リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

クラミジア・トラコマティス(Chlamydia trachomatis)感染症の検査法

<Clinical scenario>
24歳女性が3日前からの発熱、1日前からの左膝の急性関節炎にて紹介された。
診察上、結節性紅斑、口腔潰瘍を認めた。
2年前にクラミジア感染症にて治療歴がある。
アジスロマイシン1gを投与後、解熱し、関節炎も消退した。
(症例は架空です)
 
検査;頚管スワブクラミジアPCR陰性、クラミジア・トラコマティスIgA高値、IgG高値
 
臨床経過はクラミジア・トラコマティスによる反応性関節炎(ライター症候群)で良さそうであるが、頚管スワブPCRが陰性であった。
 
<疑問>
診断はクラミジア・トラコマティスによる反応性関節炎としてよいか?
→ PCRの感度はどの程度か?
 (100%に近ければ診断を改めなければいけないかもしれない)
 
 
UptodateReactive arthritisの診断について調べた>
 
Reactive arthritis (formerly Reiter syndrome)
 
Diagnostic evaluation反応性関節炎(Reactive arthritis; ReA)の疑いがある患者における診断は主訴と感染源を有しそうかどうかによる。ほとんどの患者で以下を行っている。
§  徹底的な病歴と身体所見(※)。病歴聴取はとくにReAの特徴的な筋骨格の症状をその他の代賛となる病気から区別することに当てられ、とくに下痢や尿道炎のような先行、または同時発症する感染症に当てられる。身体所見は関節の詳細な診察であり、関節の診察はもちろん、踵部、手指・足趾、脊椎も含む。一般的な診察はその他の全身性疾患や限局性の関節症を呈する疾患を除外するために行う。
§  疼痛のある関節・付着部のX線を関節炎、疲労骨折などのその他の関節痛の原因を除外するために行う。
 
病歴と身体所見に基づいて(※)、以下の検査を行う。
§  関節の液貯留がある患者では関節液穿刺と検査を行う。総WBCWBC分画、結晶の検索、グラム染色・培養による細菌検査。関節液・組織における病因微生物の検査はReAのルーチンの検査・管理のためには行わない。
§  活動性下痢症の患者では、Salmonella, Shigella, Campylobacter, Yersiniaの検査のため、便培養を行う。腸管由来の病因微生物の血清学的検査は特異性が低いため、通常適応にならない。
§  Chlamydia trachomatisが疑われる患者、消化管or尿路の症状がない患者においては、初尿(尿の最初の部分)、膣スワブ(患者で自己で取ってもらったり、医師によって採取したりして)を採取して核酸増幅を用いたクラミジアの検査を行う。クラミジアの検査は "Clinical manifestations and diagnosis of Chlamydia trachomatis infections", section on 'Test performance by specimen' に詳細を述べる。
 
診断の可能性をさらに上げたり、下げたりするが、単独では診断も除外も出来ない追加的な検査として以下がある:
§  ルーチンのラボラトリー検査CBCと分画、急性期反応物質、肝腎機能、尿検査を急性炎症を示唆する所見を得るため、あるいはその他の全身性疾患を除外するために行う。
§  Testing for HLA-B27 – ReAの可能性が中間的である患者では、HLA-B27を行う。ReAにおけるHLA-B27の頻度は30 – 50%。したがって陽性であれば、脊椎関節炎のその他の型以外の関節炎よりも、ReAが正しい診断である可能性を上げる。強直性脊椎炎のような脊椎関節炎のその他の型である確率が中間的な患者では、陽性であれば診断の疑いを強め、陰性であれば弱める。
§  RAの血清学的検査多関節炎を呈し、RAの可能性が考えられる患者においてはリウマトイド因子や抗CCP抗体を測定する。RA70-80%以上でこれらの一つが陽性であるが、ReAでは通常陰性。 
 
(※)反応性関節炎(ReA)の定義、疫学、臨床所見は別にまとめました。
 
 
クラミジアの検査に飛ぶ>
"Clinical manifestations and diagnosis of Chlamydia trachomatis infections", section on 'Test performance by specimen'に詳細が記載されているというので、飛びます。
 
 
Clinical manifestations and diagnosis of Chlamydia trachomatis infections
 
DIAGNOSIS OF CHLAMYDIAL INFECTIONS尿生殖器系のクラミジア感染症の診断のための検査は女性には膣スワブ、男性には初尿における核酸増幅法である。頸管内スワブ尿道スワブでも可能であるが。核酸増幅法ができない場合、クラミジア診断のための抗原検出と遺伝子プローブ法が頚管内スワブ尿道スワブであれば行うことができる。クラミジアRapid testが可能であれば診断に使える。特異的な診断的検査ができない場合、クラミジアの診断はクラミジアに関連する症状・所見が若い患者あるいは性的活動性のある患者に見られれば推定することができる。
アナルセックスされる側の人において、直腸のクラミジア感染症は直腸スワブで診断できる。いくつかの実験室が臨床検査の改善のための修正案(CLIA)の規制のもと、直腸のサンプルを用いた核酸増幅法の検査の妥当性と必要事項を満たした。直腸のサンプルのための核酸増幅法ができない場合、血清学的検査がクラミジア腸炎の診断を支持しうるが、限定的である。鼠径リンパ肉芽腫症の直腸炎を疑った臨床医はその地域の公衆衛生のオーソリティーと感染症スペシャリストにどうやって有効に診断できるかアドバイスを求めるべし。
核酸増幅法はクラミジア結膜炎を診断するために結膜のスワブでも行うことができる。クラミジア咽頭感染症は稀と考えられており、検査の材料にならない。
もし、核酸増幅法以外の検査ができる場合や十分なフォローの保険がない場合、クラミジア感染の症状・所見のある患者は診断結果が得られるまでにエンピリカルに治療されるべし。
 
Diagnostic techniques診断法として核酸増幅法、培養、抗原検出、遺伝子プローブがある;顕微鏡法はクラミジアの診断に有用ではない。核酸増幅法は優れた感度と特異度のため、検査できる施設では診断のための選択肢となる。この検査法を用いて、初尿or自己採集による膣スワブのような非侵襲的なスクリーニングが可能となり、クラミジア感染症(および淋菌感染症)の診断アプローチの選択肢となった。しかしながら、頚管炎の症状を呈する女性で検鏡を行った患者、あるいはルーチン子宮頸部細胞診のハイリスクの女性では経管内スワブまたは膣スワブのどちらでも核酸増幅法が可能である。
 
Nucleic acid amplification核酸増幅法はPCRtranscription-mediated amplification (TMA)strand displacement amplification (SDA)を用いて、クラミジア・トラコマティスDNARNAシークエンスを増幅する方法である。これらは感度、特異度とも高く、Gold standardとなっている。可能であれば好まれる診断法である。
 
Test performance by specimen核酸増幅法の大きな利点は骨盤診察や尿道スワブの必要がないサンプルを用いなくても、検査特性が優れていることである。これらの検査は尿や膣スワブでも頚管内スワブ尿道スワブでも行うことができる。実際、女性では膣液のスワブが感度が最も高いため、クラミジア感染の診断において好まれるアプローチである。核酸増幅法に提出する最初の尿とは、生殖器を消毒せずに最初の排尿約10mlを採取することである。理想的には患者は尿を採る前2時間は排尿するべきでない。検査特性は膿や血液があっても影響を受けない。
尿におけるクラミジア・トラコマティス核酸増幅法の感度と特異度を評価した29の研究データを集めたシステマティックレビューがある。感度と特異度の評価のまとめが尿、頚管サンプルにおける3つの核酸増幅法(PCR, TMA, or SMA)について算出された。尿という非侵襲的な検査法の感度、特異度は侵襲的な検査と同等であることを示した。以下の通り、TMASMAよりもPCRにおける解析でより多くのデータが得られたが。
§  PCR法の14の研究において、尿サンプルでpooled sensitivity 83%, pooled specificity99.5%、頚管サンプルで86%99.6%
§  TMA法の4研究において尿サンプルでpooled sensitivity 93%pooled specificity 99%。頚管サンプルで97%99%
§  SDA法の2つの研究において、尿サンプルでpooled sensitivity 80%pooled specificity 99%。頚管サンプルで94%98%
このメタ解析に続いて、いくつかの研究が女性において医師または患者によって採取された膣液スワブを用いた核酸増幅法が尿よりも感度が高かった。いくつかの症例では頚管内スワブよりも感度が高かった。
いくつかの研究によると、直腸サンプルを用いた核酸増幅法は直腸クラミジアを診断する上で培養よりも感度が高かったが、特異性も高かった。これらのサンプルを自己採取することはMSMのスクリーニングを容易にするもう一つのオプションとなる。米国のいくつかの実験室はCLIAの規制の妥当性の必要事項を満たしており、直腸サンプルを用いて核酸増幅法を行うであろう。しかし、妥当化された直腸の核酸増幅法はどこでもできるわけではない。この米国における妥当性に関する情報は以下;www.cdc.gov/std
 
Rapid tests for chlamydia核酸増幅法が新しいGold standardとして培養にとってかわったが、検査当日に結果は得られない。さらに核酸増幅法は資源が限られた状況では高価な検査法である。いくつかの免疫検査法に基づいた検査が開発され、自己採取されたサンプルにおけるクラミジア抗原に結合するモノクローナル抗体に基づいている。これらの迅速検査法は30分以内に結果が得られ、安価である。また結果は試験紙の色の変化に反映されるので判定しやすい。
期待できる検査法が2009年に報告された。男性の初尿におけるthe Chlamydia Rapid Test (CRT)である。この検査法はクラミジアのリポ多糖類に対するモノクローナル抗体を用いており、Gold standardであるPCR法と比較された。CRTの感度、特異度、陽性適中率、陰性適中率は83% (90/109), 99%(1085/1102), 84% (90/107), 98% (1085/1104)。この検査法は米国では商品化されていない。
 
Culture培養は費用と専門知識が必要となるため、研究的で参考的なラボに限られている。
 
Serology — C. trachomatisの血清学 (CF法の値 >1:64) は適切な臨床状況でクラミジアの診断を支持するが、めったに行われず、標準化されておらず、解釈に高度の専門的な見解を要する。男性の直腸感染の診断には女性の上部生殖器感染症で行われるようには行われない。
 
Antigen detection抗原検出は頚管や尿道スワブを用いる侵襲的な方法を要する。感度は培養に比べ80-95%である。
 
Genetic probe methods遺伝子プローブ法はターゲットとなる遺伝子の増幅をするものではないため、入手可能な遺伝子プローブ法は頚管や尿道の直接スワブを用いた侵襲的な検査法である。感度は培養に比べ約80%。おもな利点は安価なこと;しかし、核酸増幅法よりも感度がかなり低く、また核酸増幅法がより価格競争で安価となっているため、この検査法は以前のように行われなくなった。
 
Whom to test性活動期にあれば、クラミジア感染に関連した症状や所見を呈する、いかなる個人もクラミジア・トラコマティスの診断的な検査を受けるべし。しかし、大多数のクラミジア感染症が無症候性であるため、クラミジア感染のハイリスクの性活動期にある患者は核酸増幅法によるルーチンスクリーニングを行うべし。これらは25歳以下の女性、妊娠女性、新たなセックスパートナーや複数のセックスパートナーを有する女性、MSMの男性である。さらに、淋菌感染が分かったいかなる患者もクラミジアの検査を受けるべし。
 
Patients with recent exposure1-2週間以内にクラミジア感染のリスクがある、あるいはクラミジアに暴露されたことが分かっている患者(強姦など)では、治療の決定を説明するためにこの検査を行うべきではない。そういう患者はエンピリカルに治療するべきだ。
 
Patients with persistent symptomsクラミジア感染が確認された患者においてコンプライアンスがよく適切な治療がなされているのに症状が続いている場合、初期治療の失敗によるものではない。3ヶ月おきに評価された成人女性の縦断的なコホート研究において、核酸増幅法とompAジェノタイピングが再感染と持続的感染の割合を調べるために用いられた。210の参加者において、478回の感染症が観察された。これらの女性のうち、121人は感染の繰り返しであった。そのほとんど(84%)が再感染によるものであり、14%probable/possibleな治療失敗に分類された。治療をしないで感染が持続したのは2.2%だけであった。
このように、クラミジア感染に関連した持続的な症状は通常、再感染によるものである。臨床医は再感染の可能性について質問すべきであり、これにはセックスパートナーが治療を受けたかどうかも含めるべきだ。核酸増幅法は前治療からの期間に関わらず症状が続く場合には再感染の評価のために選択肢となる。
 
Recurrence of symptoms最初改善してし症状が再発する場合、尿道炎や頚管炎の原因となるクラミジア感染とその他のSTDを繰り返し評価すべきである。これには淋菌、細菌性膣炎やその他の病因微生物を含む。核酸増幅法は前治療からの間隔に関係なく、症状が再発した場合の再感染の評価には選択肢となり続ける。過去に治療された患者においてクラミジアが再度診断された場合、上述の通り通常、再感染を示唆する。
 
 
 
<答え>
頚管サンプルを用いたクラミジア・トラコマティスPCRは感度86%であり、14%を見逃す。
 
診断はクラミジア・トラコマティスによる反応性関節炎でよいと考えた。
 
ps; 結節性紅斑は膿漏性角皮症とともにReAの皮膚症状として知られています。