リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

TNF阻害薬を使用中のその他の呼吸器感染症

結核同様、肉芽腫の形成を要する感染症が抗TNFα抗体製剤で誘発されやすい可能性が考えられる。1998年から49ヶ月の間、FDAに届いた副作用報告(Adverse Event Reporting System;AERS)の集計によると、アスペルギルス症、クリプトコックス症などが挙げられる1)。これらは非常にまれな合併症ではあるが、AERSは製薬会社と医師より自発的に送られた副作用報告に基づいているため、実際の発生率は報告されたものよりも高いことを念頭におくべきである。
 
アスペルギルス属は土壌や大気中に存在する真菌である。人はこれを吸入することで感染するため、肺、副鼻腔は最も侵されやすい臓器となる。アスペルギルスは宿主の免疫状態に応じ、様々な病態をとる。すなわち、免疫不全の強い順に侵襲性アスペルギルス症IA)、慢性壊死性肺アスペルギルス症、肺アスペルギローマ、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症ABPA)である2)AERSの集計によると、TNF阻害薬投与中のアスペルギルス症の報告はIFX29例、ETN10例であり、10万人あたり各々12.4人、8.8人である1)
IAは長期間の好中球減少症、造血幹細胞移植、臓器移植、AIDSのような免疫不全にある患者に起きやすいが2)、これらの危険因子を有さないTNF阻害薬投与中の患者で少なくとも6例(CD4例、RA2例)報告され、そのうち5例が死亡している3)-8)。その他、慢性肺アスペルギルス症(慢性空洞性、慢性線維性、慢性壊死性)9)ABPA10)の報告がなされている。肺アスペルギローマは既存の肺空洞や拡張気管支に発生するが、TNF阻害薬を投与されていないRA3例、AS9例において報告されており11)、同剤投与の有無に関わらず注意が必要である。
IAの臨床症状は発熱、咳、呼吸困難、胸痛、血痰が挙げられる12)。培養結果は常に偽陽性の可能性が考えられ、気管支洗浄液の培養の感度はよくて50%である9)。様々な基礎疾患からなるmeta-analysisによるとProven or Probable IAに対するガラクトマンナン抗原(陽性≧1.0)の感度、特異度は各々65%94%と報告された13)CT所見として、1cm以上の結節影(macronodule)、およびそれをGGOが取り囲むHalo signの感度は各々94%61%であり、Halo signは良好な治療反応性と予後に関係した14)。これらの画像所見をもとに本症の疑いをもって早期に治療を開始することが患者の予後を左右する。治療の第一選択はボリコナゾールであるが、詳細はIDSAガイドラインを参照されたい15)
 
2)クリプトコックス症
クリプトコックスは様々な鳥類の糞に検出される真菌であり、人はこの真菌に暴露されやすい環境にあると考えられている16)。初めの感染部位は肺であるが、免疫不全の患者では髄膜炎を主体とする播種性クリプトコックス症を呈しやすい。Kerkeringらの41例のクリプトコックス症の報告によると34例に免疫不全を認め、そのうち28例(82%)がクリプトコックス髄膜炎を呈した17)PappasらによるHIV陰性のクリプトコックス症306例の研究によると、79%に悪性腫瘍、臓器移植後、リウマチ性疾患などの基礎疾患を有し、障害臓器は肺109例、中枢神経157例、その他40例であった。感度の高い臨床症状として発熱44%、頭痛38%、咳31%、呼吸困難25%意識障害25%が挙げられた18)Kerkeringらのクリプトコックス髄膜炎28例のうち、24例が肺炎から4-24日後に中枢神経症状を発症しており17)、肺クリプトコックス症と診断された患者においても中枢神経症状の出現に注意を要する。
FDAの副作用報告、AERSによると、クリプトコックス症はIFX11例、ETN8例であり、10万人あたり各々4.7人、7.1人であった10)。これまでに少なくとも5例(RA2例、クローン病、サルコイドーシス、ベーチェット病が各々1例)のIFX投与中に発生した播種性クリプトコックス症が報告され、1例は死亡している19)-23)
診断は培養、クリプトコックス抗原、グロコット染色などの特殊染色による菌体の証明のいずれかによる。クリプトコックス抗原の感度はAIDS患者におけるクリプトコックス症ほど高くないことを心得ておくべきである。PappasらのHIV陰性の患者群におけるクリプトコックス抗原の感度は74%であり、中枢神経障害の患者に限ると87%(髄液では97%)、肺炎の患者では56%であった18)。すなわち、血清クリプトコックス抗原が陰性であっても、クリプトコックス症を否定することができないが、髄液で陰性であれば中枢神経障害の可能性はほぼ否定的となる。治療については2010年にUpdateされたIDSAガイドラインが参考になる24)
 
3)その他の感染症
AERSによると、非結核性抗酸菌症(NTM)、ヒストプラズマが挙げられる10)。その他、カンジダ、リステリア、トキソプラズマの記載もあるが、肺病変を起こすことは稀である。NTMに関しては、本邦の関節リウマチ(RA)に対するTNF阻害薬使用ガイドライン(2012年改訂版) 25)において有効な抗菌薬が存在しないため、原則として投与すべきでないと記載されている。近年IFXETN投与中のNTMの発症や悪化が報告されている26)27)。ヒストプラズマは日本では非常に稀な感染症であり、海外旅行者において考慮すべき感染症として知られている28)
 
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