本邦のTNF阻害薬の全例調査によると、ニューモシスチス肺炎(PCP)の頻度はインフリキシマブ(IFX )0.4%、エタナセプト(ETN) 0.2%、ヒュミラ(ADA)0.3%とされる1) 2)17)。とくにIFX投与中のPCPは詳細に検討されており、危険因子として、65歳以上、プレドニゾロン6mg以上、既存の肺疾患が挙げられる3)。IFX開始後発症までの期間は、中央値9週(範囲2-90週)とされ4)、同剤のPCP発症への寄与は明らかである。PCPは、RAでもっともよく使用されるメトトレキサート(MTX)療法によっても発症する5)6)。いずれの場合も、後述する間質性肺疾患(薬剤性肺炎)との鑑別は容易ではない。RA-PCPの本邦の二つの大きな観察研究における臨床所見を表1に示す。
PCP PCP MTX-ILD (Miyahara,2011)5) (Tokuda,2008)6) (Tokuda,2008)6) 呼吸困難 11/16 (69%) 10/14 (71%) 8/10 (80%) 発熱 9/16 (56%) 9/14 (64%) 5/10 (50%) 咳 6/16 (38%) 5/14 (36%) 4/10 (40%) 食欲不振 2/16 (13%) NA NA 動悸 1/16 (6%) NA NA 症状の持続時間 中央値7日 7.6±6.4(平均±SD) 8.0±6.0(平均±SD) 中央値 (範囲) 平均 ±SD 平均 ±SD LDH 486 (231-814) 435.1 ±141.6 427.1 ±158.5 CRP 9.6 (0.1-26.8) 8.6 ±4.8 11.6 ±6.2 βDG *151 (20-11870) #98.5 ±94.8 #<Cuttoff KL-6 783 (137-3286) 1204 ±827 814.3 ±757.5 PaO2<60 12/16 (75%) NA NA 酸素必要 NA 11/14 (79%) 10/10 (100%) 人工呼吸器 3/16 (19%) 0/14 (0%) 2/10 (20%) ステロイド 13/16 (93%) 10/14 (71%) 10/10 (100%) 死亡 4/16 (25%) 2/14 (14%) 0/10 (0%)
*ファンギテックGテストMK、#ファンギテックGテストMKとWAKOの混合
一般に HIV非感染者におけるPCP (non-HIV-PCP)はHIV患者のPCP (HIV-PCP)に比べ急速に悪化するが,これは前者では菌体が少なく好中球が多いことに由来する7)-8).胸部X 線では早期の PCP をとらえることは困難であり,症状と身体所見より少しでもPCPが疑われる場合は躊躇せず胸部 CT検査 を施行するべきである。すりガラス状陰影(GGO)が認められれば早急に誘発喀痰検査、あるいは気管支鏡検査(BAL,TBLB)を考慮する。診断のゴールドスタンダードはいまだに特殊染色による菌体の同定である.菌体の少ないnon-HIV-PCP では BAL 液においても菌体の検出は容易ではないが4)、PCR法によるニューモシスチスDNAの検出が有用である。近年、日本でもっとも普及しているWakefieldらのPCR法9)の検査特性が前向き研究において検証されている。すなわち、肺陰影または呼吸不全のために入院したHIV陰性の免疫不全患者448例を対象とし、BAL検体において感度84%、特異度93%、誘発喀痰において各々100%、90%と非常に優れた検査特性であった10)。その一方でBAL検体を用いた同検査が肺癌や肺炎などの無症候性肺疾患群において偽陽性率18.3% (特異度81.7%)であったという報告もあるため11)、この検査が陽性であったときの解釈はその他の臨床状況と合わせ慎重に行う。血清マーカーとしてβD グルカン(和光純薬工業)の有用性が知られており、βDグルカン高値(>31.1 pg/mL)の感度,特異度は各々 92.3%,86.1%と報告された12)。以上から、菌体が顕微鏡的に確認できなくても、PCR陽性かつβDグルカン陽性であればほぼPCPと考えてよい6)。PCRのみが陽性であればPCP疑いと判断するべきであるが、この場合も治療が勧められている13)。実際には、PCRの検査結果が判明するまでに数日を要するためEmpiricに治療がなされることも多いと思われる。
治療は高用量の ST 合剤である13)。HIV感染者におけるPCPでは呼吸不全(PaO2 <70、A-a DO2>35)を伴う場合、早期のステロイド併用が有効である14)。その効果は菌体の死滅に対するアレルギー反応を予防しているものと考えられている15)。菌体の少ない non-HIV-PCPにおけるステロイドの効果については議論されるところであるが、PCPの急激な経過と高い死亡率を考えると呼吸不全を呈する患者にはステロイドを併用することが一般的である5)16)。投与方法はPSL 40mg朝夕2回を5日間、40mg朝1回を5日間、20mg朝1回 を11日間であるが16)、重症度に応じパルス療法も行われる5)。
PCPの予後に関しては、本邦の観察研究の結果では死亡率4/16(25%)、2/14(14%)と報告されている(表1)。有効な治療がなされなければ速やかに重症化するため、速やかな診断とEmpiric治療を含むマネージメントが必要である。
ref
16) Thomas CF, Jr, Limper, AH. Treatment and prevention of Pneumocystis carinii (P. jirovecii) pneumonia in non-HIV-infected patients. Uptodate18.3, 2010
※呼吸30巻6号(2011)の解説、TNF阻害薬の呼吸器障害を読んでみてくださいね。