リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

リウマチ性多発筋痛症 vs 関節リウマチ

<Scenario case>
70歳女性、2週間前に発症した両肩、両股の疼痛にて来院。
 
疼痛は午前中いっぱいはVAS10/10で、日中は少し和らぐ。
 
既往に糖尿病あり。骨密度減少あり。
 
診察上、両肩、両股は高度のROM制限を認め、両手、両膝の関節炎を認めた。右手に手根管症候群合併あり。
 
CRP10、ESR110。RF高値陽性、ACPA陰性。
 
関節エコーにて両肩、両股に関節腫脹、滑液包炎を認めた。
 
RAの新分類基準(2010)にて7点とされ、RAと分類可能であった。ACR1987年の基準は6週間未満なので満たさない。
 
PMRの暫定的分類基準(2012)にて5点とされ、PMRと分類可能であった。
 
この症例、 PMR? RA?
 
 
(症例は架空です)
 
 
<PMR vs RA>
この度読んだ、論文を紹介します。
 
Presenting features of polymyalgia rheumatica (PMR) and rheumatoid arthritis with PMR-like onset: a prospective study
PMRPMR様の発症をするRAの主な症状
 
Abstract
Objective
前向き試験にてPMR患者とPMR様の発症をしたRA患者が特徴的な臨床所見、ラボデータを示すかどうかを調べること
 
Methods
少なくとも1ヶ月両側の肢帯の痛みと血沈上昇を呈する連続する患者116例のコホート研究がおこなわれ、12ヶ月フォローされた。ラボデータにはESRIgM-RFHbWBCPltCD8%AST/ALTALPglutamyltransferaseを含めた。
 
Results
初診時、RA116例中22例(19%)で診断され、PMR94例(81%)に診断された。フォローの間、19例が新たにRAを発症し、試験終了時にはPMR65例(56%)になった。臨床所見とラボデータのなかで末梢の滑膜炎のみがRAに進展する患者を真のPMRから区別した。しかし、陽性適中率は低かった。
 
Conclusion
現在のところPMRPMR様の発症をするRAを早期に区別する臨床所見、ラボデータはない。
 
 
******************************************
 
図表とともに解説します。
 
RA、PMRの分類は最新の基準ではないようです(RAは1987年ACR基準)。
初診時にRAと診断されない限り、PSL17.5mgで加療され、寛解を保つよう8ヶ月後5mgに減量されました。フォロー中、関節炎が持続(再燃)し、ACR基準(1987)を満たすほどでない患者の取り扱いはどうだったのかは不明です(この基準は臨床現場での診断には向いていないですから)。
1年後の診断をゴールドスタンダードとしたと理解してよいでしょう。
 
Figure 1
イメージ 1
 
1ヶ月以上両側の肩or股の疼痛を訴え来院した50歳以上の患者116例のコホートです。初診時に22例がRA、96例がPMRと判断されました。
その96例を1年間フォローしているうちに、19例がRAと判断され、3例が悪性腫瘍、3例が側頭動脈炎と判断されました。4例は受診しなくなりました。
したがって、1年たってもPMRと判断されたのが94 -(19 + 3 + 3 + 4)=65例でした。
この試験は、このtrue PMR 65例と、当初PMRと判断されたが後にRAと判断された19例(RA with PMR-like onset)を比較したものです。
最初にRAと判断された22例を除外したところが論文の目的にかなっていると思います。
 
さて、初診時の所見で何が各々を予測したのでしょうか。
 
 
 
イメージ 2
 
Table1に示す、有意差があった3所見のうち、多変量解析しても有意であったものは「末梢の滑膜炎」のみでした。この所見があったのはPMRで17/65(26%)、RAで15/19(79%)と、50%以上の差があり、有意な差となりました。しかしながら、元々RA群が少なかったため、この所見がRAを予測する確率=陽性的中率=15/32(47%)と低くなりました。なので、せっかく末梢の関節炎を見つけてもRAと判断できる確率は半分弱ということです。
 
 
 
イメージ 3
 
ラボデータの方も期待はずれです。RF陽性はPMRで8/65(12%)、RAで7/19(37%)と有意な差がありましたが、多変量解析後、有意差はなくなりました。
 
 
以上から、結語に「PMRPMR様の発症をするRAを早期に区別する臨床所見、ラボデータはない」となったわけです。
 
 
この報告は2001年の報告ですが、それから十数年たち、RAもPMRも分類基準が改定されました。とくにRAの分類基準において「RFまたはACPAが高値陽性(>上限の3倍)」に3点という高い点数があてがわれました(6点でRAと分類)。
 
まだ、エビデンスはありませんが、この研究で検証されていない、「RF高値陽性やACPA陽性がRAを示唆する」という仮説に期待したいところでしょうか・・・
 
  
 
<Scenario case の経過>
末梢(両手、両膝)の関節炎、RF高値陽性より、関節リウマチの可能性が高いと判断した。少量プレドニゾロン(PSL 5mg)、メトトレキサートによる治療を開始した。
 
PMRの可能性を否定できないのなら、論文のように一旦PMRとして治療してみて(PSL15mg程度で)、関節炎が残るならMTXを乗せるという方法も間違いではないかもしれない。
  
 
PS; pubmedでpolymyalgia rheumatica rheumatoid arthritisを検索し、clinical trialでlimitsかけたのですが、18件中適当な報告がありませんでした。最近出版された評判の本にこのテーマが記載されていて、この重要な論文にたどり着きました。
https://www.igaku-shoin.co.jp/bookDetail.do?book=62555