リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

ループス腎炎におけるMMFによる維持療法(ALMS-2)

Aspreva Lupus Management Studyの第二報、ループス腎炎における維持慮法としてミコフェノレートとアザチオプリンを比較したDouble-blind RCTです。
 

※必要に応じて ↓ 飛んでくださいませね

 寛解導入(ALMS-1)

 https://oiwarheumatology.hatenablog.com/entry/12536069

 維持療法(ALMS-2)

 https://oiwarheumatology.hatenablog.com/entry/12574894

 ALMS治療の詳細

 https://oiwarheumatology.hatenablog.com/entry/12588707

 ALMSの対象

 https://oiwarheumatology.hatenablog.com/entry/12943433

 
RCTを読む際のチェック項目を下線で示します。メーカーの関わりについて述べたところも下線をつけています。
 
Study design and oversight(略)
Prospective, randomized, double-blind, double-dummy, phase3 studyにてループス腎炎(LN)の寛解維持療法としてのミコフェノレート(MMF)とアザチオプリン(AZP)を比較した(※)。
・参加施設のIRBプロトコールを承認し、全ての患者や代理人が書面でICにサインした。
Vifor Pharma (以前のAspreva pharmaceuticals)Roche-Asprevaの希少疾患協力の一部としてファンドされた。学術的な著者7人とスポンサーの雇用人である2人の著者が試験を着想し、デザインした。全ての著者がデータを解析し、解釈した。原稿はVifor PharmaにファンドされたCaudex medical (Oxford, UK)の医療ライターによって最初に下書きをされ、全ての著者の指導を受けた。それから全ての著者によって十分に修正され、批判的にレビューされ編集された。全員が最終バージョンに同意をし、出版する論文を提出する決定をし、報告されたデータの完全性、正確性を保障した。
 
(※)double-dummy・・とはこの場合、MMF群にはAZPに似せたプラセボAZP群にはMMFに似せたプラセボを投与することで、盲検を保つ方法のこと。
 
Study participants
Active class3/4/5-LNを有する1275歳の患者で寛解導入療法の試験において経口MMF or IVCに臨床的反応をした患者が維持療法の試験で二剤のうちひとつにランダムに1:1に割り付けされた。反応は研究者の判断に基づくこととしたが、臨床エンドポイント委員会によって最終的に調整された判断とは必ずしも一致しなかった。維持療法の治療はコンピュータで管理された相互音声反応システムによってランダムに割りつけられ、寛解導入治療、民族、腎生検のクラスで層別化された。
・患者はイベントに関わらず36ヶ月フォローされた。脱落した患者の生存状況は3年間毎年得られた(同意を取り消したものを除き)。36ヶ月の研究を完了した患者は最終の受診日から30日後にコンタクトをとり、任意の副作用と併用薬の情報をとった。
 
Interventions and schedule of assessments
24週間の寛解導入療法の終了時に患者はMMF (1g, 12)、またはAZP (2mg/kg/d)を内服した。ターゲットの投与量に耐用できない患者や体重<50kgの患者はMMF1gまたはAZP50mgに耐用できれば研究に残した。最低投与量未満への一次的な減量・中断は14日以内であれば許可した。投与量の変化は薬、プラセボとも行われた。患者は研究者の判断でプレドニゾンかそれに相当する薬を最大10mg/dまでは投与してもよいこととした。
・患者は0,1,2ヶ月の時点で、およびmo36まで3ヶ月毎に評価された;あるいは早期に脱落した時;または治療失敗による終了時。効果と安全性の評価は受診のたびに行い、併用薬の情報を毎月電話でとった。ACE阻害薬、ARBNSAIDsの投与量の変化は医療研究監視要員の承認を得なければならなかった。
プロトコール20094月にヨーロッパとUSの保健機関の代表者と協議を行い補正された。これによってPrimary endpointをよりLNに特異的に関連したものになり、治療失敗はより広く定義された(当初のprimary endpointkey secondary endpointに含まれた)。
 
Outcomes
Primary efficacy endpointは治療失敗までの時間とし、これは死亡、末期腎不全、sCrの二倍化、腎炎の再燃(尿蛋白の上昇 or  腎臓自体の悪化)、LNの再燃や悪化時のレスキューの必要性(ステロイド血漿交換、IVIGまたはプロトコールに関連のない免疫抑制薬)までの時間とした。より詳しいoutcomeの記載は過去に報告しており、NEJM.orgSupplementary appendixにて提供されている。
・尿蛋白上の腎炎の再燃は尿蛋白/尿Crおよび尿蛋白の二倍化と定義された(寛解導入療法終了時、尿蛋白≦0.5g/24hだった患者は≧1g/24h>0.5g/24hだった患者は≧2g/24h)。
・腎臓自体の再燃とはスクリーニングから寛解導入療法終了時までのCrの最低値の25%以上の上昇、および以下のひとつ以上を満たすことと定義された。同時的な≧2g/24h(または尿蛋白/尿Crで相当量)を達成する尿蛋白の二倍化;新規のor悪化した血尿(≧5RBC/hpfまたはdipstickで血尿2+以上);or細胞性円柱の出現
Key secondary endpointは治療失敗の構成要素までの時間、より広範囲に定義された治療失敗までの時間(i.e., primary endpointの構成要素、腎外のmajorな再燃or任意の理由による脱落)、腎炎再燃の疑い、完全な腎炎の寛解(尿蛋白<0.5g/24h;血尿と細胞性円柱のないこと;ベースラインの25%以内に安定したsCr)、腎・腎外の寛解(腎外の一臓器においてBILAG category A score[重症のループスの再燃]がないこと、または3つの腎外臓器においてCategory B[中等度のループス再燃]がないこと、免疫学的なマーカー[C3, C4, anti-ds-DNA Ab])。
・安全性の評価のために検査(CBC、生化学、ホルモンテスト、検尿)、副作用のチェック、診察、バイタルサイン、ECG、以前の服薬歴と現在の併用薬の確認をした。プロトコールで規定したように、バイアスを避けるため、治療の割り付けと副作用のリストを知らない独立した臨床エンドポイント委員会が全ての結果をレビューし、Primary endopointSecondary endpointの全ての項目を審査した(すなわち、腎炎の再燃疑い、majorの再発、腎外の再発疑い、完全寛解)。
 
Statistical analysis
両側有意水準0.05としてLog-rank testを用いて3年間での治療失敗率をAZP37.5%MMF20%と見込み(MMFのハザード比0.475)、114人を各々に割りつければ80%以上のパワーで治療群の差を検出するであろうと計算した。
Primary efficacy analysisは維持療法で割りつけられ少なくとも一回の有効性の評価を行った全ての患者についてITT解析で行った。
・安全性評価のための人口は治療薬を1回以上投与され、1回以上の安全性の評価を行った患者で構成された。
・両群は治療失敗までの時間、治療完了までに脱落した患者のデータを打ち切ることで、カプラン・マイヤーの生存見積りを用いて比較された。生存曲線の両群間の違いはLog-rank testを用いて評価された。
・治療効果の強さは補正されていないコCoxモデルより得られたハザード比を用いて評価された。ハザード比は寛解導入療法、民族、地域によって層別化されたサブグループ解析でも用いられた。全体的なイベントの発生率と100人年あたりのイベント発生率がサブグループの中で提示された。Secondary efficacy variablesは補正されていないCoxモデルにてハザード比を計算することで解析された。Primary endpointのための感度解析が行われ、共変量で補正された。有意レベル0.05Primary efficacyの解析、いかなるKey secondary efficacyの解析にに応用された。多数比較のための補正は行わなかった。安全性の変数は副作用を有する患者の割合を比較することで、記述的に解析された。
・統計解析はSASソフトウェアVersion 9.2SAS Institute)で行われた。ベースラインからの経時的変化(最終受診時における)のために、最終診察より以前を評価することとした(the last-observation-carried-forward method was used)。
 
Results 
Patients
・計227例の患者が1/25/2006-3/19/007の間に登録された(72 in Asia, 60 in Latin America, 47 in North America, 40 in Europe, 5 in South Africa, and 3 in Australia). ITT解析の中の患者のうち、116例がミコフェノール酸モフェチル(MMF)、111例がアザチオプリン(AZP)にランダムに割りつけられた。
127例(55.9%)が36ヶ月の治療を終えた:MMF群の73例(62.9%)、AZP群の54例(48.6%)。早期脱落の理由はともに副作用とLNの再燃。治療群間に患者背景や疾患の特徴に差はなかった(Table 1)。
 
Immunosuppresive Therapies
226例からなる安全性評価の人口はMMF115例、AZP111例。平均投与量(±SD)MMF1.87±0.43 gAZP119.7±47.91 mg。平均投与量≧ターゲット量の80%であったのはMMF79.7%AZP82.6%。治療に失敗した患者のサブグループ解析において、平均投与量はMMF1.89±0.52 gAZP123.3±49.73 mg
・平均治療期間は各々834.4±363日、727.2±405日。大多数が試験期間中に10mg以下のプレドニゾンを内服した:各々104(90.4%)96 patients (86.5%)
 
Study End points
MMFPrimary endpointである治療失敗までの期間はMMF群においてAZPよりも有意に優れていた(治療失敗のハザード比0.44; 95% CI 0.25 to 0.77; P = 0.003) (Fig. 2A)
イメージ 1
 
・観察された全体的な治療失敗の割合はMMF16.4%19/116)、AZP32.4% (36/111)MMFの優越性は寛解導入療法、民族、地域によらず、一貫していた(Fig. 3)
 
MMFは腎炎の再燃までの時間を含む治療失敗の個々においても優れていた(HR for flare, 0.50; 95% CI 0.26 to 0.93; P = 0.03)。腎炎の再燃はMMF15/116 (12.9%)AZP26/111 patients (23.4%) (Fig. 2B)
イメージ 2
LNへのレスキュー追加までの期間もMMFの方がAZPよりも長かった。(HR 0.39; 95% CI, 0.18 to 0.87; P = 0.02); レスキューの割合は7.8% (9/116)17.1% (19/111)
key secondary end pointsにおいてもMMFAZPよりも有意に優れていた。すなわち、より広範囲に定義された治療失敗(MMF 42.2% [49 of 116]vs. AZP 56.8% [63 of 111]; HR 0.66; 95% CI, 0.46 to 0.97; P = 0.03)、確認されたor疑われる腎炎の再燃までの時間 (rate, 21.6% [25 of 116] vs. 36.0% [40 of 111]; HR 0.56; 95% CI, 0.35 to 0.89; P = 0.01)
・その他全てのPrimary endpointMMFがよいとする数的な利益を示した。ESRDまでの時間 (rate, MMF 0% [0 of 116 patients] vs. AZP 2.7% [3 of 111]; P = 0.07)、持続的なCrの二倍化(rate, 0.9% [1 of 116 patients] vs. 4.5% [5 of 111],respectively; P = 0.07)
MMFの優越性はCr値で補正されても(P = 0.004)寛解導入療法終了時のeGFRで補正しても(P = 0.004)、維持された。
Majorな腎外の再燃は低かった:MMF 6.9% (8 of 116 patients)AZP 6.3% (7 of 111)Majorな腎外の再燃までの時間に差はなかった(P = 0.94)
・最初の3ヶ月の間、C3C4の幾何平均力価はAZP群でMMF群よりも低く、試験期間中を通して低かった。MMF群において時間とともにdsDNA抗体の幾何平均力価がより大きく低下する傾向がみられた。
 
Safety and Tolerability
・治療期間中の副作用の発生率は同等だった:MMF 98.3% (113 of 115 pts), AZP 97.3% (108 of 111, P = 0.68) (Table 2)
・両群とも感染症がもっともコモンで、MMF 79.1% (91 of 115)AZP 78.4% (87 of 111)。重症感染症の割合は両群とも低かった: MMF 9.6% (11 of 115)AZP 11.7% (13 of 111)
・脱落の原因になるほどの副作用の割合はAZP(39.6% [44 of 111])MMF (25.2% [29 of 115], P = 0.02) よりも高かった
1回以上の重症の副作用を有した患者の割合はAZP群よりもMMF群で少なかったが、その差は有意ではなかった (23.5% [27 of 115] vs.33.3% [37 of 111], P = 0.11)。試験期間中AZP群で一人の死亡があり、交通事故によるものだった。AZP群で癌が一例あった(uterine carcinoma in situ)
 
<リウマトロジストのコメント>
・追跡率=127/227=55.9%と高くありませんが、3年という長期に及ぶ試験のため仕方がないと思います。Double dummyを用いてDouble-blindにしたRCTであり、申し分ないでしょう。
 
・唯一気になる点は製薬メーカーがファンドし、統計や執筆に深く関与した事くらいでしょうか(※)。最近、この手の試験の信用性は問われるところですので・・・ただし、第一報における悪いデータ(アジア人に死亡が多かったことなど)をそのまま公表しているあたり、ある程度信頼してよいとは思っています。
 
・そういう試験の結果、LNの維持療法としてのMMFAZPに比べ、効果と安全性に関わる以下の項目において優れいていました。(有意差のある項目についてNNHを計算しました;MMFの代わりにAZP用いることで何人治療すれば余分にひとりに悪い結果がもたらされるか)。
 
 ・治療失敗の割合はMMF 16.4%AZP 32.4%
 → NNH=100/(32.4-16.4)=6.25 NNH=7
 
 ・腎炎の再燃はMMF 12.9% vs AZP 23.4%
 → NNH=100/(23.4-12.9)=9.5 NNH=10
 
 ・レスキューの割合は7.8% vs 17.1%
 → NNH=100/(17.1-7.8)=10.7 NNH=11
 
 ・広範囲に定義した治療失敗MMF 42.2% vs AZP 56.8%
 → NNH=100/(56.8-42.2)=6.8 NNH=7
 
 ・脱落の原因になった副作用の割合はAZP 39.6% vs MMF 25.2%
 → NNH=100/(39.6-25.2)=6.9 NNH=7
 
 
MMFのループス腎炎に対する適応を認めてあげてもいいのではないでしょうか。。。
 
 
(※)最後にこの論文における製薬会社の関わりについて記載しておきます。ちなみに、11人の著者のうち最後の二人がVifor pharmaの社員です(Last author Corresponding authorでした)。Discussionの最後にCOIAcknowledgementに相当する記載があります。
 
Vifor Pharma(以前のAspreva Pharmaceuticals)の希少疾患におけるRoche-Aspreva共同研究の一部としてサポートされた。
 
DisclosureNEJM.orgfull textより入手できる。
 
私たちは以下のように謝意を表する;Vifor PharmaSteven Nettlerに統計なサポートとデータの解釈について;Caudex MedicalNicola Westに論文の初期の草案、Table/Figureの初期の草案の準備、著者のコメントを記載した事に対して;Caudex MedicalChristine Grovesにレビュアーからのコメントに対処して著者を助けてくれた事に対して
 

 

ps

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