抗アミノアシルtRNA合成酵素抗体(抗ARS抗体)陽性の間質性肺疾患の予後について2つの報告をまとめます。
いずれも、診療に役立つ内容です。
1.鹿児島大学の14例
Clinical and pathological findings of interstitial lung disease patients with anti-aminoacyl-tRNA synthetase autoantibodies.
Intern Med 2010;49(5):361-9.
OBJECTIVE:
Patients and Methods
2004-2007年の抗ARS抗体陽性ILD 14例について、臨床所見、レントゲン所見、病理所見をretrospectiveに調べた。
RESULTS:
・Jo-1抗体がもっともコモン(10/14)で、OJ、KS、EJが1例ずつ。1例はJo-1とPL-12がともに陽性。
・10例が慢性の経過で4例が亜急性に悪化した。
・筋炎を呈した8例のうち、1例が筋炎先行、3例がILD先行、4例(50%)が同時発症(残り6例は筋炎なし)。
・HRCT所見は肺底部に顕著なVolume lossを伴うすりガラス状陰影(GGO)。外科的肺生検の結果、4例がNSIP and/or OPパターンだった。
・ILDは9例で改善し、3例で安定化した;しかし1例ははじめの6ヶ月は改善したが、その後、治療にもかかわらず進行性に悪化し、最終的に死亡した(本文より;治療18ヶ月後)。
CONCLUSION:
これらの結果は以下のことを示唆する。
・抗ARS抗体陽性のILDは通常慢性の経過をとり、Volume lossを伴う肺底部のGGOを呈する。
・病理はNSIP and/or OP。
・ステロイド反応性は良いが、一部の患者は急激に悪化し、治療に抵抗して再燃する。
Table 3. 治療と予後
2.金沢大学の36例
Pulmonary manifestations of anti-ARS antibody positive interstitial pneumonia--with or without PM/DM.
Respir Med 2013 Jan;107(1):128-33.
BACKGROUND:
アミノアシルtRNA合成酵素(ARS)に対する抗体は多発性筋炎・皮膚筋炎(PM/DM)に特異性がきわめて高く、間質性肺炎(IP)の合併と強く関連することが分かっている。この研究の目的は抗ARS抗体(+)のIPがPM/DMの有無で比較すること。
METHODS:
抗ARS抗体陽性のIP患者36例をretrospectiveに調べた。16例はPM/DMの所見を呈し、20例は呈さなかった。PM/DM-IP群と特発性IP(IIP)群に分けた。臨床症状、身体所見、ラボデータ、肺機能、CT、BALF細胞数を比較した。
RESULTS:
・皮膚所見、筋痛、CK上昇がPM/DM群で診られた。
・両群ともコモンであった所見は以下のものがあった
- CTにおける両下葉のVolume loss、すりガラス状陰影、網状影と牽引性気管支拡張。
- 肺機能は同様に悪かった;%VC (mean 80.1% vs 73.6%)、%RV(70.7% vs 71.5%), %%TLC ( 73.4% vs 71.6%)、%DLco (57.5% vs 46.4%).
CONCLUSION:
抗ARS抗体陽性のIPはPM/DMの有無にかかわらず共通の肺の所見を呈する。
(本文より予後に関する記載)
・Table 4は治療のサマリー。PSLはほぼ全例において初期治療として開始され、ほとんどの場合有効であった。
・Jo-1抗体陽性のPM/DM-IPの1例はPSLが非常に有効であり、PSLを中止することができた。
・EJ抗体陽性のPM/DM-IPの1例はメチルプレドニゾロンパルス療法とシクロフォスファミドパルス療法を要したが、IPが急速に悪化し、強力な治療にもかかわらず死亡した。
・1例は肺がんを合併しステロイド治療を開始するまでに死亡した。