたのは髄液検査を受けた7例のうち1例のみ(14%)。
 
 
イメージ 1
 
Neurologic Features (Table 4) 
主な神経学的所見をTable 4に示す。56例(68%)がCNS障害を呈し、51例(62%)がPNS障害を呈した。フォロー期間中、25例(30%)が両方を有し、31例(38%)がCNS障害だけ、26例(32%)がPNS障害だけを呈した。両者の発症年齢に有意差はなかった。
 SS発症時に起きる神経学的な症状はPNSよりCNSが多かった(p=0.005)。PNS障害は乾燥症状より先行することはCNS障害と比べずっと少なかった(p = 0.02)。それゆえに神経学的症状の発症からSS診断までの遅れはPNSにおいてCNSよりも短かったが、有意差には達しなかった。
 
→髄液細胞数増多は3割にみられるそうですが、純粋なmeningitisについては記載がないですね。
 
 
 
Pubmedで調べる>
Uptodateで紹介されているAseptic meningitisは1例の症例報告のみでした。なので、Pubmedで調べてみます。
("Sjogren's Syndrome"[Mesh]) AND "Meningitis, Aseptic"[Mesh]
を検索し、15件ヒット
 
3. Recurrent aseptic meningitis: a new CSF complication of Sjogren's syndrome.
J Neurol. 2007 Jun;254(6):806-7.
(titleからはSSの 再発性の髄膜炎
 
4. Primary Sjögren's syndrome with recurrent aseptic meningitis
Nihon Naika Gakkai Zasshi. 2006 Aug 10;95(8):1548-50. Japanese. No abstract available.
(titleからはSSの再発性の髄膜炎
 
6. Subacute aseptic meningitis as neurological manifestation of primary Sjögren's syndrome.
Clin Neurol Neurosurg. 2006 Oct;108(7):688-91.
亜急性に複視、軽い頭痛、頸部の疼痛と硬直をきたした症例(Uptodateのreferenceも↑の6)。
 
いくつかの報告はありますが、多くはないようです。
 
*1 AND "Meningitis, Aseptic"[Mesh]
*2 AND meningitis
は各々0件、4件でよい情報は得られませんでした。
 
 
 
< まとめ >
(Uptodate)
SSの神経障害は多様で、CNS~末梢神経のどこでも侵す。
CNS障害に多巣性再発性(=MS-like)があり、しばしば長期の無病の期間を有する。
MRIで認められる脳の白質病変と臨床所見との関連ははっきりしない。
 
(Medicine2004)
SSの神経障害は8割でSSよりも先行する。
・抗SSA or SSB抗体が検出されるのは全経過中でも半分以下(43%)。
MRI検査を行った7割が白質病変を有し、4割がMSの画像基準を満たす。
・髄液細胞数増多は髄液検査を行った患者の3割でリンパ球性髄膜炎を呈する。
 
(pubmedで検索した結果)
SSの再発性髄膜炎が報告されている
 
 
 
Scenario caseの経過>
SSの診断のため、眼科コンサルト、小唾液腺生検を行った。結果はいずれも陰性。対称療法のみで髄膜炎は改善し、関節炎も数日で治まった。急性関節炎の原因検索として調べた、パルボウイルスB19、風疹のIgMは陰性、HBsAgも陰性。
 
この度、SSの神経障害がSSの診断よりも先行しやすいこと、臨床的意義のない脳白質病変が見られてよいことを学んだ。また、髄膜炎は少数ながら報告されており、再発性の経過が報告されていた。
 
この方の場合、SSA抗体が陽性で関節炎が同期したため、無菌性髄膜炎、白質病変の原因としてSubclinicalSSの関与を疑った。
 
再発する可能性があり、経過観察することとした。
 
 

*1:anti-ssa or anti-ssa/ro

*2:anti-ssa or anti-ssa/ro