リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

「ANA陽性のため、膠原病が疑われます」

 
リウマチ科医にとって、よくあるコンサルテーションのパターンです。 
 
最近では健康診断で、抗核抗体やリウマトイド因子を測定されることも多く、ANARF陽性を指摘された方々がお見えになります。
 
もちろん、そういう方が膠原病である可能性はかなり低く、多くの場合膠原病でないことを説明してお帰りいただくことになるわけです。
 
リウマトロジストがこのタイプのコンサルテーションに対応するときに重宝している論文があります。
 
PCに忍ばせておき、そのタイミングで伝家の宝刀のごとくとりだすのです。
 
 
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Prevalence of disease-specific antinuclear antibodies in general population: estimates from annual physical examinations of residents of a small town over a 5-year period.
Mod Rheumatol. 2008;18(2):153-60.
 
 
Study population
日本のある町に住んでいる人で1996-2000年の間、1年に1回の検診を受けた2181人より血清サンプルを得た。女性1409人、男性772人で、平均年齢(範囲)は各々53歳(20-91)、59歳(20-93)。最初のサンプルは複数回受けた人から得たものだ。もし、疾患特異的なANAが陽性であれば、同じ個人のサンプルは疾患特異的ANAの検査を毎年受けた。血清は遠心分離され、-40℃未満で保存された。日本疫学協会のガイドラインに基づき、この研究において個人のインフォームドコンセントが得られ、各々の検体を使用する公式な許可も市役所から得られた。
 
Measurement of ANAs
IFに基づいたFANAwellというキット(Mitsubishi Kagaku Iatron, Tokyo, Japan)を用い、ANAを解析した。このキットはHEp-2を基質とし、蛍光色素イソチオシネート(FITC)でラベルしたマウス抗体(IgG, IgA, IgM)の混合物を二次抗体として用いたもの。ANA検査には1:40に希釈した血清サンプルを用いた。全てのスライドは顕微鏡で二人のラボの技術者で判定された。1:40で陽性であれば、8個の個別の疾患特異的な抗核抗体アッセイを追加した(↓)。8個の疾患特異的ANAEIAキットで以下の定められた抗原とカットオフ値をもって製造者のインストラクションに従って解析した。
U1RNP抗体、MESACUP-2 TEST RNP, Medical &Biological Laboratories (MBL), Nagoya, Japan; antigens were recombinant 70-kDa, A-peptide, and C-peptide,
Sm抗体、MESACUP-2 TEST Sm, MBL; purified Sm antigens,
SSA/Ro抗体、MESACUP-2 TEST SS-A, MBL; purified SSA/Ro protein,
SSB/La抗体、MESACUP-2 TEST SS-B, MBL; recombinant SSB/La protein,
Scl-70抗体、MESACUP-2 TEST Scl-70, MBL; recombinant Scl-70 protein,
セントロメア抗体、ACA: MESACUP-2 TEST CENP-B, MBL; recombinant CENP-B protein,
Jo-1抗体、MESACUP-2 TEST Jo-1, MBL; recombinant Jo-1 protein,
ds-DNA抗体、MESACUP-2 TEST DNAII TEST dsDNA, MBL; lambda-phage-derived purified double-strand DNA,
 
確認検査として、疾患特異的ANAの存在を確かめるため、抗U1RNP, -SSA/Ro, -SSb/La抗体には二重免疫拡散法(ENA-1 and ENA-2, MBL)を、抗dsDNA抗体にはラジオイムノアッセイ法を追加した。抗セントロメア抗体はIF-ANA法でdiscrete speckled patternを持っていることと定義した。
 
Follow-up survey of individuals positive for disease-specific ANAs
疾患特異性ANAが検出された個人の抗体価の毎年の変化は診察や問診票によって判断された身体状況とともに5年間研究された。
 
Data analysis(略)
 
 
Results
 
(Table 1)
イメージ 1
 
Frequency of ANA in sampled population
ANA陽性の血清はIF法で40倍希釈で566/218126%)において検出された。このグループは検査された女性1409人中446人(31.7%)、772例中120人(15.5%160倍希釈でも陽性になったのは9.5%(女性の12.4%、男性の4.3%)。
Table140倍、160倍における陽性率を性年齢で比較したものだ。抗核抗体の陽性率はこれらの倍率では男性よりも女性において有意に高かった(comparison of two proportions)
 
 
(Figure 1)
Frequency of eight disease-specific antinuclear antibodies (ANAs) according to gender and age.
 
イメージ 2
 
(Fig.1 Legend) EIA法にてANA陽性となった566人のうち100人において114の疾患特異的ANAを検出した。複数の疾患特異的ANAを有する血清は以下;3例において抗SSA, SSB抗体が陽性;2例で抗SSA, SSB, セントロメア抗体が陽性;4例で抗SSA、抗セントロメア抗体が陽性;3例で抗SSA, ds-DNA抗体が陽性。●■はEIA以外の検査で確認されたものを示す (方法の確認検査を参照)。○□はEIAのみ陽性のもの。右端の列の値はEIA法における陽性の数、その他の方法で確認された数を()に示す。下端の二つの行は各々の年齢グループにおける男女の疾患特異的ANA陽性の総数を示す。
 
Frequency of disease-specific ANAs
・8種類の疾患特異的ANA EIA法で測定し、ANA 40倍以上で陽性であった566人のうち100人で疾患特異的ANAを検出した。Figure1に性年齢に応じた疾患特異的ANAの頻度を示した。
U1RNP抗体、11例(女性10例、男性1例)
SSA/Ro抗体、58例(女性50例、男性8例)
SSB/La抗体、5例(女性4例、男性1例)
セントロメア抗体、30例(女性26例、男性4例)
ds-DNA抗体、10例(女性6例、男性4例)
Sm抗体、0
Scl-70抗体、0
Jo-1抗体、0
 
・EIAの抗体価(mean ± SD, index)
U1RNP抗体、48.6 ± 27.1
SSA/Ro抗体、83.9 ± 33.9
SSB/La抗体、61.0 ± 33.3
セントロメア抗体、83.7 ± 61.6
ds-DNA抗体、26.2 ± 15.2
 
・疾患特異的ANAと免疫蛍光法の染色パターンについてχ二乗検定を行ったところ、SSA/Ro抗体はspeckled patternと関連し(OR 12.1)、cytoplasmic patternと関連した(OR 2.1)。抗セントロメア抗体はdiscrete speckled patternと関連した(OR 348.9)
 
・確認検査を行ったところ、抗U1RNP抗体陽性の11例中7例、抗SSA/Ro抗体の58例中50例、抗SSB/La抗体の5例中1例、抗セントロメア抗体の30例中23例、抗ds-DNA抗体の10例中3例において陽性であった。
 
・疾患特異的ANAの全てが免疫蛍光法によるANAのスクリーニングで検出されたと仮定すると、SSA/Ro抗体は一般人口の2.7%(女性3.5%、男性1.0%)、抗セントロメア抗体1.4%1.8%0.5%)であり、この二つの抗体は女性で有意に多かった(各々P<0.0001P = 0.011)。U1RNP抗体、抗SSB/La抗体、抗ds-DNA抗体の男女における頻度は有意差はなかった。
 
・抗SSA/Ro抗体の女性における頻度は80歳までは有意に上昇し続ける傾向が見られた(P = 0.01)。
セントロメア抗体では7つの年齢群において有意差はなかった。
 
Correlation between disease-specific ANAs and clinical features(略)
・多重ロジスティック回帰分析にて解析したところ、抗SSA抗体は肝疾患と関連(p=0.026)。
 
 
Correlation between the presence of ANA and viral antibodies(略)
・抗HBc抗体、抗HCV抗体、抗HTLV-1抗体の陽性率はANAの有無にて有意差なし。
 
 
(Table 3)
 
イメージ 3
 
 
Physical condition of individuals positive for disease-specific ANA
・抗U1-RNP、抗SSA、抗ds-DNA、抗セントロメア抗体の疾患特異的ANA陽性の100人のうち60人において診察と問診によってリウマチ性疾患、自己免疫疾患の存在を決定することができた(Table3)。
・抗SSA+の40例のうち4例がシェーグレン症候群(SS)を有し、それ以外の4例でシェーグレン症候群が疑われた。3例でRAが疑われ、1例が亜急性皮膚ループスが疑われた。
4例のSSのうち1例がSSASSBとも陽性であったが、SS疑いの4例でSSBが陽性であった者はいなかった。
・抗セントロメア+の17例のうち1例がシェーグレン症候群を有し、SSAも陽性だった。2例がRAを有し、1例が強皮症の限局皮膚型。
・抗U1-RNP4例のうち2例がSSを有し、1例がSS疑い。
・リウマチ性・自己免疫疾患の 60例のうち18例がすでにリウマチ性疾患に侵されるか、疑われていた。RAの患者はすでにその他の病院で診断を受けていたが、6例がこの度の検診においてSSと診断され、医療施設に紹介され、Vitaliらによる基準を用いて確認された。
・各年齢群における比率は日本の人口の平均の比率とパラレルであり、RAのような疾患の有病率も日本の一般人口におけるそれとほぼ一致していた。そのため、私たちはself-selection biasの影響は小さいと考えた。
・疾患特異的ANAを有する60例のうち、34例(57%)は臨床的に健康であり、リウマチ性疾患の症状はなかった。
・抗SSAまたはセントロメア抗体陽性の11例(18%)は肝機能異常があったり、肝疾患の既往があった。
 
Annual changes in levels of anti-SSA/Ro and ACA antibodies(略)
・抗SSA抗体の経年変化にて健常人17例のうち2例が上昇傾向を示したが、健康を維持した。
 
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この研究は、日本人の一般人口におけるデータです。
 
各年齢層で258-516人の検体を調べており、過去の同様のスタディ(※)よりも大規模です。
 
なので、私たちの臨床現場に応用してもよいと思われます。
 
Table 1を参考にすれば、60代女性がANA160倍で紹介されて来ても、
 
「リウマチ性疾患を疑う所見に乏しいようです。この年代の女性では約14%でANA160倍以上になるという報告があります。」
 
とお返事できます。
 
また、疾患特異的ANAのデータも重要です。
 
 
SSA/Ro抗体は女性の3.5%、抗セントロメア抗体は女性の1.8%でみられます。
 
 
これらの抗体はコモンなのです!!
 
 
特異的ANAを有する100人のうち、60例について詳しい病歴と診察が行われ、リウマチ性疾患は18例、肝疾患(AIH疑い※)が11例、残り34例(57%)が無症状でした。
 
一般人口では、特異的自己抗体が陽性でも、50%以上が無症状、肝機能障害を含めると75%が無症状ということになります。
 
(※)Discussion参照
 

 

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