2014年、抗ARS抗体が保険収載されましたが、この検査には抗Jo-1抗体、抗PL-7抗体、抗PL-12抗体、抗EJ抗体、抗KS抗体のいずれが陽性だったのかは分からないという欠点があります。
金沢大学からの大規模な報告(n=165)を読んでみます。
この報告によると、どの抗体が陽性かによって臨床所見が異なるようです。
日本人を対象とした最大の研究で、個々の抗ARS抗体と臨床所見との関連が細かくまとめられています。
これだけ知っておけば十分な論文なので、ぜひ原書に触れてみてください。
Common and distinct clinical features in adult patients with anti-aminoacyl-tRNA synthetase antibodies: heterogeneity within the syndrome.
抗ARS抗体を有する成人患者のコモンな臨床所見と顕著な臨床所見:抗ARS抗体症候群のなかの不均一性
Abstract
Objective
抗ARS抗体症候群の日本人成人の臨床所見の同様性と違いを見つける。
Methods
免疫沈降法で抗ARS抗体を検出された166例の日本人成人患者の解析。これらの患者は金沢大学病院とその関連施設を2003-2009年に受診した。
Results
・抗ARS抗体の特異性は抗Jo-1 (36%), 抗EJ (23%), 抗PL-7 (18%), 抗PL-12 (11%), 抗KS (8%), 抗OJ (5%)。
・これらの抗ARS抗体は一例のみPL7とPL12の抗体が共存していた他、互いに排他的。
・筋炎は抗Jo-1、抗EJ、抗PL7に非常に関連した。
・間質性肺疾患(ILD)は抗ARS抗体の6抗体全てに関連した。
・皮膚筋炎様の皮膚所見(Heliotrope疹、Gottron徴候)は抗Jo-1、抗EJ、抗PL7、抗PL12の患者に頻繁に見られた。
・そのため、ほとんどの臨床診断は抗Jo-1、抗EJ、抗PL7ではPM/DM、抗PL12ではCADMまたはILD、抗KSまたは抗OJではILDであった。
・抗Jo-1、抗EJ、抗PL7の患者はILD単独で発症した場合、後から筋炎を呈した。
・抗ARS抗体を有する患者のほとんどが発症時にILDを有していなくても、いずれはILDを発症した。
Conclusion
抗ARS抗体を有する患者は比較的均一である。しかし、筋炎、ILD、皮疹の分布、筋炎発症のタイミングは個々の抗体によって異なる。そのため、抗ARS抗体のいずれかを同定することはこれらのむしろ均一なサブセットを決める上で有益である。また、抗ARS抗体症候群の中でも臨床的なアウトカムを予測する上で有益である。
以下、この論文のFigure、Tableとリウマトロジストのコメントですが、日本でもっとも信頼性の高いデータですので、ぜひ原著を読んでみてくださいね。
Figure 3
→Jo-1、EJ、PL7はPM/DMが半数以上。稀なKS、OJは多くがILD。
(※)このFigureより計算した、CADMの人数を示しておきます。Jo-1 5/59(8%)、EJ 7/38(18%)、PL7 2/29(7%)、PL12 5/18(28%)、KS 1/13(8%)、OJ 0/8(0%)と、CADMでも抗ARS抗体陽性の方は少数派ですが、存在します。なお、Table 1にあるように、抗ARS抗体は抗CADM-140(MDA5)抗体とは共存しません。つまり、抗CADM140(MDA5)抗体だけでなく、抗ARS抗体もCADMの原因になります。違うのはILDの経過だけでしょうかね。抗CADM-140抗体陽性のILDについては、また近いうちにまとめます。
→SSAは時に抗ARS抗体と共存する。
→Jo-1の関節炎は58%
(※)抗Jo-1抗体の関節症については良い報告があったので、まとめました。
→Malignancyは19/165(12%)に合併し、同時7/19、Malignancy先行7/19、PM/DM/ILD先行5/19。リウマチ専門医に求められるのは同時+PM/DM/ILD先行の(5+7)/165=7%に合併するMalignancyを見つけること!
→16/165(10%)が死亡。死因はILD8/16、malignancy3/16、感染症2/16、残り3例はother。ILD3/8は1年以内(0.3, 0.3, 0.6)。
→抗ARS抗体症候群なら、ILDの死亡は8/165(5%)で、1年以内の早期死亡は3/165(2%)。
Figure 3
Figure 4
→Table 1とFigure 4を参考に新たに表を作ってみました。
総数 | 初診時ILD | 初診時筋炎 | 同時発症 | |||
(n) | (A) | (後に筋炎) | (B) | (後にILD) | n-(A)-(B) | |
Jo-1 | 59 | 28 (47%) | 17 (61%) | 14 (24%) | 11 (79%) | 17 (29%) |
EJ | 38 | 21(55%) | 15 (71%) | 6 (16%) | 5 (83%) | 11 (29%) |
PL-7 | 29 | 11(38%) | 4 (36%) | 7 (24%) | 5 (71%) | 11 (38%) |
126 | 60 (48%) | 36 (60%) | 27 (21%) | 21 (78%) | 39 (31%) |
・Jo-1、EJ、PL7は初診時は呼吸器科とリウマチ科で半分ずつ(ILD先行が約半数、それ以外が筋炎先行か同時発症)。ILD単独は後に6割が筋炎を発症するので、最終的に8割がリウマチ科に落ち着く。
・PL12、KS、OJは呼吸器の病気である(ほぼ全例ILD先行で後に筋炎を合併することはない)。
(2016.9.6追記)
Figure 4Aを用いて、ILD単独で抗ARS(+)となったシチュエーションを考えてみましょう。呼吸器科で診られているILDにリウマチ科が関わらなくてはならなくなる確率を求めてみましょう。
(ILDのみvs筋炎発症の順に)
Jo-1 = 17 vs 11
EJ = 15 vs 6
PL7 = 4 vs 7
PL12 = 12 vs 0
KS= 12 vs 0
→→
抗ARS(+)のILD(筋炎なし)の場合、後に筋炎が発症する確率は(11+6+7)/(28+21+11+12+12)= 24/84 = 29 %
抗ARS(+)のILD(筋炎なし)で抗Jo-1(+)場合、後に筋炎が発症する確率は39%
抗ARS(+)のILD(筋炎なし)で抗Jo-1(-)の場合、後に筋炎が発症する確率は(6+7)/( 21+11+12+12) = 23%