リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

ループス腎炎に対するNIHプロトコールのシクロフォスファミドパルス vs ステロイド単独

増殖性ループス腎炎に対し、ステロイド、シクロフォスファミド(CY)、両者の併用を比較した試験です。
 
CYパルス療法の投与量、間隔を提案したこのレジメンはNIHプロトコールとして、世界の注目を浴びました。
 
その当時の背景として、細胞毒性のあるCYを用いなくてもステロイドを十分量使えば反応するのではないかという期待がありました。また、CYを併用すれば効果が最大限になるのではないかという期待もありました。(Background参照)
 
そこで、最大限のステロイド療法として、毎月のメチルプレドニゾロンmPSL)パルス療法を1年間、CYパルス療法(※NIHプロトコール)、および、両者の併用を比較したのです。
 
最初の報告(1996年)はフォロー期間、5-8.5年におけるデータです。MethodsResultsをほぼ全訳しております。
 
Extended reportで中央値11年の結果が報告されております(2001年)。

https://oiwarheumatology.hatenablog.com/entry/13346884

 

 
**************************************
 
Methylprednisolone and cyclophosphamide, alone or in combination, in patients with lupus nephritis. A randomized, controlled trial.
Ann Intern Med. 1996 Oct 1;125(7):549-57.
 
Methods
Patients selection
1986-1990年の間、NIHの病院を受診したSLE+腎炎の患者82例。腎炎とは2回以上の尿検査においてRBC10/hpf、または赤血球・白血球円柱(感染症がなくて)を認め、3か月以内の腎生検において活動性増殖性腎炎の組織を呈すること。
Exclusion criteria・・細胞毒性のある薬剤を登録から6週間以内に2週間以上投与された者、時期にかかわらずCYを>10週間投与されている者、ステロイドパルス療法を6週間以内に投与されている者、腎外病変のため>0.5mg/kgのプレドニゾンを投与する必要がある者、感染症、妊娠、片腎、インスリン依存性糖尿病、mPSLCYへのアレルギー
 
Study design
Randomization
ランダムな数のテーブルからアレンジされたマスク化されたカードを引くことで無作為に以下の3群に割りつけた。
1.mPSL 1g/m21時間以上かけて3日間点滴。以降、毎月1日の点滴を少なくとも12カ月間繰り返す。
2.IVCYをはじめの6カ月は毎月、その後は3カ月おきに少なくとも2年間繰り返す。
3.1+2の併用
 
1年後の介入のルール)
mPSL群は1年後Renal remission※が得られない場合、もう6カ月mPSLパルスを毎月続け、それでも腎寛解が得られない場合、もう6カ月続ける。最大を36回とする。Renal remission(腎炎の寛解)はRBC<10/hpf、かつ細胞性円柱がないこと、尿蛋白<1g/日と定義。
CY群、併用群は1年後にSubstantial improvementが得られない場合、IVCY3カ月おきに繰り返す。3カ月おきの投与は腎寛解が得られて2年間繰り返す(腎寛解のとき治療が中止されていれば)。Substantial improvement(しっかりとした改善)はRBC数、細胞円柱の数、蛋白尿の全てが50%以上の減少し、Crの二倍化がないことと定義。
・すべての群において、治療を中断されreactivationがある患者は最初のレジメンをやり直す。そらに1年後、変化がなければwithdrawしてもよいし、同じ治療を再開してもよい。あるいは、IVCY3カ月おきに投与してもよい(←mPSL群であっても)。Reactivationは以下の二つ以上で経過中の再現性のある最低値に対し50%以上の増加と定義した。RBCの数(ただし≧10/hpf)、細胞性円柱の数、蛋白尿(ただし>1g/日)、血清Cr
・治療再開から1年後腎炎の評価を受ける。前回同様、患者は脱落したり、治療を再開したり3ヶ月毎のCYを投与したりして良い。2回を超えて治療を再開できない。3回より多く治療失敗があれば、Nonresponderと宣言された。
 
Treatment
(※のちにNIHプロトコールとされるCYパルスの方法です)
CY0.75g/m260分かけて点滴し、WBC>3000であれば投与量を次回を25%増量(最大1g/m2)、WBC<1500なら25%減量すること。Ccr<30の患者では0.5g/m2から始めること。補液を十分にし、利尿剤を使う。吐き気にたいし、制吐剤を使う。1990年第中盤からは1日入院の上、200ml/h10時間以上点滴することとした。メスナ(CY20%投与量)をCY投与前10分間で点滴し、3時間おきに計4回、Ondansetron 8mgIVCY4時間後から4時間おきに計3回、デキサメタゾン10mg4時間おきに投与した。患者はIVCY後少なくとも24時間は飲水を励行され、希釈尿を頻回維持するよう指示された。
・すべての群においてプレドニゾンPSN0.5mg/kg4週間投与された。PSNは毎週、5mg隔日分を減量され、腎外病変をコントロールするのに必要な最低限の投与量、または0.25mg/kg隔日まで減量された。ループスに伴う腎外病変の重症の再燃にはPSN1mg/kg2週間を投与することを許可された。血圧を頻回にモニターし、130/70-85mmHgを維持するよう降圧剤を用いた。
・フォローの間隔はループスの活動性と腎炎によって決められた。一般にはすべての患者が最初の1年間は毎月、その後は3カ月おきにフォローされた。受診のたびに副作用について問診され、検査をされた。
 
Outcome measures
Primary outcome
1)Renal remissionの患者%、
2)Nonrespondersの割合(RBC10/hpf、細胞性円柱、蛋白尿>1g/日、and Crの二倍化)
3)副作用の%
副作用以外のデータは最後の患者が登録された5年後である、19955/1に盲検化した状態で集められた。
 
Secondary outcome
・透析を要する末期腎不全
Crが二倍化で安定
・腎炎の再燃の数(寛解6カ月以降の再燃)
 
・約1/517 of 82)が脱落した。3人がmPSL群で、妊娠、フォロー失敗、プロトコール違反(各々1名)。6人がCY群で、妊娠、フォロー失敗、死亡(各々2例)。8例が併用群で、妊娠1例、mPSLへのアレルギー2例、フォロー失敗2例、プロトコール違反1例、吐き気・嘔吐1例、死亡1例。
 
・計4656人月が集積された(mPSL1374人月、CY1613人月、併用群1669人月)。平均フォロー期間は各々、59.7人月、59.6人月、50.9人月(p>0.2)。脱落しなかった患者のフォロー期間は5-8.5年;脱落者は2ヶ月―5年。
 
Statistical analysis
(略)ITT解析の記載はなし。
 
Results
・ランダム化によって3群とも性年齢、人種、腎臓の改善の期間、PSNの最大投与量、血清CrC3、蛋白尿・血尿の程度、腎炎の活動性と慢性スコア、WHO分類。併用群は腎炎がより長期でPSN曝露が少なく、Hctが低く、血尿が多い傾向があった。腎生検は82例中79例でなされ、残り3例では抗凝固療法、血小板減少、コントロール不良の高血圧のため行われなかった。
27例がmPSL27例がCY28例が併用群にランダムに割りつけられた。
mPSL群はCrが二倍化した患者が最も多かった(mPSL4例、CY1例、併用群0例)。4例がESRDになった(mPSL3例、CY1例)。
・脱落しなかった65例のうち37例(57%)が寛解した;65例中28例が寛解しなかった(43%)。
・ほとんどの寛解CYを投与された群に起きた(併用群で17例、CY群で13例、mPSL群で7例)。Nonresponderの数はmPSL群で17例と最多;CY群で8例、併用群で3例。
complete contigencyを用いたコホート全体の解析(寛解した患者、Nonresponder、脱落者)においてグループ間で有意差があった(p<0.001)(Table 3)。
mPSL27例中7例(26%)が寛解したのに対し、CY群では27例中13例(48%; p=0.038)、28例中17例(61%; p<0.001)。CY群と併用群の寛解率に差はなし(p=0.16)。
・保守的な評価、すなわち全ての脱落者がnonresponderだったとしても、併用群の寛解mPSL群の寛解は有意差に達した(p=0.02)。このworst-case scenarioを用いてその他の群間比較を行ったがいずれも統計学的有意差はなし(p>0.2)。
寛解導入後1年間寛解を維持した後に再発した患者の割合はmPSL群(4/11, 36%)でCY群(1/14, 7%)、併用群(0/17)と比べ多かった。併用群に比べmPSL群において再発が多かった(p=0.016)。しかし、その他の群間比較では有意差なし。
 
Life-table analyses
・腎機能における治療効果をLife-table analysesを用いて評価した。血清Crが二倍化する場合、それは早期に起きた。Cr二倍化の累積確率はmPSL群で5年で25%、併用群で0%p=0.055)。このエンドポイントの比較はCY群とmPSL群で差はなし(p=0.16)。
 
Figure 2 Crが二倍化しない患者の割合
 
イメージ 2
Kaplan-Meier生存曲線を示す。各群においてリスクのある患者の数を研究の各年において生存曲線上に示す。Crが二倍化しない確率は併用群とCY群で差はなかった(p>0.2)。Crが二倍化する確率は併用群よりもmPSL群でより高い傾向があった(p=0.057)。シンボルはイベントか脱落のいずれかを表す。
 
Figure 3 治療群における研究期間中の寛解の割合
 
イメージ 1
各群でリスクにある患者の数をしこの研究の各年において生存曲線上に示す。併用群はmPSL群と有意差があった(p=0.028);CY群はmPSL群、併用群と変わりなかった。
 
・各治療の期間中の寛解導入率をFigure 3に示す。患者は脱落したり寛解が登録されるまでこの解析に含まれた。治療に反応する最大の割合はCY群で見られた。寛解の確率はmPSL群において併用群よりも減少したが(p=0028)、CY群と比べれば有意差なし。
Figure 3mPSL2年より長く投与することによって2年時で見られたよりも腎寛解になりやすかった。さらに、生存曲線は併用群がmPSL群よりも高頻度にしかも早く寛解に至りやすいことを示す。
 
Laboratory Values and Renal Outcome(略)
 
Adverse Events
・研究を通し副作用を登録した。子宮頸管の異型性が5例で見られた(CY3例、併用群2例)、膣のadenosisCY群の1例で見られた。Major感染症mPSL群で2例に見られた(レジオネラ肺炎、Herpes zoster)。CY群では肺炎(3例。うち2例がマイコプラズマ)、Campylobacter jejuni腸炎Herpes zoster、好中球減少性発熱(1例)。併用群で最も合併症が多かったのはHerpes zoster6例)。クロストリジウム・ディフィチル腸炎、好中球減少性発熱、人工弁の感染性心内膜炎、2例の肺炎が見られた。CYによる出血性膀胱炎は起きなかった。
・急性の気管支収縮がmPSL単独かCYとの併用中に3例で見られた。口頭浮腫が見られた者もいたが、全例治った。2例においてその後ジフェンヒドラミンによる前処置を行ってmPSLの治療を継続できた;もう一人の患者は脱落。気管支収縮もアナフィラキシーステロイドの常駐を受ける患者で過去に報告されている。
3例が研究期間中に死亡。CY群の2例が死亡した。まず長期間の喫煙歴と抗リン脂質抗体を有する49歳男性が心筋梗塞で死亡した。2例目は18歳女性でDICで死亡した。併用群の1例が死亡した:ループス腎炎と腎外ループスの重症の再燃を来たした29歳女性が死亡した。彼女が3ヶ月毎のCYを投与されている間に。顕著な血小板減少を来たし、感染症で死亡した。
ステロイドで治療された患者で無血管性壊死がコモンであり、全ての群で見られた。mPSLを投与された群でより頻度が高かった。最もコモンな場所は股関節(11例)。持続する無月経CYを投与された患者でコモン。CY群の11例、併用群の12例、mPSL群の2例が無月経に至った;いずれも40歳未満(p<0.01)。
 
Table 5(より抜粋)

 
  mPSL群     CY群     併用群  
Avascular necrosis 6 (22%)   3 (11%)   5 (18%)
Amenorrhea 2 (10%)   11 (52%)   12 (57%)
One or more infections 2 (7.4%)   7 (26%)   9 (32%)
Neutropenic fever 0 (0%)   1 (3.7%)   1 (3.6%)
Death 0 (0%)   2 (7.4%)   1 (3.6%)

 

 

ps

↓SLEの緊急病態

 

 

↓執筆協力しております!