リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

MTXとリンパ腫② (EBVとの関連)

(つづき)MTXとリンパ腫①
 
MTXのリンパ腫との関連をUpdateするべく、調べてみました。
 
<Uptodate
Methotrexate lymphomaを検索し、
 
Major side effects of low-dose methotrexateLymphoproliferative disordersを読みます。
 
LYMPHOPROLIFERATIVE DISORDERS —
・リンパ増殖性疾患はRAで頻度が高い。これは特異的な治療とは独立しているものであるが、MTXとその他の免疫調整両方はそのリスクをあげるかもしれない。リンパ増殖性の悪性疾患は長期の治療後に発生する。通常B cell originであり、EBVによるものかもしれない。[25]
・ある前向き試験においてフランス中でMTXで治療されたRA患者で25例のリンパ腫が集められた。これらの中で7例がHDであり(1年間10万人当たり、男性27.8、女性2.8)、性年齢でマッチされた一般事項と比較し発生率が高かった(補正SIR 7.4)。NHLの発生率はMTXで上昇していなかった。化学療法はMTXが中止されるまで開始されなかった。MTX中止後4週間以内に腫瘍が縮小するケースがあったため。縮小したケースにおいても再発することがあるため、警戒を続けなければならない。[26]
 
[26]は前項で詳しくまとめました。
 
Uptodateの孫引きで[25]を調べてみます。京都からの報告のようですね。
 
[25] A clinical, pathological, and genetic characterization of methotrexate-associated lymphoproliferative disorders.
J Rheumatol. 2014 Feb;41(2):293-9.
 
OBJECTIVE:
MTX-LPDはしばしばMTX中止後自然に改善するが、それを予測する因子は明らかでない。
・この研究の目的はMTX-LPDの患者のアウトカムを予測する臨床的、組織学的、遺伝子的要素を明らかにすることだ。
 
METHODS:
2000-2012年の間MTX-LPDのと診断された患者を臨床経過、生検部位、組織型、in situ hybridizationimmunostainingによるEBVの存在、HLAタイプについてretrospectiveに調査した。
 
RESULTS:
RA20例、PM1例の21例の患者が調査された。
・平均MTXの投与量は週6.1mgで、平均治療期間は71.1ヶ月。
・臨床的に5例はEBV陽性の粘膜皮膚潰瘍(EBVMCU)と診断され、多型性の組織所見を呈した。これらの患者においてMTX中止のみで改善した割合はEBVMCUをもたない患者と比べ有意に高かった (75% vs 7.7%, p = 0.015)
HLA-B15:11ハロタイプはEBV陽性のRAMTX-LPDにおいて日本の健常人コントロールと比較し頻度が高かった (p = 0.0079, Bonferroni's method)
EBV潜在の分類とHLAタイピングはMTX-LPDの予後と関連はしていなかった。
 
CONCLUSION:
私たちのデータはMTX-LPDの特殊な臨床亜型であるEBVMCUの患者はその他のMTX-LPDの患者と比べMTX中止後、良い臨床アウトカムを有する事を証明した。
 
EBVMCUという概念があり、MTX中止だけで改善することが期待できるようです。
 
 
Pubmed
methotrexate[title] lymphoma[title] rheumatoid arthritis[title]を検索して、EnglishLlimitsすると43件。
 
8埼玉医科大学血液内科、11横浜市立大学からの報告です。EBVの潜在性の話が面白かったので、そこを中心にまとめました。
 
8. Clinicopathologic correlations of diffuse large B-cell lymphoma in rheumatoid arthritis patients treated with methotrexate.
Cancer Sci. 2010 May;101(5):1309-13.
 
Abstract
MTX-LPDの中にはDLBCLが約半数を占める。
・私たちはMTX-LPDにおけるDLBCLの患者の臨床病理的特徴と予後を研究した。
・この研究はRAのためMTXを投与された後にDLBCLを発症した29例を対象とした。
MTXは全例で中止された。
・年齢の中央値は62歳。
LDH上昇が97%でみられ、骨髄浸潤17%、節外病変41%
・細胞免疫フェノタイプはCD20 93%, CD5 3%, CD10 31%, BCL2 21%, BCL6 69%EBV-encoded small non-polyadenylated RNA (EBER) 24%
・化学療法は23例においてMTX中止後2ヶ月以内に開始された。そのうち12例がリツキシマブを併用して行った。
・残りの6例において自然寛解が起きた。
EEBV陽性率は6例中4例、67%であり、そのEBV陽性の患者4例がCRを達成した。
・化学療法で治療されたDLBCLの患者23例のうち、20例がCRを達成した。
5年生存率は74%5年の進行なしの生存が65%
DLBCL発症後の第一選択はMTXの中止である。
Germinal center B-cell type、およびEBER陽性の患者は自然寛解する傾向があった。
・リツキシマブの有用性は今後の試験で評価されるべし。
 
 
Figure 1 MTX-LPD(DLBCL)の29例の臨床経過と治療効果(一部改変)
 
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Table 3 MTX中止後に自然に寛解した6例の臨床病理学的所見(一部改変)
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(Resultsより)
EBER陽性のグループ(n = 7) Overall survival 71.4%EBER陰性(n = 22)OS 62.2%;有意差はなし。
EBER陽性は7/2924.1%)。MTX中止のみで改善した6例のうち4例がEBER陽性だった。
 
(Discussionより)
7例のEBER+の患者のうち6例がLMP-1(+)EBNA-2(-) (latency type II)。残り1例がLMP-1(+)EBNA-2(+) (latency type III)であった。
 
 
11. Remission of lymphoma after withdrawal of methotrexate in rheumatoid arthritis: relationship with type of latent Epstein-Barr virus infection.
Am J Hematol. 2007 Dec;82(12):1106-9.
 
Abstract
RAはリンパ腫発生のリスクが上昇している。
・病因はいまだ不明であるが、リスクの上昇はRAの高い炎症性の活動性、免疫抑制剤、あるいはEBV感染に関連する。
・私たちはRA患者におけるEBVの潜在感染とMTX関連リンパ腫との関連を調べた。
・多施設研究においてRAのためMTXを投与中に9例がNHLと診断された。
・病理学的所見は8例がDLBCL1例がperipheral T-cell lymphoma, unspecified
EBV感染はin situ hybridizationによって3例で検出された。
9例全例が最初にMTX中止だけで治療されたが、2例が自然にCR1例がPR2例がStable disease4例がPDCRになった2例とも、SDだった1例がEBV陽性だった。
・潜在性EBVのパターンについてさらなる試験を行ったところ、CRになった2例はLatency type IIISDのもう1例はlatency Type II
・これらの結果はMTXによる免疫不全はRA患者におけるEBV関連NHLの発症に関連することを示した。
RAのためMTXで治療され、NHLを発症した患者では、とくにlatency Type IIIEBV感染のNHLにおいてMTX中止後の寛解が観察されうる。
lantency typesを含めたEBV感染の解析は最適の治療ストラテジーを決めるために有用だ。
 
 
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Materials and Methods -  Immunohistochemical stainingより
・この試験で用いたEBV感染の潜在性の定義は以下の通り:latency Type IEBER1メッセージのみの表現で特徴づけられるもの; latency Type II, EBER1 and LMP1の表現で特徴づけられる者; latency Type IIIEBER1, LMP1, and EBNA2の表現で特徴づけられるもの
 
Results - Clinical outcome and EBV infectionより
治療への反応をTable IIにサマライズする。全ての患者はまずはMTXの中止で管理された。EBV感染の3例のうち、DLBCL2例はNHLCRに至った。MTX中止からCRまでの時間は6ヶ月と2ヶ月。これらの患者は109カ月、18ヶ月の間化学療法をせずにCRを維持し生存している。stable disease (SD)1例はEBER1陽性であった。彼女は化学療法後CRに至り、26ヶ月のフォローで生存中。EBV感染の潜在性パターンの解析においてCRになったDLBCL2例はlatency Type IIIを有し、SDであった扁桃腺のDLBCL1例はlatency Type II (Table II)であった。
一方、MTX中止で管理されたEBV感染のうち6例のうち、1例はPR1例はSD4例はPD。これらの患者は最終的に化学療法を受けた(放射線併用したり、しなかったり)。
 
Discussionより
・この研究ではDLBCL89%を占めた。Marietteらの前向き試験ではHLがフランスの一般人口と比べMTX投与中のRA患者に多いことを示した。本研究では0%だったが、日本では全てのリンパ腫に占めるホジキン型リンパ腫(HL)の割合は<10%であることとも関連するものかもしれない。
MTX中止後にCRに至った2例がいずれもEBV陽性だったことは重要。過去の研究ではEBV感染はRA患者の12-44%。これらの研究ではEBV感染がリンパ腫の発生に重要な役割を有している事を示唆した。しかし、EBV自体がリンパ腫のリスクをあげるのか同課は不明。この研究ではEBV3例(22%)で、2例がMTX中止後にNHLCRになった。MarietteCRに至った3例のうち2例がEBV陽性だったと報告した。SalloumらもCRに至った6例中5例がEBV陽性だったと報告した。これと併せ、私たちの結果はRA患者におけるEBV陽性のリンパ腫はMTX中止後に自然に寛解する傾向が強いことを強調するものだ。ただし、EBV陰性のリンパ腫にもMTX中止後に改善するものがあることもまた事実である。
・私たちはEBV陽性のリンパ腫のlatencyを調べた。1例はLatency type II2例がLatency type IIILatency Type IIIは免疫不全状態を表し、免疫不全患者や臓器移植後の患者におけるリンパ増殖性疾患に関連する。EBV関連の腫瘍は潜在したEBV感染B細胞の増殖についで起きると信じられている。潜在したEBV感染B細胞の増殖は細胞障害性T細胞による免疫監視システムを抑制するのだ。リンパ腫を発症するRA患者に潜在性EBV感染と免疫不全状態によるこのような現象は臓器移植後のリンパ増殖性疾患と非常に良く似ている。私たちのLatency Type III を有する2例はMTXの活動性によってEBV感染B細胞の異常増殖が起き、免疫監視システムが本質的に無効化されているのかもしれない。MTX中止が免疫システムを回復させ、リンパ腫のCRに至ることも推定される。この研究ではEBVに特異的な免疫の再構築を研究したわけではないが。
Latency Type IIは一般に免疫正常のホストに起きるHLと鼻咽頭のリンパ腫で見られる。私たちは扁桃腺のDLBCLの患者がLatency Type IIを有した事を確認した。この患者はMTX中止後SDとなった。このケースではEBV感染がリンパ腫発生の病因に影響したと考えられたが、RAMTX治療はリンパ腫の進行に影響を与えなかった。それゆえ、MTX中止による効果が見られなかった。
 
 
< まとめ >
・フランスの前向き研究にてMTXによってHLが増えることになっているが、日本ではHLはリンパ腫全体の<10%。
 
・日本では頻度的にDLBCLが多いかもしれません(横浜で9例中8例がDLBCL、埼玉からはMTX-DLBCL29例の報告)。ただし、これを統計学的に有意な上昇と言うのは難しいのでしょうが。
 
EBV陽性はMTX中止だけで改善が期待できるかもしれません。とくに、EBNA2(+)のタイプ。
 
・リンパ腫細胞のEBNA2の有無によって、latency type II(無)、latency type III(有)に分けられます。Latency Type IIは一般に免疫正常のホストに起きるHLと鼻咽頭のリンパ腫で見られ、Latency Type IIIは免疫不全による。後者の例は臓器移植後のリンパ腫。
 
・埼玉からのDLBCL 29例のうち7例(24%)がEBV+。7例中6例がlatency type II1例がlatency type III。7例のうち4例がMTX中止のみで寛解(EBV陰性では22例中2例のみ)。
 
・横浜の9例のうちEBV陽性は3例(33%)。latency type IIが1例latency type IIIが2。前者の1例はMTX中止後SDで化学療法でCR、後者の2例はMTX中止のみでCR。
 
 
ps; 以下のCAEBVのレビューが参考になります。
 
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