リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

SMV血栓症を呈したプロテインC欠乏症

<Clinical Scenario>
下腸間膜静脈(SMV血栓症を呈したプロテインC欠乏症において、ループスアンチコアグラントが同時に陽性となったため、リウマトロジストにコンサルトがありました。
 
 
 
< 疑問、発生!>
ループスアンチコアグラント(LAC)はSMV血栓症の原因となるか?
 
LACが門脈系の血栓症に関連するとは聞いたことがないし、プロテインC欠乏症が原因として確立されたものであれば、当科としてはLACの偽陽性とでもお返事して終診にしてしまってよいだろうか。。。
 
 
 
< 疑問が発生したら、まずは・・・>
プロテインC欠乏症についてよく知らないので、Uptodateで勉強します(略しながら訳します)
 
Protein C deficiency: Clinical manifestations and diagnosis
 
Introduction
遺伝性の血栓性素因は静脈血栓症を起こしやすい遺伝的な傾向のこと。Factor V Leidenとプロトロンビンの遺伝子変異がこういうケースの50%以上を占める。プロテインSプロテインC、アンチスロンビン(AT)は残りのケースのほとんどを占め、わずかではあるが異常フィブリノゲン血症も原因になる。静脈血栓症を呈する患者における遺伝性血栓性素因の頻度は全体として24-37%であり、コントロール群では10%である。
 
Physiology of Protein C deficiency
プロテインCは肝臓で合成されるビタミンK依存性の蛋白。
プロテインC酵素前駆体として循環し、活性型プロテインCaPC)であるセリンプロテアーゼになって抗凝固機能を発揮する。この過程はスロンビンによってのみ触媒されるが、トロンビンが上皮のトロンボモムリンに結合する時により効果的になる。
aPCの最初の作用は、スロンビンの効果的な生成と凝固因子Ⅹの活性化に必要な凝固因子Ⅴa、Ⅷaを不活化させることである。aPCの阻害的な作用はもうひとつのビタミンK依存性蛋白であるプロテインSによって顕著に増強される。
 
Genetics of Protein C deficiency
ヘテロプロテインC欠乏は免疫学的・機能的に主に二つのタイプで説明される。160もの異なる遺伝子異常はこの二つのサブセットを呈する。
・Type 1・・Type 1がよりコモン。ほとんどの患者がヘテロで、プロテインC濃度が免疫学的検査でも機能的な検査でも正常の約50%
・Type 2・・プロテインCの濃度は正常であるが、機能が減少する
 
Type 1は約生物学的活性値・蛋白量ともに低下するタイプ、Type 2は抗原量は正常であるものの活性値が低下する;活性/抗原比<0.70
 
Clinical presentations
・静脈血栓症・・ヘテロ接合の10代または成人、稀ながらホモ接合の10または成人、二重のヘテロ接合の10または成人
Neonatal purpura fulminans・・ホモまたは二重のヘテロ接合の新生児
・ワーファリンによる皮膚壊死・・・特定のヘテロ接合の10or成人
※二重のヘテロ接合とはヘテロのmutationが複数あることだと思います。
 
Venous thromboembolism
・先天性プロテインC欠乏症は静脈血栓症を呈する患者の2-5%を占めると推定される。連続した患者2131例を対象としたスペインの研究によると、12.9%が抗凝固作用を有する蛋白の欠乏(プロテインC 3.2%、プロテインS 7.3%、ATⅢ0.5%、抗リン脂質抗体4.1%)。深部静脈血栓症外来患者277例のもうひとつのシリーズでも同様に8.3%にATⅢ、プロテインC、プロテインS、またはプラスミノゲンの単独の欠乏が見られた。コントロール群では2.2%であった。
・遺伝性血栓性素因の患者の中で絶対的なリスクは150家系の報告で評価され、Factor V Leiden、ATⅢ、プロテインC、プロテインSの欠乏症による遺伝性血栓性素因の個人において血栓症のリスクを比較した。血栓性素因を持たない個人と比較した生涯の血栓症のリスクは、プロテインS欠乏 8.5倍、ATⅢ 7.3倍、プロテインC欠乏 8.1倍、Factor V Leiden 2.2倍。ヘテロプロテインC欠乏症で7倍とする他な研究がある。
プロテインC欠乏の家族のなかでも遺伝子の異常だけで説明できないリスクの多様性がある。重症の家族では75%もの個人が一つ以上の血栓症を経験することもあれば、リスクがより低い家族もある。より重症例となるリスクは血栓性素因を有する個人において二つ目の血栓性の欠陥、とくにFactor V Leidenがあることだ。ある研究ではFactor V LeidenはプロテインC欠乏の15例中6例、プロテインS欠乏の14例中4例に認められた。二つの欠陥はひとつの欠陥よりもリスクが高かった。4つの研究のレビューによると、二つの欠陥を有する家系のメンバーの75%が血栓症を経験したのに対し、ひとつの欠陥では10-30%だった。
 
Clinical manifestations
プロテインC欠乏症における静脈血栓症の最初のエピソードは約70%で自然に発症する。残りの30%は通常のリスクがある(例、妊娠、分娩、経口避妊薬、手術、or外傷)。
・ほとんどの患者は20代早期には無症状であるが、50歳になるまでに血栓症を経験する患者が増える。発症時の年齢の中央値はプロテインC欠乏とFactor V Leidenとも同様:非選択的な患者層では45歳、血栓性素因の家系では30歳。約60%の患者が再発性の静脈血栓症を呈し、約40%が肺塞栓症の所見を有する。
血栓症のもっともコモンな場所は下肢の深部静脈、大腿静脈、腸間膜静脈。脳の静脈血栓症プロテインC欠乏症やその他の先天性の血栓性素因において、とくに経口避妊薬のような後天的なリスクを合併したときに合併したと報告されている。
 
以下(略)
 
 
→Uptodateを読むことで、プロテインC欠乏症についておおまかなイメージがつかめました。
プロテインCはプロテインSと協力して、凝固因子を不活化するのですね。そのため、遺伝的にそれが少ない人が凝固系亢進に傾くことも理解できます。
プロテインC欠乏症の7割が妊娠や手術などの危険因子がなく、いきなり発症します。最初の静脈血栓症を発症する年齢が中央値45歳というのだから、怖いですね。
血栓症のもっともコモンな場所は下肢の深部静脈、大腿静脈、腸間膜静脈とのこと。一応、プロテインC欠乏症の腸間膜静脈血栓症Uptodateにも記載されるような、よく知られたことのようです。
 
 
 
Uptodateで解決しなかったら、Pubmed
1)  Uptodateの「プロテインC欠乏症」に、門脈系の血栓症の記載はほとんどありませんでしたので、PubmedプロテインC欠乏症による門脈系の血栓症の報告を調べます。
("Protein C Deficiency"[Mesh]) AND *1検索し、51件ヒット;EnglishでLimitsして、34件。
 
1. Prevalence of inherited antithrombin, protein C, and protein S deficiencies in portal vein system thrombosis and Budd-Chiari syndrome
: a systematic review and meta-analysis of observational studies.
J Gastroenterol Hepatol. 2013 Mar;28(3):432-42.
 
9ヶのスタディのメタ解析において、門脈系血栓症の原因として遺伝性AT3 欠乏 3.9%、遺伝性プロテインC欠乏5.6%、遺伝性プロテインS欠乏 2.6%とされており、プロテインC欠乏症は門脈系血栓症の約5%を占めるようです。 
 
 
2)  つぎに、抗リン脂質抗体症候群APS)で門脈系の血栓症は一般的ではないとは思っていましたが、よく分からないので調べておきます。
(((superior mesenteric vein thrombosis) or (portal vein thrombosis))) AND "Antiphospholipid Syndrome"[Mesh]
を検索し、47件ヒット;EnglishLimitsして、34
プロテインC欠乏症と同じ程度の報告数があります。ちゃんと勉強しよう!
  
9. The abdominal manifestations of the antiphospholipid syndrome.
Rheumatology (Oxford). 2007 Nov;46(11):1641-7.
OBJECTIVES:
APSの腹部所見を調べること
METHODS:
MEDLINE1968-2006年までの医学文献をレビューした。キーワードはAPS, anticardiolipin antibodies, lupus anticoagulant, antiphospholipid (aPL) antibodies, catastrophic antiphospholipid syndrome, liver, hepatic biliary, pancreas, spleen, gastrointestinal and abdominal.
RESULTS:
APSにおいて肝障害がもっともコモンな腹部所見だった。様々な肝障害が報告されており、Budd-Chiari症候群、肝静脈閉塞性疾患、小さい肝静脈の閉塞、結節性再生性過形成、肝梗塞、肝硬変、門脈圧亢進症、自己免疫性肝炎、胆汁性肝硬変。急性の腸管閉塞、腹部アンギ―ナを含む。腸管出血も抗リン脂質抗体と関連したと報告されている。脾梗塞と急性膵炎の症例が散在性にわずかなながら報告されている。
CONCLUSION:
APSの患者では腹部疾患のいかなるサインに対しても強い疑いを考慮すべし。肝静脈閉塞や説明がつかない腹部アンギ―ナの患者では抗リン脂質抗体のスクリーニングを行うべきだ。
 
2007年の文献レビューでは門脈圧亢進症の報告はありますが、門脈血栓症の記載がありません。
 
3. Antiphospholipid antibodies and antiphospholipid syndrome: role in portal vein thrombosis in patients with and without liver cirrhosis.
Clin Appl Thromb Hemost. 2011 Aug;17(4):367-70.
抗リン脂質抗体症候群は門脈血栓症に合併する。この研究は肝硬変のある場合とない場合の門脈血栓症における抗リン脂質抗体の寄与を調べる。
PATIENTS AND METHODS:
肝硬変と門脈血栓症を有する50例、門脈血栓症がない肝硬変50例、肝硬変がない門脈血栓症50例、コントロール50例。抗リン脂質抗体はlupus anticoagulants (LAs), IgG anti-cardiolipin antibodies (aCL), IgG anti-beta-2-glycoprotein-I (β(2)GPI), and IgG β(2)GPI-complexed with oxidized low-density lipoprotein antibodies (ox-LDL).
RESULTS:
LAsは全患者で陰性。IgG aCL >40 IgG phospholipid units (GPL)は肝硬変患者の2%に存在したが、その他の群ではいなかった。全体で、肝硬変がない門脈血栓症患者の4%IgG β2GPI陽性であり他の抗リン脂質抗体は陰性であった。これらの患者はAPSと分類された。
CONCLUSIONS:
抗リン脂質抗体は肝硬変患者における門脈血栓症には役割がない。しかし、特発性の門脈血栓症では測定してもよい。
 
2011年の報告は50例×4群の立派な臨床研究ですが、肝硬変を伴わない門脈血栓症4%IgG β2GPIが陽性でした(LACはありませんでしたが)。
 
 
3)  LACに関連した門脈系の血栓症がないかを調べました。
("Lupus Coagulation Inhibitor"[Mesh]) AND *2 にて検索し、10件ヒット。以下、titleだけですが、LACに関連した門脈血栓症の報告も確認できました。
 
6. Two patients with portal vein thrombosis from lupus anticoagulant.
J Clin Gastroenterol. 1998 Jun;26(4):352-3. No abstract available.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9649032
 
 
4)  最後に、プロテインC欠乏症において、LAC偽陽性になることがあるのでは?と考えました。 以下を検索しましたが、0件でした。
((("Lupus Coagulation Inhibitor"[Mesh]) AND "False Positive Reactions"[Mesh])) AND "Protein C Deficiency"[Mesh]
 
 
 
<こたえ>
プロテインC欠乏症は門脈系の血栓症の原因になることが知られている。一方、β2GPI抗体やLACの抗リン脂質抗体も門脈系の血栓症と関連することがある。
 
以上から、SMV血栓症の原因として抗リン脂質抗体症候群の可能性が否定できないと考え、12週間後に再検することにしました。 
 

*1:superior mesenteric vein thrombosis) or (portal vein thrombosis

*2:superior mesenteric vein thrombosis) or (portal vein thrombosis