リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

抗ARS抗体を有する患者の手の特徴的な関節症

抗アミノアシルtRNA合成酵素抗体症候群(抗ARS抗体症候群)は関節症をきたすことが知られています。
 
ですが、その詳細はCase reportsやseriesを根拠としておりました。
 
この度、この問題に焦点をあてた研究が報告されました。
Limitationに述べられているようにretrospectiveな横断的研究ではありますが、現在得られる最良のエビデンスであることに違いはありません。
 
知らないことが多かったので、できるだけ全訳しましたが、ぜひ原書に触れてみてください。
 
 
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Distinct arthropathies of the hands in patients with anti-aminoacyl tRNA synthetase antibodies: usefulness of autoantibody profiles in classifying patients
 
抗アミノアシルtRNA合成酵素抗体の患者の手の特徴的な関節症
 
 
Introduction
 
・特発性炎症性筋疾患は関節症状をよく合併するが、通常軽症でRAのように関節破壊を来たさない。関節炎は抗ARS抗体陽性の患者には陰性の患者よりもよく見られる。
・抗ARS抗体の患者の関節症は4つのパターンがある;ただの関節痛、亜脱臼を来たさない非びらん性関節炎、亜脱臼を来たす非びらん性関節炎、びらん性多関節炎。
・亜脱臼性の関節炎は抗Jo-1抗体に関連した亜脱臼性の関節症としてBunchOddisらによって報告されたのが最初である。特徴的なのは、変形を来たすが非びらん性の関節症であり、IP関節の亜脱臼、とくに第1指のIP関節の亜脱臼(Floppy thumbと称される)を来たし、しばしば関節周囲の石灰化を伴うことである。
・顕著な破壊性びらん性関節症を来たした抗Jo-1抗体陽性の患者が数例報告されている。抗Jo-1抗体陽性のびらん性関節症は関節炎の分布がRAとは全く異なる。とくに、抗Jo-1抗体関連の関節症はおもにDIPを侵し、しばしばびらんがほとんどない亜脱臼を来たす。反対に、抗Jo-1抗体陽性の患者が抗CCP抗体陽性でPIP, MCP, DIPにおける重症のびらんを来たすという、いくつかのケースレポートがある。しかし、びらん性関節症が抗ARS抗体自体で起きたのか、RAが合併して起きたのかは議論のあるところである。
・さらに、現在では血清中の自己抗体が標的としているARSは多数ある;ARSとして、Jo-1(ヒスチジルtRNA合成酵素)、PL7(スレオニルtRNA合成酵素)、PL12(アラニtRNA合成酵素)、EJ(グリシルtRNA合成酵素)、OJ(イソロイシルtRNA合成酵素)、KS(アスパラギニルtRNA合成酵素)がある。そして、各々の抗ARS抗体が固有の特徴を有するのだ。
・過去の関節症に注目した報告は抗Jo-1抗体に限定しており、抗ARS抗体に関連してコモンな関節症の特徴があるのかどうかは分かっていない。この研究の目的は構造的破壊と自己抗体のプロファイルに注目し、抗ARS抗体に関連した手の関節症の特徴を調べることである。
 
 
Subjects and methods
(簡略化しています)
 
1983-2011年の間、膠原病が疑われた患者で、血清サンプルがANA実験室に送られた11884例について、この研究に適任かどうかを評価した。登録の基準は
(i) 免疫沈降法で抗ARS抗体(Jo-1, EJ, OJ, PL-7, PL-12, KS)が陽性であること、
(ii) 関節症状があること。
・抗ARS抗体陽性患者102例のうち、60例が関節症状を有したが、4例は手のX線が入手できなかったため除外した。結果として56例を登録した。
・カルテのレビューでretrospectiveに患者の背景、臨床情報を入手した。
・抗ARS抗体は免疫沈降法。RF、抗CCP抗体のカットオフ値は15IU/L4.5U/mL
・手のX線は盲検化した二人の読影者にて行われ、相違があったら合意するまで話し合いをした。
統計学的な分析はSPSS
 
 
Results
 
Characteristics of patients with anti-ARS antibodies and joint symptoms 
関節症状を有する抗ARS抗体患者の特徴)
・抗ARS抗体は手のX線が得られた56例でみつかり、内訳はJo-1 28, EJ 9, OJ 1, PL7 7, PL12 5 KS 6例。いずれもその抗体に特異的でその他の筋炎に関連する抗体は有さなかった。
・関節症状とは別に、それらの臨床診断は多発性筋炎±間質性肺炎ILD26例、皮膚筋炎±ILD 10例、ILDのみ12例、強皮症5例、シェーグレン症候群1例、UCTD 2例。X線をとった時の平均年齢は57.6歳で関節症状が出現して9.4年。ANA陽性18(32%)RF陽性25(45%)、抗CCP抗体陽性16 (29%)
・抗ARS抗体陽性で関節症状がない患者が42例いて、Jo-1 20例、EJ 7, OJ 2, PL-7 8, PL-12 4例、KS 2例。臨床診断はPM 18, DM 10, ILDのみ 9例、強皮症 5例。その割合は関節症状の有無で変化はなかった。
 
X-ray findings of the hands 
手のX線所見)
・二人のX線読影者の同意のカッパ係数は骨びらんについては0.93, 亜脱臼については0.78、全体的な所見としては0.87であった。
・有意なX線変化は20 (36%)2-5DIPの骨びらん、第2-5PIPの骨びらん、第2-5 MCPの骨びらん、第1IP、第1MCP、第1CMCの骨びらんは12.5 to 23.2%の間で同様の頻度でみられた。
・第1MCPの亜脱臼は13(23%)にみられ、第2-5DIP、第2-5PIP、第2-5MCP、第1IP、第1CMCを含むその他の関節の頻度(9, 7, 11, 13 and 14%)よりも高頻度。興味深いことにびらんを伴わないのに亜脱臼を来たした関節があり、これは第1指で頻度が高かった(第1IP 43%, 1MCP 38%、第1CMC 13% vs 2-5DIP、第2-5PIP 25%、第2-5MCP 0%)。
9例(16%)が手の強直を認め、3例(5%)が関節周囲の石灰化を認めた。
 
Categorization based on hand X-ray findings
手のX線所見に基づいたカテゴリー)
・抗ARS抗体陽性の患者における個々のX線所見のなかで相関関係を調査した。15関節において骨びらん、亜脱臼、強直、関節周囲の石灰化を含む個々のX線所見をクラスター解析を用い解析した。その結果、所見のパターンは大きく二つのメジャーなグループに分かれた:ひとつはおもに骨びらんと強直を呈する群(Group A)、もうひとつはおもに亜脱臼を示す群(Group B)。代表的なX線をFig.1に示す。
・第2-5MCPの強直と骨びらんは互いに有意に関連しており、強直、骨びらんとも第1CMCの亜脱臼をほぼ伴わず、ほぼ排他的に存在した。1例のみこれらの所見が全てそろっており、Group Aとみなし解析した。・結果として12(21%)Group A8(14%)Group Bに分類され、有意なX線所見を呈さない残りの患者はGroup Nに分類することにした。
・予測された通り、Group ABX線所見は第2-5PIP、第2-5MCPの骨びらんにおいて、手関節の強直において有意に違っており、これらの所見全てが典型的にはGroup A(全てでP<0.01)。
・第1CMCの亜脱臼と関節周囲の石灰化はGroup Bの患者に特徴的であった(各々P<0.01P = 0.02)。第1CMC亜脱臼はCMCの変形性関節症によっても影響されるかもしれないが、第1CMCの亜脱臼と骨びらんのびらん性変化の程度に関連はなかった。
 
Table 1
イメージ 1
  
次にX線所見で層別化したグループの間で患者背景と自己抗体のプロファイルについて比較した(Table 1)。
Group ABGroup Nと比較し有意に長い病歴を有していた。
Group Bの患者全例が炎症性筋炎を有した。関節周囲の石灰化を呈した3例の患者は全てはSScと重複する所見を有さないPM or DMと診断された。
RF陽性率、抗CCP抗体陽性率はGroup Aで有意に高かったが、Group BNでは同程度であった。
・反対にGroup Bの患者全てが抗Jo-1抗体陽性で、この100%と言う頻度はその他のgroupよりも有意に高かった。
 
 
Discussion
 
・この研究で抗ARS抗体を有する患者の手のX線は不均一であり、3群に分類できうることが示唆された。過去に報告されたように、非破壊性関節症がもっともコモン。その他にも二つのはっきりとした破壊性の関節症があった。
 
Group APIPMCPに骨びらんand/or手関節の強直を呈し、抗CCP抗体とRFが陽性であった。Group Bの患者は母指CMCの亜脱臼と関節周囲の石灰化を呈し、抗CCP抗体やRFとは関連がなかった。Group Aはいかなる抗ARS抗体でも見られたが、Group Bは抗Jo-1抗体の患者にのみ見られた。
 
・抗CCP抗体とRFRAの新分類基準に含まれる血清学的マーカーであり、RAは典型的にはPIPMCP関節を侵し手関節の強直の原因となる。さらに、抗Jo-1抗体の患者の関節症の所見は母指のdislocationと関節周囲の石灰化であると報告されている。これらを考慮すると、RF、抗CCP抗体、Jo-1抗体の測定は抗ARS抗体に関連する破壊性関節症の二つのタイプを区別するのに有用である。
 
・抗CCP抗体はその高い特異性からRAを診断するためにとりわけ有用であり、抗CCP抗体を有するRA患者は陰性の患者と比べ関節破壊がより進行するため、関節破壊のマーカーとしても知られる。
 
・NagashimaらはDMで抗Jo-1抗体と抗CCP抗体ともに有する2例を報告し、いずれも手の顕著な破壊を呈した。この抗Jo-1抗体を有する破壊性関節症のタイプはユニークなサブタイプなのかもしれない。
 
Cavagnaらは抗Jo-1抗体陽性の12例を調べ、抗CCP抗体は抗ARS抗体症候群のびらん性関節炎のマーカーになることを示唆した。したがって、我々はPIP/MCP関節の骨びらん・手関節の強直を伴う関節症で、抗ARS抗体の患者で見られることもある抗CCP抗体・RFを有するものはRAに一致すると推測できた。実際、Nagashimaらは炎症性筋炎とRAの合併は稀ではない事を後に報告した。
 
・この研究は臨床データがretrospectiveに集めた横断的研究であるため、抗ARS抗体に関連する関節症の自然歴と治療への反応を評価することは難しい。X線所見で著変なかった患者の疾患の期間はRA患者と抗ARS抗体に関連する関節症よりも短かった。そのため、X線変化は特に抗CCP抗体and/orRFを有する患者では時間とともに出現し増加してもよいと考えた。
 
・しかし、retrospectiveなデザインであることが本研究の大きなLimitationであり、縦断的な解析が将来の前向き研究においてなされるべきだ。抗ARS抗体陽性の患者にしばしば見られたDIPの骨びらんは脊椎関節炎が合併したためではないかと推測できるかもしれないが、その可能性は考えにくい。なぜなら、患者のなかで臨床的にAS、乾癬、炎症性腸疾患と診断された患者や炎症性腰痛や典型的な皮膚所見を呈した患者はひとりもいないからだ。しかしながら、我々は足趾、膝、脊椎X線をとっていないため、この可能性を否定することはできない。さらに、我々は両手のX線所見だけで患者を分類した。もうひとつのLimitationは非Jo-1ARS抗体が少なかったため、それらの抗体とX線所見の特徴との関連を評価できていないことである。
 
・結語として、不均一な抗ARS抗体関連関節症を分類する上で、血清の自己抗体の測定は有用である。