リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

ループス腸炎

 
Clinical Scenario
18歳女性、SLE
 
ループス腎炎5型に対し、プレドニゾロン40mg0.7mg/kg)を投与し1ヶ月後、腎炎は落ち着いて退院を考慮していた。
 
水様下痢と腹痛が出現し、2日後の腹部造影CTにてびまん性の小腸壁の肥厚を認めた。
 
(症例は架空です)
 
 
< 疑問、発生!>
SLE患者の消化管障害について勉強しよう。
 
 
Uptodate
Uptodateにて
 
Gastrointestinal manifestations of systemic lupus erythematosusに飛びます
 
Abdominal painMesenteric vasculitis and infarctionが関連しそうなので、読んでみます。
 
ABDOMINAL PAIN —吐き気、嘔吐を合併する腹痛は30%までに見られる。鑑別疾患はLupusのない患者とそれほど変わりはない。しかし、感染症、腹膜炎、消化性潰瘍、腸管梗塞を伴う腸間膜動脈炎、膵炎、炎症性腸疾患のようなLupusに関連する病態にはとくに注意を払わなければならない。免疫不全の患者ではサイトメガロウイルス感染症が腹痛と消化管出血を来たすかもしれない。
腹痛の特異的な原因は通常CT内視鏡バリウム、超音波、血管造影and/or穿刺を通し特定される。
SLEにおいてしばしば見逃される腹痛の原因が腹膜炎。臨床的な腹膜炎はめったに疑われることがないが、冒険の研究によるとSLE60-70%の患者がいくつかの時点で腹膜炎のエピソードを有している。もし腹膜炎が疑われれ(例えば診察上反跳痛があることなどで)、CTが腹水貯留を示したら、感染症を除外するために腹水穿刺をすることが妥当。私たちまたは他者の経験では原因不明の腹痛はステロイドに反応することがあり、急性炎症性の機序を示唆する。このように滲出液が見つかったら、中等症か重症の症状に対してステロイドのトライアル(プレドニゾン60mgか相当量)が妥当である。
腹水はSLEでは稀。もしあれば腹水穿刺にて腹膜炎and/or穿孔の除外が必要である。ループスに関連するその他の腹水の原因はうっ血性心不全、低アルブミン血症がある。後者はネフローゼや蛋白漏出性胃腸症によるもの間知れない。
 
 
(腹痛の原因としてループス腹膜炎について記載されていましたが、この度は下痢腹痛なので合わないですね)
 
 
MESENTERIC VASCULITIS AND INFARCTION —腸間膜の血管炎に二次的に起きる下腹部痛は通常潜在性の発症を呈し、急性の吐き気、嘔吐、下痢、消化管出血、発熱を伴う急性症状の出現する数ヶ月前より間欠的であるかもしれない。腸間膜血管炎が出現する危険因子には末梢の血管炎、中枢神経ループスがある。急性の症状を呈する患者は腸間膜の血栓症と梗塞を呈することもあり、この場合しばしば抗リン脂質抗体と関連する。
 
腸間膜血管炎は命に関わる疾患である。腸管の壊死部位が出現する可能性に加え、患者は敗血症と腸管穿孔を経験することもある。古い研究では穿孔による死亡が1-2%あった。穿孔は典型的には重症の活動性ループスに起きる。
 
Diagnosis — 潜在性の発症と間欠的な経過のため腸間膜血管炎の診断は難しいかもしれない。早い段階では単純X線は区域性の腸管の拡張、鏡面像、母指圧痕または腸管の狭小化、偽性イレウスのような非特異的な所見を示すかもしれない。
腹部CTはより役立つかもしれない。腹痛を呈したSLEの女性15例の研究ではCTは発症から1-4日以内にとられた[18]。腸間膜血管炎を表すと考えられたCT所見には以下がある。
・腸間膜の血管がはっきりと目立ち柵状または櫛状になって拡張した腸管に血流を供給すること。
・その他の所見には腹水、小腸壁肥厚がある。
腹部CTの役割は不明。通常、動脈造影が確定診断には必要。
動脈造影は小腸や大腸の血管炎and/or虚血のエビデンスを示すかもしれない。血管炎ンは通常小さい動脈を侵し、動脈造影では分からない。そのような患者における診断は外科的になされるかもしれないし、急性のエピソードがすぎて大腸カメラや生検にてなされるかもしれない。
 
Treatment — 急性腹部症状を呈する患者は口から何もとるべきでない。加えて血液培養をとって広域抗生剤を投与すべきだ。
 
プレドニゾン1-2mg/kgの治療を提唱する者もいる。私たちや他の著者は以下のレジメンを穿孔のない腸間膜血管炎の患者に用いる。
 
1-3コースのステロイドパルス療法(1000-1500mgのメチルプレドニゾロン1日当たり1-2時間かけて)PLUS シクロフォスファミドのボーラスが急性期の炎症を抑えるために投与される。
 
7-10日後、理想的には患者はもう1回シクロフォスファミド(750mg/m2)の静脈投与を行う。通常生理食塩水と一緒に午前中に。
 
急性疾患の患者が穿孔を起こしたり内科的な治療に速やかに反応しない場合には虚血性の腸管を除去するため手術が行われる。
 
 
PROTEIN-LOSING ENTEROPATHY — SLEにおける蛋白漏出性胃腸症は小さなシリーズ、症例報告に記述されている。この病態は典型的には若い女性に起き、ネフローゼレンジの蛋白尿がないのに顕著な浮腫と低アルブミン血症が出現することで特徴づけられる。SLEの最初の症状であることがある。下痢は50%でみられる。
蛋白漏出性胃腸症の診断はTc-99でラベルされたアルブミンの注射についでラジオラベルされたアルブミンが消化管に存在することを証明するシンチで支持されるかもしれない。正常なリンパ球数、コレステロール上昇、腸の生検にてリンパ管拡張がないことがこの病態をリンパ管閉塞による蛋白漏出性胃腸症より区別するのに役立つ。典型的にはステロイドによく反応するが、免疫抑制剤も用いられる。
 
 
 
Uptodateの孫引き>
[18]、韓国からの報告をまとめます。
 
Ann Rheum Dis. 2002 Jun;61(6):547-50.
Acute abdominal pain in systemic lupus erythematosus: focus on lupus enteritis (gastrointestinal vasculitis).
Lee CK1, Ahn MS, Lee EY, Shin JH, Cho YS, Ha HK, Yoo B, Moon HB.
 
Objective:
SLEの急性腹症の原因を決めること
・臨床・ラボデータ、とくに抗リン脂質抗体、SLEDAIをループス腸炎(腸管の血管炎)とループス腸炎がない急性腹症を呈するSLE患者との間で比較すること。
 
Methods:
1993-2001年の間にSLEで入院した全ての患者について後ろ向き試験を行った。
SLEDAIとラボデータをSLEの診断時と急性腹症の時点で集めた。ループス腸炎(腸管の血管炎)は臨床的な評価で診断され、腹部CT所見によって診断された。
 
Results:
・チャートレビューはSLEの入院患者175例(男性20例、女性155例)を同定した。
・これらの患者のうち38 (22%) は急性腹症を呈した。
・ループス腸炎は急性腹症のもっともコモンな原因であった。患者は以下の三つの群に分けられた:Group 1:ループス腸炎(n=17), group 2: ループス腸炎を有さない急性腹症 (n=21), group 3: 急性腹症のないSLE患者 (n=137)
・三群間に性年齢の違いはなかった。抗リン脂質抗体、抗RNP抗体、抗Sm抗体、抗Ro抗体、抗La抗体は三群間で違いはなかった。診断時、急性腹症発症時においてGroup12の間でSLEDAIに違いはなかった。急性腹症発症時に測定された補体、ESR,CRP、抗dsDNA抗体にGroup12で違いはなかった。
・腹痛発症時のWBCの低下はGroup2よりもGroup1で顕著だった。ループス腸炎では空腸、回腸がもっともコモンな場所だった。直腸の病変は稀。4例が再発したが、ループス腸炎の全例が再発例を含め、ステロイド治療に良く反応した。
 
Conclusion:
・ループス腸炎SLEの急性腹症でもっともコモン。
・ループス腸炎の全例が外科的治療を要さず、高用量ステロイドに反応した。
SLEDAIとラボデータは白血球を除いてループス腸炎の発症に関与しない。
 
 
CT所見と治療のところを追加します。
 
再発の4例をふくむ21例のループス腸炎のうち、全例が腸管肥厚を呈した。ターゲットサイン(fig1)は14(67%)で見られた。空腸と回腸がもっともコモンで各々17 (80%)18 (85%)。直腸病変は稀で3例のみ(14%)21例中19例が多発性の血管支配領域を侵し、ひとつの血管の支配領域に限局していなかった。21例中、腹部CTにおいて腸間膜の血管の静脈血栓症を呈した者はなかった。
 
患者はメチルプレドニゾロンの静脈注射(1 mg/kg/day)で治療され、全例改善した。ついで静脈注射は傾向プレドニゾにスイッチされ(中央値5日、範囲1-34日)、減量された。4例がステロイド減量に伴い再発した。しかし、再発した患者はメチルプレドニゾロンの静脈注射によく反応し、免疫抑制剤の追加を要さなかった。外科的な介入はループス腸炎の経過中必要にならなかった (median 29ヶ月, 範囲2–87ヶ月).
 
 
(Fig 1)
 
イメージ 1
 
<Scenario caseの経過>
CFにて大腸炎、回腸炎を認めた。CT所見は孫引きのFig1と似ており、ターゲットサインも認めた。
 
以上から、ループス腸炎と判断した。
 
mPSL1mg/kgの静脈注射を開始した。
 
 
Pubmedにて> 
患者さんの管理はまずは高用量ステロイドでよさそうですが、もう少し勉強してみます。
 
UptodateではMesenteric vasculitis、腸間膜血管炎について記載されていましたが、そのなかで引用された論文(孫引き)ではLupus enteritis、ループス腸炎について記載されたものです。
 
腸間膜血管炎は腸間梗塞を伴うような病態であり、結節性多発動脈炎でも合併したかのような印象です。治療もUptodateの著者はステロイドパルス+シクロフォスファミドパルス療法を勧めています。
 
ループス腸炎では空腸・回腸を中心とした広範囲の腸炎の印象です。
 
このUptodateの項を読む限り、同じ病態としてとらえられています。
 
Pubmedを使って、各々について調べてみます。