TNF阻害薬による間質性肺疾患(ILD)の頻度は日本の市販後調査において、
インフリキシマブ(IFX) 0.5%、エタナセプト(ETN )0.6%、アダリムマブ(ADA)0.6%と報告されている1) 2)3)。詳細の記述はないが、これらの報告は細菌性肺炎、結核、ニューモシスチス肺炎(PCP)を別に示しているため、ILDとは概ね薬剤性肺炎と思われる。薬剤性の間質性肺疾患と診断するためには、前述のPCPを始めとする感染症の除外が必須である。IFXの全例調査の結果では、IFX投与からILD発症までが平均76.8日 (36-153日)、PCP発症までが平均70.0日 (14-168日)と報告されており、発症時期は類似している2)。PCPを疑ったときの管理は前述の通りであるが、TNF阻害薬による薬剤性肺炎を述べる前にメトトレキサート(MTX)肺炎について触れておかなければならない。RAに限って言えば、いずれのTNF阻害薬においても単剤よりMTX併用の方が骨破壊を抑制するため、IFX(MTXの併用が必須)に限らず、ETN、ADAもしばしば併用されるからだ。結果として併用療法中に発生したスリガラス状陰影(GGO)などの間質性肺陰影の鑑別は多岐にわたる。
1)MTXによる薬剤性肺炎(MTX-ILD)
MTXによる肺障害の頻度は0.3-18%と幅広い4)。RAに合併したMTX肺炎29例の報告によると、MTXの平均投与期間は16ヶ月、主な症状として息切れ、咳、発熱を各々93%、83%、69%に認め、SpO2低下(≦90%)を59%に認めた。29例中3例が死亡し、改善した26例のうち6例がMTXの再投与を受けた。そのうち、4例が再び肺炎を発症し、そのうち2例が死亡した(結果として29例中5例、17%が死亡)5)。
MTX肺炎の診断基準としてSearles and McKendryらの基準の改定版(表 2)が知られている5)6)。病理組織学的には「Ⅱ型肺胞上皮細胞の過形成を伴う線維芽細胞の増生」を基準とする報告がある5)7)8)。しかしながら、この病理所見はあらゆる薬剤に対する肺の過敏反応のひとつであり9)、リウマチ肺との鑑別には有用であってもMTX肺炎に特異的な変化ではない10)。過去の報告例においてこの病理所見の感度が38.8%であったという報告があり11)、MTX肺炎の診断に必要な病理所見であるとも言えない。診断にもっとも大切なことは、急性でしばしば重症度の高い間質性肺陰影の存在とPCPを含む感染症の否定である。
留意しておくべき点は、現在入手できるMTX肺炎に関する報告の多くがPCPの診断法が普及する以前のものであるという事である。最近の6年間において9施設で集められたRA-MTX肺炎、RA-PCPが各々10例、14例であったという報告があるが、いずれも十分にニューモシスチスの検索をされた後に分類されたものである12)。PCPを菌体の確認のみで診断していた時代にMTX肺炎と判断された症例のうち、PCPがかなりの程度含まれていたのではないかとリウマトロジストは予測している。このことは臨床所見や予後にも影響しうる問題と思われるが、幸いにも両者の臨床像は非常に類似している(TNF阻害薬を使用中のニューモシスティス肺炎の表1)。
TokudaらはRAに合併したMTX肺炎10例(2例がTNF阻害薬使用中)とPCP14例を詳細に調査しているが、両者間で差があった臨床所見はβDグルカンのみであった。小葉間隔壁によって明瞭に境されるGGOがMTX肺炎の10例中7例に、PCPの14例中6例に認められ、境界が明瞭でないGGOが各々2/10、5/14に認められたと報告した。これらの画像所見でもってもMTX肺炎とRA-PCPを区別することは困難である12)。
表2. MTXによる肺障害の診断基準―Searles and McKendryらの基準の改定版―
大基準
1. 病理組織学検査において過敏性肺臓炎の所見を認め、病因微生物を認めないこと
2. 胸部X線検査において間質性あるいは肺胞性陰影を認めること
3. 発熱があるのであれば血液培養を施行し陰性であること、喀痰が出るのであればはじめの喀痰培養にて病因微生物に関して陰性であること。
小基準
1. 8週間未満の息切れ
2. 乾性咳嗽
3. 初診時、酸素飽和度≦90%(室内)
4. DLCO≦年齢に応じた予測値の70%
5. 白血球数≦15000 /mm3
※大基準1または2に加え3を満たし、小基準のうち3つを満たす場合、"definite"、大基準2と3を満たし、小基準2つを満たす場合、"Probable"と判定する。
2)TNF阻害薬による薬剤性肺炎
この問題に取り組むため、IFX、ETN、ADA投与中に非感染性のILDを発症したRAの報告例をレビューした。2011年にpubmedを用い検索した英文報告、29症例を解析した。内訳はIFX12例、ETN14例、ADA3例であった。既存の肺病変を14/28(50%)に認め、MTXは11/29(38%)において使用(併用)されていた。TNF阻害薬を開始して肺炎を発症するまでの期間はIFX中央値7.5週(範囲2-10週)、ETN3ヶ月(3週-5年)、ADA5ヶ月(3ヶ月-3.5年)であった。予後は21例で改善したが、6例が死亡、後遺症として在宅酸素1例、息切れ1例を認めた。
Ostor13)は4例の致死的なIFXによるILDを報告し、組織学的検査を行った3例はいずれもUsual interstitial pneumonia(UIP)を呈し、残りの1例も治療前のHRCTにてUIPが疑われていた。IFX投与前にHRCTを施行した3例においてUIPパターンを認めていたが、いずれもIFXの開始後に致命的なILDを発症した。また、器質化肺炎(Organizing pneumonia、OP)を呈し自然治癒した1例も同時に報告し、病理組織が予後に関係すると述べた14)。ステロイドで改善したETNによるOP例が報告されており15)、OPであれば予後は期待できるかもしれない。このほか、Nonspecific interstitial pneumonia (NSIP)、Diffuse alveolar damage (DAD)、Lymphoid interstitial pneumonia (LIP) の組織型も報告されており16)、後述するRAによる間質性肺疾患の組織型と同様である。組織型より両者を区別することは難しいが、薬剤投与中に急性から亜急性の経過で悪化するILDは薬剤性と考えるべきであろう。
3)RAによる間質性肺病変
前項までに記載した薬剤性肺炎と感染症との鑑別に加え、RA自体でも多彩な肺病変を呈するため、肺病変の鑑別は一層複雑になる(表3)。ILDの頻度は1-58%と推測されており、その頻度は画像検査法、ILDの定義、および患者集団によって異なる17)。ILDに頻度の高いHRCT所見として、GGO 28%、蜂巣肺 28%、網状陰影63-93%が挙げられる17)。
外科的肺生検を行ったRA-ILD18例の病理組織像はUIP10例(56%)、NSIP6例(33%)、OP2例(11%)であった。症状の持続期間はUIP9.4±11.7(ヶ月)、NSIP47.9±88.1、OP1.5±0.7である18)。すなわち、RAに合併するUIPとNSIPは特発性間質性肺炎の各々の組織像と同様19)、慢性~亜急性に経過し、OPは急性から亜急性の経過を示す。DADがRAに合併することは稀であるが、ベースにUIPやNSIPがある場合、特発性肺線維症IPF/UIPと同様に致命的なDADを合併することがある18)20)。
表3
RAの肺病変17)
障害組織
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所見
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胸膜
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胸水貯留・胸膜炎、気胸
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気道
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輪状披裂関節炎、気管支拡張症、細気管支炎(狭窄性細気管支炎、濾胞性細気管支炎、びまん性汎細気管支炎)
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肺実質
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血管
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肺の血管炎、肺高血圧症、肺胞出血
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呼吸筋
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呼吸筋・横隔膜の筋力低下
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