巨細胞性動脈炎GCAの診断について、まとめます。
まずは画像検査から。
問診と診察だけで決めれれば格好良いのでしょうが、やはり造影CTでマカロニがほしいし、PETでばっちり染まってほしいのです。
それらがあってもなくても、TABは急いでお願いしますけど。特異的と思われる画像所見があれば、TABの前でも治療を開始しやすくなるかもしれません。リウマトロジストはTABの翌日に治療開始することが多いのですが、もう少し急いでも良いのかもしれません。
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<画像所見>
・GCAはPET検査において大動脈とその一次・二次分枝(鎖骨下動脈、総頸動脈、腋窩動脈など)にFDGが集積することが特徴である。PET検査を前向きに評価した試験で生検陽性のGCA と癌患者の結果が比較され、SUV max 1.89をカットオフ値とした時の感度は80%、特異度は79%であった。
・ただし、この検査は高額で保険適応がないため、多くの施設において造影CT検査の方が施行しやすいかもしれない。
・Lariviere らはGCA疑いの24例(ACR基準を満たすGCA15例)を対象にPETとCTAの検査特性を前向きに評価した。PET、CTAの感度は各67%、73%、特異度は100%、85%であった。
・MRIは胸部大動脈弓とその分枝の評価に有用であるが、近年、側頭・後頭動脈のMRIの有用性が報告されている。Klinkらは多施設前向き研究において185例のGCA疑い例(臨床診断のGCA102例)を対照に、感度78%、特異度90%と良好な成績を報告した。
・最近の系統的レビュー(SR)ではCDUSの感度、特異度は各55-100%、78-100%と多様であったが、その理由として超音波装置の違いや評価する血管の違いなどが考えられた。
・CDUSは侵襲が少なく比較的安価であるため、本邦においても普及が期待される。
<側頭動脈生検、Temporal artery biopsy; TAB)>
・TABによる動脈炎の証明はGCA診断のゴールドスタンダードであり、長期に及ぶステロイド投与を正当化する根拠となる。動脈壁にリンパ球などの単核球を主体とした炎症細胞浸潤が特徴であり、約半数に多核巨細胞を伴う肉芽腫形成がみられる。
・イスラエルの病理医であるBreuerはホルマリン固定後のTABの長さに応じGCAに対する感度を検証し、1-5mmで19% (3/16)、6-10mmで71% (47/66)、11-15mmで79% (38/48)、16-20mmで70% (12/17)、21mm以上で88%(8/9)であったと報告した。
→固定後に動脈が12%収縮するそうです。
→少なくとも1.5cm生検してもらえれば、縮んで11-15mm(感度79%)に入るのでよしとしますかね。
・ステロイド治療の開始後では組織が修復される可能性が懸念されるが、TABの陽性率(TAB施行例のうちの陽性例の割合)は低下しなかったとする報告が多い。AchkarとLieはMayo clinicのTAB(平均3.6cm、両側TAB59%)の成績を報告した。TAB陽性率はステロイドの前投与無しで31% (89/293)、ステロイド(PSN>15mg/日)の前投与が1-7日で43%、8-14日で30%、15日以上で28%であり、任意の期間のPSN≦15㎎の投与例では32%であった。治療後の陽性率に有意な差はなかったが、15日以上の群ではTAB陽性のうち非典型的な所見を呈しやすかった(8/9 vs 40/89, p=0.012)。
→TAB陽性率は分母にnon-GCA casesが含まれているはずであり、各群の分母に同じ割合で含まれているのであれば問題ないが、おそらくはステロイド投与を受けやすいほどnon-GCA casesが少なく、ステロイドを待てたTABほどnon-GCA casesが多いのではないかと思われる。すなわち、この試験ではステロイドのTAB組織への影響は否定できないと思われる。
・TAB陽性率よりも、TABのGCAに対する感度を述べた研究が重要であると思われたため、感度を記載した過去の研究を表に示す。その結果、感度は85%-32%と様々であったが、施設の経験(TABの長さ、両側性の割合、病理医の経験)、ひょっとするとステロイド投与歴によるのかもしれない。
Table
→日本のTABはMayoよりもこちらに近いでしょうか。2週間未満でTAB陽性率78%なら感度はもう少し高いでしょう。2週間未満で8割の感度があるのであれば、ステロイド開始後のTABは許容されるでしょう。
→これは欧州の慣れた施設での感度なので、自分の施設の感度がこのくらい高いかというのを考えておいたほうがよさそうです。
<診断>
・1990年のACR分類基準は優れた検査特性が知られているが、その他の血管炎と比較して作成されたものであるため、この基準を用いる場合には除外診断を十分に行っていることが前提となる。たとえば、高齢者が感染症(髄膜炎、副鼻腔炎、肺炎など)にともなって頭痛を訴えれば容易に3項目を満たすかもしれない。
・鑑別すべき疾患は発症時の症状に応じて様々である。この疾患の臨床状況は①頭痛、②不明熱(原因不明のCRP上昇)、➂リウマチ性多発筋痛症(PMR)、④視力障害のいずれかである。頭痛であれば頭部CTを、不明熱であれば血液培養を最初に考慮する。➂PMRを呈する場合、関節リウマチとの鑑別が重要であり、リウマトイド因子、抗CCP抗体の測定を要する。④高齢者の失明であれば非動脈炎性の虚血性視神経症の可能性を考慮する。この病態は通常糖尿病や高血圧などの心血管系の危険因子に関連した動脈硬化である。
・この疾患の臨床症状・所見は感度が高くないため、疑って問診することが大切である。GCAを疑われTABを施行した症例において陽性結果を予測する臨床所見が知られている。陽性尤度比(LR+)が高い所見として顎跛行、複視、側頭動脈の拡大、圧痛、拍動消失がある。顎跛行は肉などの咀嚼を繰り返す食物で出現しやすい。これらの所見よりGCAを疑えば早急にTABと画像検査の計画を立て、ステロイドの開始時期について検討する。
・TAB陰性の場合、①GCAではなかった可能性、②検査の偽陰性であった可能性が考えられる。②を想定するのであれば、対側の生検を考慮してもよい。あるいは、すでにステロイド治療が開始され症状の改善がみられているのであれば治療の継続が望ましいと判断できるかもしれない。この際、ACR基準を満たしているか、診断的な画像所見が得られていることが望ましい。
※ACR分類基準
・初診時に眼症状がすでに出現している場合はできるだけ同日に治療介入を行うべきである(↓急ぐ理由)。眼症状がない場合でもGCAの診断がほぼ確実でありTABが陰性であっても②を考慮するような場合はTABを待たずに治療の開始を考慮してもよいかもしれない。
<失明と脳梗塞のリスク>・・急ぐ理由
・González-GayらはGCA 239例を対象に初診時の眼症状の有無に応じて検討を行った。69例に眼症状を認め、治療後34例が失明し8例に部分的な改善を認めた。失明の危険因子は一過性の眼症状(オッズ比OR 6.35)であり、部分的改善の予測因子は24時間以内の治療開始(OR 17.7)であった。脳梗塞は8例にみられ、その半数が椎骨脳底動脈系であった。脳梗塞を予測した所見は失明(OR 7.65)であり、眼症状が出現して中央値7日で脳梗塞を発症していた。
・Lizonらは生検(+)GCA339例を対象に失明のリスクを検討した。108例に眼の虚血症状あり; 53例がPermanent visual loss PVL(16%)。PVLのOdds ratioは年齢1.06、一過性の眼の虚血症状2.62、顎跛行2.11、発熱0.30、リウマチ性の症状0.23であった。
・ニュージーランドのオークランド大学眼科からの報告によると視力障害を呈したGCA34例、40眼の眼病変の内訳は動脈炎性前部虚血性視神経症(33例)、網膜中心動脈閉塞症(4例)、後部虚血性視神経症(2例)、脈絡膜の虚血(1例)であった。ステロイドパルス療法にも関わらず、11眼(27.5%)に中央値1.5日(範囲1-6日)で視力障害の進行を認めた。
・米国アイオワ大学眼科からの報告によると、初診時に視力障害を認めた91例全例が2日内(90%が同日)にステロイド治療を開始されたが、9例(11眼)において治療5日以内に悪化を認めた。一方視力障害のない53例は全例が5日以内に治療を開始されていたが、のちに視力障害を認めた者はいなかった。
→ということは、視力障害がなければ、ある場合と同様に急ぐ必要はないかもしれない。数日以内は大丈夫である可能性が高い。
ps;↓でGCAのreviewを執筆させていただきました!
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以下でEGPAのreviewを執筆をさせていただきました!
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