リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

EULAR recommendation 2013-その2-低用量ステロイドの推奨

10月に出版された、EULAR recommendation 2013。今後、数年の標準となるでしょう。
 
ステロイドに関するリコメンデーション7の記載を訳しました。
 
その根拠として引用されているReferenceにも触れました。 
 
 
******************************************
 
7.低用量グルココルチコイドは最初の治療ストラテジーの一部に6ヶ月までは考慮されるべきである(一つ以上の従来型の合成DMARDsと一緒に)。しかし、臨床上、実行可能な範囲でできるだけ早く減量されるべきである。
 
前回と同様、タスクフォースはグルココルチコイドの役割について存分に話し合った(前回はリコメンデーション6)。実際、このアイテムは言い換えられている(以前の記載:はじめの短期間の治療として、合成DMARDの単独療法、または併用療法にグルココルチコイドを加えると利益があるが、臨床上、実行可能な範囲でできるだけ早く減量されるべきである)。グルココルチコイドが利益をもたらすという一般的なステートメントを言うだけではなく、今回のタスクフォースはグルココルチコイドを初期治療のアプローチの一部として考慮すべきであると推奨した。この変化はここ2-3年における新たな情報を含んだ文献のシステマティックレビューに基づく。低用量とは初期には7.5mgのプレドニゾン、またはそれ以下の相当量のことを言う。グルココルチコイドの記載ためにひとつの推奨を設けたのは、この薬が従来型の合成DMARDsと併用することで、臨床的、機能的、構造的な効果を増強させる力を持っていることが証明されているからである(ref 92, 94-96)。そして、この併用療法はMTXTNF阻害薬を併用した場合と比較し、同等の効果を有している(ref 60, 97
 
このようにグルココルチコイドは初期に高用量で用いて急速に減量するレジメンでも(eg, COBRA)、1-2年かけて低用量で用いる場合においてもDMARDの活動性を増強させるかもしれないし、単剤であっても有効である。しかし、グルココルチコイドの単剤による治療はタスクフォースによって特に勧めらず、そのほか全てのDMARDsが禁忌であるという例外的なケースにのみ用いられるべきである。別のEULAR委員会は、「長期の低用量グルココルチコイド治療の安全性に関する文献にはまだ大きなギャップがあるが、これらが一般的な投与量において安全面で容認できないほどの問題があるという意見を支持するものではない」と結論付けた。そして、それに次いでグルココルチコイドによる副作用に対する予防的な方法に向けた管理ガイドラインを考案した。
 
現在のシステマティックレビューは以上のいかなる見解にも異論を唱えるものではない。にもかかわらず、グルココルチコイドによる副作用のプロファイルと併存疾患の暗示に関して、タスクフォースのなかで激しい議論があった。グルココルチコイドの適応の期間に関して、ただ単に「短期間」と言うのではなく「6カ月まで」と述べることによって、より特異的にするという妥協案(エキスパートオピニオンに基づく)が最終的に多数票をとった;しかし、メンバーの73%のみがこのアイテムに同意した(これはすべてのリコメンデーションの中でもっとも低い多数決の結果であった)。このことは、様々な意見があったことを反映するものであり、(ステロイド剤の使用を)より強く勧める人とより弱く勧める人が反対票を入れた結果であった。しかし、最終の匿名のグレーディングの結果、同意のレベル(推奨の強さ)は極めて高った(平均8.9)。このように、タスクフォースはグルココルチコイドを橋渡し的な治療としてのみ使用し、理想的には早い時期に減量しながら最大6カ月までに限って使用することを提案する。しかし、Established RAにおける慢性的なグルココルチコイドの使用やグルココルチコイドの関節注射については一切議論されていない。注目すべきはグルココルチコイドをMTXやその他の従来型合成DMARDと併用すべきであるというタスクフォースの同意が強まったことを反映するために、2010年版のFigure 1アルゴリズムを±のマイナスの部分をプラスに比べて小さく記載することで変更することが決定された※。
 
※実際の違いはこのくらいです。
 
 
 
*********************************************************
(リウマトロジストのコメント)
 
この推奨 の根拠となっている論文を整理します。
 
ref 92CAMERA-II Trialはオランダからの報告です。発症1年以内のRAを対象に、MTXPSN10mgMTXplacebo二重盲検で比較しています(n=117 vs 119
2年後の関節破壊はPSN群で少なかった(erosion-free78%67%erosionがある人の解析においてもSHS -0.87と少なかった)。疾患活動性、身体障害、持続する寛解においても、シクロスポリンor生物製剤の追加を回避することにおいても、PSN群の方が有効であった。安全性は同様であり、PSN群で少ない副作用もあった(肝障害、吐き気など;有意差検定はなし)。
 
ref 94BARFOT試験はスェーデンからの報告です。発症1年以内のRAを対象に、DMARDPSL7.5mg vs DMARDopen-labelで比較しています(n=119 vs 131)。
2年後のTSSPSL群で低く(1.8 vs 3.5; p=0.019)、寛解導入率も高かった(55.5% vs 32.8%; p=0.0005)。大腿骨頸部の骨密度の変化に有意な差はなく、副作用はともに少なかった。
 
Ref 95はオランダからのCOBRA 試験です。PSL(高用量から減量)+MTX+SSZCOBRA)とSSZ単独を比較しています。COBRAが有効だったのですが、その差はPSL + MTXによるものと考えられます(PSLのみではなく)。
 
Ref 96はドイツからの報告。発症2年以内のRAを対象とし、MTXまたはGoldで開始されるDMARD療法に、PSL 5mg vs placeboを上乗せして二重盲検で比較しています(n=80 vs 86)。
61224ヶ月時のX線上の進行はPSL群で有意に少なかった。副作用はPSL群で多かった(有意差検定はなし);PSL80例、placebo86例のうち、体重増加(4 vs 0)、高血圧(6 vs 2)、緑内障3 vs 0)、クッシング症候群(5 vs 0)、胃部不快感(9 vs 4)、胃潰瘍3 vs 0NSIADs併用の患者のみ)。新たな腰椎圧迫骨折は両群ともなし。
 
ref 972005年、オランダより報告されたthe BeSt studyです。発症2年以内のRAを対象としています。
MTX7.5mg/wSSZ2gに高用量のステロイド療法(初期にPSN60mgより開始し、7週間で7.5mgまで減量する)を併用したGroup 3は、MTX 2530 mg/wInfliximab 3 mg/kgを併用したGroup 4と比較し、1年後X線上の変化に有意差なし。
→高用量ステロイドを含む治療をMTX + aTNFと同等と言う根拠にはなりますが、低用量ステロイドの効果を述べた内容ではありません。
 
Ref 60IMPROVEというオランダで行われた試験です。
早期RAを対象に、初期治療としてMTXと高用量のステロイド療法(BeStと同じ)を併用し治療した。4ヶ月の時点で寛解に至らなかった患者を以下の2群に分配。Arm1MTX25 mg/wHCQSSZ2gPSN7.5mgArm2MTX 25 mg/w adalimumab (ADA) 40 mg/2w8ヶ月の時点で寛解していればArm1PSN, SSZ, HCQの順に減量し、MTX単独療法に、Arm2ADAを減量しMTX単独療法にする。8か月時に寛解していなければArm1MTX+ADAに、Arm2MTXADA(毎週)に増量する。結果、1年時の寛解は初期治療(上述)で61%4ヶ月にrandomizedされた患者のうち、Arm125%Arm241% (p<0.01)
→高用量ステロイドを用いる初期治療は全例に用いられ、寛解しない人をrandomizationしていますので、これも初期の低用量ステロイドの効果を述べる内容ではありません。
 
 
(まとめ)
MTX(or DMARD)に低用量ステロイドvsプラセボを併用するRCTはあっても、現在の標準的な治療法(MTX効果不十分ならbiologicsを追加)に、最初から低用量ステロイドvsプラセボを併用したRCTはないようです。せめて、MTX+biologics vs MTX+低用量ステロイドを比較したRCTがあればよいのですが、こういう試験もありません。
  
低用量ステロイドには、Biologicと比べ、安さという利点があります。その効果と安全性に関するエビデンスは乏しいようですが、包括的指針C(※)にもあるコスト面を加味して、推奨に至ったものと思われます。
 
※包括的指針C