リウマチ膠原病のQ&A

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Multicentric reticulohistiocytosis - その1 -

Multicentric reticulohistiocytosisが紹介されました。
 
非常にまれな病気で、リウマトロジストは10年あまりの経験で2例目です。
 
概略をつかみたいので、reviewを探します。
 
Pubmedでmulticentric reticulohistiocytosis を検索し、左上のArticle typesをreviewにします。
 
Best Prac Res Clin Rheumatol (2012) がヒットしましたので、読んでみます
 
Best Practice & Research Clinical Rheumatology 2012;26:543–557
 
 
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Multicentric reticulohistiocytosis  
多中心性細網組織球症
 MRH - その1 -
 
 
MRHは皮膚と関節の際立った所見で特徴づけられる稀な疾患である。全身性の症状はよく見られる。根底にある悪性腫瘍と自己免疫性疾患との関連が各々約30%15%に報告されている。治療的な選択肢はチャレンジであり続け、経験に大きく依存する。組織学的に病変は組織球と好酸性のグランドグラス状細胞質を有する多核巨細胞の特徴的な浸潤を示す。それらの細胞は通常CD45CD68に陽性であるが、ランゲルハンス細胞に得著的なS100CD1a expressionがない。それゆえ単球・マクロファージ系由来だと考えられている。早期のはっきりしない報告とは異なり、Weber and Freudenthalによって十分に記載された最初のMRH1937年に報告された。MRHという病名は1954年にGolz and Laymonによって記載された。この言葉の意味は一般に年余をかけて受け入れられ、多くの時代遅れの同義語に取って代わった。
これまでに250例が報告されており、ほとんどが一例報告か小さなシリーズである。この疾患はいくつかの理由のため過小評価されているようだ。過去には世界中の文献のほとんどをサマライズしたレビュアーもいた。この疾患が稀であるため、MRHの発生率と罹患率は分からない。この疾患は世界中に分布しており、EuropeUSAで最も多い。しかし、これは単にこれらの国々でこの疾患の認知度が高いというだけにすぎない。
MRHは家族性の疾患であるということは分かっていない。極めて稀な亜型として、緑内障ぶどう膜炎白内障と関連するMRHが家族性に発症するというfamilial histiocytic dermatoarthritisがあるが、ほとんど報告がない。MRHは通常40代に発症する;しかしながら、小児や高齢者の報告もある。女性は男性の2-3倍、罹りやすい。妊婦の報告もある。
 
臨床像
この疾患の発症は通常潜在性である;ほとんどの患者において関節症状が始めに起き、皮膚症状が続く。この疾患の関節症状から皮膚症状が出現するまでの期間は2-3ヶ月から6年以上、平均3年である。このことが正確な診断を難しくする。これより稀ではあるが、皮膚症状が関節症状より前に、あるいは同時に出現することがある。顕著な皮膚症状とわずかな関節症状を呈する患者も報告されている。
関節炎
始めから関節炎は対称性で手指の指節間関節を最大に侵しやすい。その他の炎症性関節症と同様にこわばり、腫脹、中等度の疼痛がもうひとつの所見だ。皮膚症状と同期しなければ、関節炎は典型的なレントゲン所見や皮膚症状が出るまで、誤診されることが多い。
DIPが良く侵され(75%)、このことと主観的な症状と関節破壊との解離が臨床的に特徴的な所見である。典型的な皮膚病変がない場合、臨床像はHeberden’s nodulesやその他のリウマチ性疾患の関節症状と混同される。膝、肩、手、股、足、肘、足趾も侵されやすいが、顎関節と環軸椎関節を含め全ての関節が侵される。
過去にはMRH関節症の進行は急速破壊性と記載され、身体障害に至る疾患である;若ければ若いほど、関節破壊は高度になる傾向がある。ムチランス型の末期が約半数の患者に起きる。近年、より積極的な治療法が紹介され、進行はVery slowと記載されるようになってきている。身体しょうがを来す様な関節症は過去よりも低くなってきている(12% vs 45%)。自然にまたは治療に反応して、疾患は改善悪化を繰り返し、次第に活動性を失っていく。炎症の活動期は2-10年以上持続するが。関節破壊の後遺症が慢性の身体障害に至ることは明らかである。
 
皮膚病変
皮膚病変は多発性の肌色から赤褐色の丘疹・結節からなり、ほとんどは顔、頸部、手指に位置する。時に掻痒を伴い、サイズは2-3mmから2cmで、2-3ケから100ケに及ぶこともある。顔の分布は耳、鼻梁、頭髪部を含む。鼻孔に沿った虫がはったような病変は特徴的だと考えられている。
爪周囲のひだの周りには小さい丘疹が典型的な所見、いわゆる’coal beads’ (炭のビーズ)を呈する。この病変は体幹の下部と下肢への分布が減った配置、すなわちをcefalo-caudalの分布とりやすい。それらは時に癒合し大きなプラークとなり、敷石状の様相を呈する。最も悪いケースでは顔への重症の進展によって、ライオン顔と称される印象的なひどい容貌を呈する。眼瞼に及ぶXantelasma様の皮疹が約20%の患者において明らかである。縦の突起と色素沈着を含む爪の変化がDIPや爪床の病変から起きる。日興過敏性皮膚炎として出現するびまん性の炎症性の紅斑や重症の掻痒が結節の出現に先行するかもしれない。
頻度が増えているのが、皮膚筋炎を真似する皮膚病変を呈するMRHだ。紛らわしい所見として、日光曝露部に出現する紅斑、Gottron’s signを似た手背の丘疹、および爪囲の毛細血管拡張が挙げられるかもしれない。MRHの報告例のレビューによると、これらの所見は以前考えられていた頻度(約10%)よりもコモンに初発症状であった。したがって、皮膚筋炎様の所見を有することは悪性腫瘍との関連を強めるものではない。皮膚生検の組織学的検査は正確な診断を許す。
日光曝露部の分布のため、MRHの皮疹は日光によるKebner現象と関連するものとする提案がなされた。この仮説は紫外線UVBの繰り返し曝露された患者において正常な皮膚に典型的な所見が出来たことで確認された。
口唇の粘膜表面、舌、歯肉や鼻中隔が約半数で侵される。外陰部と肛門周囲の病変の報告もある。皮膚と粘膜所見は治療の有無に関わらず、出現しては改善を繰り返す。
その他の全身性の症状
関節症状と皮疹が顕著な疾患であるが、MRHが多くの組織が障害されうる全身性疾患であることは現在では明らかである。実際、典型的な組織は多くの臓器の生検組織や剖検組織から認められている。時に全身性の病変も広範に見られることがある。
20%に肺病変が見られる。いくつかの著者が通常間質性肺炎を背景に胸水貯留、肺門リンパ節腫脹、肺の浸潤影と線維化を含む非特異的な所見を観察しているが、組織学的検査の結果に基づいてMRHとの関連を述べた者はほとんどない。収縮性心膜炎が心臓の最もよくある合併症であり、心筋病変による進行性の心不全も報告されている。その他の所見として、唾液腺腫大、嚥下障害、脾腫、および胃潰瘍のような粘膜下組織の病変も見られる。組織学的にわずかな非特異的な慢性炎症を伴う筋力低下がMRHの筋病変として特異的な所見として提唱されている。少数例ではあるが、筋症は筋炎様であったり主な臨床像であったりする。発熱、体重減少、全身性筋力低下、倦怠感もその他の全身症状である。
 
合併症
MRHは様々な疾患との関連が報告されている。高脂血症30-58%ツベルクリン反応陽性12-50%に見られる。Barrow and Holubarが彼らのレビューで述べたように、自己免疫疾患の合併が5-20%に見られる。合併はたまたまの合併かもしれないが、よくある自己免疫の原因論が提案されている。
 
MRHと悪性腫瘍
異なるシリーズと入手できるレビューにおいて、MRHと悪性腫瘍との有意な関連が検索されたケースにおいて15-31%と報告されている。いくつかの悪性腫瘍との関連が見られており、乳癌と卵巣癌が最多である。しかし、胃、子宮頸部、肺、大腸、膵臓の癌、悪性中脾腫、メラノーマ、肉腫、悪性リンパ腫白血病原発不明癌の転移の報告もある。MRHは過去に診断され治療された悪性腫瘍が転移で再発した時に出現することもある。
悪性腫瘍と関連する割合が高いため、MRHを傍悪性腫瘍症候群と提案する著者もいるが、この意見にはふたつの理由で批判される。ひとつは特異的な悪性腫瘍が一貫して報告されていないということ、もうひとつは一例を除く全てのケースにおいてふたつの疾患がパラレルに動かなかったということである。
とりわけ、MRHの発生は悪性腫瘍に先行して出現することもあるということが極めて重要である。MRHが傍悪性腫瘍症候群の基準を満たさなくても、MRHと診断された患者は全て悪性腫瘍を除外するための徹底的な精査が必要である。
 
Table 1
Autoimmune diseases associated with multicentric reticulohistiocytosis [3740].
Sjögrens syndrome
Hypothyroidism
Primary biliary cirrhosis
Systemic sclerosis
Systemic vasculitis
Myositis
Celiac disease
Systemic lupus erythematosus
Rheumatoid arthritis
Diabetes mellitus
 
(Best Practice & Research Clinical Rheumatology 26 (2012) 543–557)
 
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