リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

Weeklyに減らすと、総CYCが増えても感染症は減る

日本のANCA関連血管炎の診療はシクロフォスファミド(CYC)を用いるかどうか、ステロイドの初期量をどの程度続けるかが、施設によって様々です。
 
 
CYCを使い慣れていない施設はステロイド単独で治療を始めやすく、CYCに慣れた施設ではステロイド減量の仕方も統一されていないのではないかと思うのです。
 
 
2011年に報告されたガイドラインでも、グローバルな治療法として海外のEBMを紹介する一方、RPGNの治療として、Retrospective cohortに基づいたステートメントを記載されています。
 
 
ANCA関連血管炎において、ヨーロッパではステロイド剤を週単位に減量するという方法がとられておりますが、これはCYCを併用することを前提としています。
 
 
個人的には、先にご紹介したCYCLOPSに従ってやっており、上手くいっております。
 
 
さて、この度ご紹介するのは、日本人のAAV患者を対象とし、毎月IVCY(C)を投与した際(※)のステロイド減量法として、初期量を少なくとも1ヶ月投与した後に減量する方法(Monthly群)とBritish Society of RheumatologyBSR)で推奨される週単位で減量する方法(Weekly群)を比較した研究です。
 
 
おそらく、ステロイド減量の方法を比較した最初の報告でしょう。1年以内の感染症ステロイド誘発性糖尿病がWeekly群で有意に少なかったという貴重な内容です。
 
 
(※)IVCY2週毎に3回、その後3週毎に繰り返すCYCLOPSとは異なります。
 
 
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Evaluation of weekly-reduction regimen of glucocorticoids in combination with cyclophosphamide for anti-neutrophil cytoplasmic antibody (ANCA)-associated vasculitis in Japanese patients.
 
 
日本のANCA関連血管炎患者において、シクロフォスファミド併用時の週単位のステロイド減量法を評価する
 
 
Patients and Methods
 
Subjects
2000.42010.12月の間、AAVにて入院した患者のカルテをRetrospectiveにレビューした。
IVCYとともにステロイドGCs)治療を受けた新規に診断されたMPAWG患者を登録した。European Medicines Agency (EMEA)アルゴリズムによってMPAWGに分けた。
ステロイドの減量にフォーカスをあてた二つのレジメンを比較することが目的であるため、IVCY3回以上投与されていれば登録してよいこととした。
・研究は倫理委員会で承認された。
 
Study protocol
・両レジメンとも経口PSLと月1回のIVCYからなる。EULAR 2009で推奨されているように腎障害、60歳時より高齢の患者ではCYCを減らした。
Weekly群(週単位で減量するレジメンで治療された)では、PSLBSRガイドラインにそって減量した(Table 1)。
Monthly群〈月単位の減量レジメンで治療された〉初期量を少なくとも1ヶ月維持し、その後漸減された。
IVCYの投与は両群とも寛解3ヶ月は継続された。ニューモシスティスと真菌の予防は行った。
 
 
Table 1 英国リウマチ協会で推奨されるAAVに対するCYC併用時の経口プレドニゾロン
 
Time from the
Prednisolone dose
Prednisolone
commencement
 
dose in case of 60 kg
of treatment
 
(mg/day)
0–1 week
1 (mg/kg/day)
60
1–2 weeks
0.75 (mg/kg/day)
45
2–3 weeks
0.5 (mg/kg/day)
30
3–6 weeks
0.4 (mg/kg/day)
25
6–8 weeks
0.33 (mg/kg/day)
20
8–12 weeks
15 (mg/day)
15
12–16 weeks
12.5 (mg/day)
12.5
16 weeks–6 months
10 (mg/day)
10
6–12 months
7.5 (mg/day)
7.5
 
 
Study endpoints
Primary endpointsは治療開始12ヶ月後の寛解率と再発率。
Secondary endpoints12ヶ月以内の感染症12カ月以内のステロイド誘発性糖尿病に対して治療を要した患者の割合。
・原因を問わず累積したダメージをスコア化したVasculitis Damage Index (VDI)6ヶ月12ヶ月後に評価した。
 
Study definitions
寛解の定義は新たな、または悪化した疾患活動性がなく、Birmingham Vasculitis Activity Score (BVAS) indexがゼロであることと定義した。BVASは評価日前の4週間の間の血管炎の活動性の所見で評価される。また、再発はBVASの少なくとも1項目で再発か新たな出現がみられることと定義した。
・過去の研究において感染症はそれらしい臨床所見、ラボデータ、培養陽性、画像所見の存在で確認された。原因となる微生物が特定できない時は感染症の診断は臨床所見と抗生物質による改善に基づいてなされた。
ステロイド誘発性糖尿病はWHOガイドラインに記載された、持続的な高血糖と治療の必要性で定義された。空腹時血糖126mg/dl以上and/orランダムの血糖値200以上を高血糖とみなした。
 
Statistical analysis
JMP7SAS institute Inc, USA)で統計解析
・二群の臨床データはt testで比較し、アウトカムに少しでも影響しそうなカテゴリー変数はnonparametric chi-square testで比較した。p<0.05を有意とした。
 
 
Results
 
Baseline characteristics
2000.4-2010.12月の間、24例が登録された。両群のベースラインはTable 2の通り。診断時の年齢の平均±SEM(標準誤差)はMonthly72.3±1.9歳、Weekly71.4±1.3歳。
AAVの頻度、タイプを除き、両群間で有意な差はなかった。
・治療する前から糖尿病を有していた患者はMonthly1(6.7%)Weekly3(33.3%)。治療前の空腹時血糖と食後血糖のレベルは両群で同程度だったが、HbA1c値はWeekly群で高かった。
 
Table 2
イメージ 2
 
Treatment in the two groups
Weekly群の初期量はMonthly群よりも多かった(0.97±0.05 mg/kg/d vs 0.67±0.03, p<0.0001)。
・しかし、治療開始後1カ月のPSLの投与量はWeekly群においてMonthly群よりも少なかった(0.41±0.02 mg/kg/d vs 0.57±0.03, p=0.0007)。
・さらに、最初の12ヶ月のPSLの総投与量はWeekly群の方が少なかった。その一方、最初の12ヶ月のCYCの総投与量はWeekly群の方が多かった(Table 2)。
 
Disease remission and relapse
・最初の6ヶ月以内に全ての患者が寛解を達成した。12ヶ月の間、Monthly群の13.3%Weekly群の0%が再発した(p=0.16)。6ヶ月後、12ヶ月後のVDIsは有意な差はんかった。
 
Infectious complications
・最初の12ヶ月における感染症の割合はweekly群でMonthly群よりも少なかった(10/15 vs 2/9, p=0.03)(Table3)。
感染症の半分は重症か生命を脅かすほどのものであった(Monthly群の4/10Weekly群の2/2)。
・もっとも多かった感染症は呼吸器感染症だった。感染症のため死亡した患者はいなかった。
 
Table 3
イメージ 1
 
Glucocorticoid-induced diabetes mellitus (GC-induced DM)
ステロイド誘発性糖尿病を起こした患者の比較をTable 4に示す。最初の12ヶ月の間、糖尿病を有さないMonthly群の13/14Weekly群の2/6ステロイド誘発性糖尿病になった(92.9% vs 33.3%, p=0.017)。
・興味深いことに、これら全ての患者が空腹時血糖≧126ではなく、食後血糖≧200で診断された。ステロイド誘発性骨粗鬆症は最初の1ヶ月に起きた(M 20.3±4.6vs W 10.5±11.8日)。
・昼食後の血糖値はPSL治療後に劇的に上昇するが、空腹時血糖とHbA1cは変わらなかった。ステロイド誘発性糖尿病のうちインスリンで治療されたのはMonthly群の3例、Weekly群の0例。とくにステロイド誘発性糖尿病の訳半数が観察期間終了時に抗糖尿病薬で継続的に治療を受けていた。
 
 
 
Discussion (簡略化しています)
 
・最初の6ヶ月で全例が寛解し、12ヶ月間の再発、612ヶ月後の再発率は両群で差はなかった。過去の6つの研究では平均の寛解導入率は87%であり、12ヶ月間の再発率は10%Weekly群のBVASMonthly群、過去の6つの研究と比べ同様だったが、Weekly群の寛解導入率、再発率はMonthly群や過去の研究に劣っていなかった。
 
12ヶ月間の感染症Weekly群でMonthly群よりも有意に少なかった(Table 3)。EUVASのレビューによると最初の12ヶ月の間に感染症が起きる割合はわれわれのWeekly群(2/9=22.2%)とほぼ同様に24%とされた。また最初の1年間の死亡のうち50%感染症によるものであった。別な研究でCYCの総投与がAAV患者の感染症のリスクを上げることが示された。Weekly群のCYCの総投与量はMonthly群よりも多かったが、感染症の割合は少なかった。これは早期のステロイドの減量が感染症による死亡を減らすかもしれないことを示唆する。
 
12ヶ月後のステロイド誘発性糖尿病はweekly群で少なかった。膠原病におけるステロイド誘発性糖尿病の割合は0.4-54%と報告されており、Weekly群とほぼ同じで、Monthly群より少なかった。ステロイド誘発性糖尿病の割合が様々であるのは研究対象、観察期間の違い、ステロイド誘発性糖尿病のリスクに影響することで知られるステロイド量や年齢を含むその他の要素の違いによるものかもしれない。我々の研究の平均年齢は65歳を超えており、過去の研究よりも高齢であった。したがって、我々の患者層はステロイドで治療されれば耐糖能障害はより起こりやすかった。にもかかわらず、Weekly群のステロイド誘発性糖尿病の割合は過去の研究よりも高くなかった。このことは早期のステロイド減量はステロイド誘発性糖尿病を減らすかもしれない事を示唆する。
 
Weekly-reductionMonthly-reductionと同様有効で再発率を増やさないかもしれない。加えて早期の減量は感染症と糖尿病を減らすため有益である。このretrospective studySelection bias、カルテの不完全さ、短い観察期間といったlimitationを有する。
 
 
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<リウマトロジストのコメント>
Retrospective studyではありますが、倫理面からRCTは今後もできないでしょう。
 
この研究から、「Weeklyに減らすと、総CYCが増えても感染症は減る」と言えそうです。
 
日本のANCA関連血管炎診療に一石を投じる内容ではないかと思ったのですが、いかがでしょうか。
 
CYCを使うとき、初期量を1ヶ月以上投与する時代はなくなっていくでしょう。
 
また、CYCを使うべきときは、ちゃんと使ってあげましょう。
 
 

 

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