リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

TNF阻害薬投与中に発生する肺炎と結核

1)肺炎(細菌性肺炎、異型肺炎)
TNF阻害薬投与中の細菌性肺炎の報告は多彩である重症肺炎球菌感染症1)-4)黄色ブドウ球菌感染症5)、レジオネラ肺炎6)-9)、ノカルジア症10)-13)などが挙げられる。異型肺炎としてはクラミジア肺炎の報告がある14)
インフリキシマブ(IFX)の市販後調査において5000例のRA患者が同剤開始後の6ヶ月間、前向きに調査が行われた。細菌性肺炎の頻度は5000例中108例(2.2%)とされ、呼吸器感染症の中で最多であった15)。細菌性肺炎の発症はIFX開始後、平均72.1日後(2-190日)であった。エタナセプト(ETN)の市販後調査では、肺炎の頻度(ニューモシスチス肺炎、結核を除く)が6ヶ月間で7091例中102例(1.4%)とされた14)。アダリムマブ(ADA)の全例調査の中間報告では、6ヶ月で3000例中35例(1.2%)であった16)。これらの3剤の全例調査は、患者背景はもちろん、日本の生物製剤導入に関する知識も徐々に普及していった経緯があるため、これらのデータを単純に比較することはできない(日本でTNF阻害薬を投与された初期の患者は、リスクが高い患者だった可能性がある)。イギリスのTNF阻害薬3剤のコホート研究において重症感染症の頻度に差はなく、いずれも開始後6ヶ月間に重症感染症が起きやすいことが報告された17)
TNF阻害薬投与中の患者の細菌性感染症は重症になるまで症状が出にくいことが知られている。KroesenらはTNF阻害薬投与中の肺炎3例の経過を細かく報告しており、興味深い。ブドウ球菌性肺炎とニューモシスチスの合併例(症例1)、およびブドウ球菌性肺炎(症例2)の例において、いずれも症状は胸痛と息切れを伴い急性に出現し、それらに先行したのは軽い咳嗽のみであり、倦怠感や全身症状を認めなかった。症例1は4日前の受診時にはCRP上昇を認めたのみであった。症例2は2日前の受診時に採血とレントゲンでも異常を認めなかったが、発症後は両肺の広範な壊死性膿瘍を認めた。症例3は両側性のレジオネラ肺炎であったが、発熱以外の症状を認めなかった。このようにTNF阻害薬は肺炎の初期症状をマスクする可能性があり、著者は初期のCRP上昇を見逃さないこと、培養検査で病原性に乏しい菌が検出されても慎重に解釈をすること、一旦症状が明らかになった場合は重症敗血症を念頭において管理することを勧めている5)。リウマトロジストも軽い咳を訴えたが、発熱、倦怠感のない気管支肺炎を経験しており、TNF阻害薬投与中のRA患者に対しては検査の閾値を低くするよう心がけている。
  
2)結核
2001年、KeaneらはIFX投与中に発生した結核70例を報告し、センセーショナルな話題となった。40例(56%)が肺外結核を伴い、17例(24%)が播種性結核であった18)。これは一般のHIV陰性の結核患者において肺外結核18%、播種性結核2%未満であること比べると大きく異なり19)TNF阻害薬による潜在性結核(過去に結核に感染した人が発症せずに体内に菌を持ち続けている状態のこと)の再燃が示唆された。一般に結核は感染後、肉芽腫内に取り込まれる形で不活化されるが、抗TNFα抗体(IFXADA)によって肉芽腫が破壊されることによって潜在性肺結核が再燃するのではないかと考えられている20)
本邦のIFXの半年間の全例調査では、結核5000例中14例(0.3%)と報告されており15)、米国における24.4 / 10万人年よりも10倍以上高率である18)14例中11例が初期の2000例に起きているが、潜在性結核のスクリーニングと予防投薬の必要性が啓蒙され、その後の発症率が減少したと考えられている15)IFX開始から発症までの期間は平均103日、投与回数は平均3.4回と早く、IFXとの関係は明らかである。ETNでは7091例中10例(0.1%)の結核疑い例が報告され、そのうち8例において結核菌が証明された。8例中6例はイソニアジド(INH)の予防投与を受けておらず、INHを投与されていた2例についてもETN開始時すでに結核に感染していたことが疑われた14)ADAの本邦における全例調査では、3000例中4例(0.13%)であった16)。海外のコホート研究によるとADAIFXと同様に発症に関与したと報告されている21)22)
以上からTNF阻害薬を投与中の患者が呼吸器症状や発熱で受信した場合、結核の曝露歴・既往歴のほか、予防投薬がなされたかどうか、TNF阻害薬を開始後何日経過しているかを確認の上、精査し始めるとよい。肺結核の診断は喀痰や胃液、あるいは気管支鏡検査で採取した洗浄液より結核菌を証明することによる。肺外結核の場合、障害臓器や骨髄における組織生検、体液における培養検査、PCR検査によってなされる。胸水、腹水、髄液が採取できればadenosine deaminaseの測定が有用である。とくに播種性結核(粟粒結核)の場合は、症状が非特異的であるため抗酸菌検査が遅れがちである。疑うことができれば、肺HRCTが有用である。1-5mm大の概ね境界明瞭な結節影が胸膜沿いや血管周囲を含み、構造支配を伴わずランダムに分布する23)。治療についてはATS/CDC/IDSAガイドラインが参考になる24)
 
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※詳しくは、呼吸306(2011)の解説、TNF阻害薬の呼吸器障害を読んでみてくださいね。