リウマチ膠原病のQ&A

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EUVASのホームページでCYCLOPSのレジメンを見たらええ。― その1 ―

EUVASのホームページでCYCLOPSのレジメンを見たらええ。」
 
なんのことだかさっぱり分かりませんでした・・・
 
2005年、顕微鏡的多発血管炎を経験し、腎臓内科の先生にエンドキサンパルス療法について質問したときのお答えです(エンドキサン;一般名、シクロフォスファミド、CY
 
今思えば、そのsuggestionがリウマトロジストに大きな影響を与えています。
 
EUVASとは、European vasculitis study group(ヨーロッパ血管炎研究グループ)といって、世界の血管炎治療の歴史を作ってきたグループです。
 
Trials > Completedのなかに、CYCLOPSがあります。
 
この度は、2009年に報告され、当時の標準治療であったCY連日内服に対し、パルス療法が同等に有効であることを示したRCTCYCLOPSを解説します。
 
Pulse Versus Daily Oral Cyclophosphamide for Induction of Remission
in Antineutrophil Cytoplasmic Antibody–Associated Vasculitis
Randomized trial
 
背景として、連日内服は血管炎に有効ではありますが、長期的な毒性(発癌性不妊、膀胱障害など)が懸念されており、パルス的に投与することで効果を保ちながら、総投与量が減らせないかということが期待されていました。
 
Methods
Participants
対象は、新規のANCA関連血管炎(ウェゲナー肉芽腫症GPAと顕微鏡的多発血管炎MPA;腎限局型を含む)で、ヨーロッパの42施設から、149例が集められました。
 
Inclusion criteria1) AND 2)
1)活動性の血管炎による腎病変
a)1.7< Cr 5.7
b)壊死性糸球体腎炎の組織学的証明
c)赤血球円柱
d)尿潜血>30/hpf+尿蛋白>1g/日)
2)組織学的な証明 or ANCA陽性
 
Exclusion criteriaはその他の自己免疫疾患、ウイルス感染症HBV, HCV, HIV)、癌の既往、妊娠、18歳未満、80歳より高齢。
 
Randamization
コンピュータを用い、国と疾患で層別化した4票ごとのブロックで調整し、中央割付けで行った。(←ある国から最初のMPA登録があった時に、pulse2票、daily2票が入った4票のブロックを割付け、その国でMPA4例が終了してから次のブロックを割りつけるという方法をとった;こうすることで疾患や国による隔たりをなくすることができます)
登録される前にドロップアウトした11例を除き、149例にランダム割付を行った。
 
Interventions
パルス群(pCYとします);最初は2週間おきにintravenous CY15mg/kg3回、ついで3週間おきに寛解まで続け、それからもう3ヶ月続ける。ただし、4回目からは担当医の判断で5mg/kg3日連続で内服させてもよい。
 連日群(dCYとします);上述のintravenous CYを3回投与後、CY 2mg/kgを連日で開始し、寛解したら、もう3ヶ月間1.5mg/kgに減量して投与する。
 両群とも寛解して3ヶ月後に、アザチオプリン2mg/kgの維持療法に切り替え、pCYまたはdCY開始から18ヶ月後まで継続した。メスナはoptionとし、ニューモシスチス肺炎の予防は推奨した。
 
9ヶ月後に寛解に達さない患者はその地域のやり方に戻して良いこととしたが、解析には含めた。
 
Outcomes and Follow-up
BVAS (Birmingham Vasculitis Scores;血管炎の疾患活動性をスコア化したもの)を用い、評価日の28日以前までに起きた所見を評価した。
Primary outcomeは「寛解までの期間」とし、寛解とは「新たなor悪化した疾患活動性がなく、BVAS1と定義。
Secondary outcomesには6カ月、9ヶ月の時点で寛解に達した患者の割合、および再発(Major relapse・・生命に関わる臓器におけるBVAS2以上の再発、Minor relapse・それ以外の再発)を起こした患者の割合を含めた。
Additional secondary outcomesは死亡、腎機能の変化、白血球減少・感染症のような副作用、シクロフォスファミドとプレドニゾロンの総投与量を含めた。
Outcomeの評価は、原則ベースラインから1.534.567.59121518カ月とした。
 
Statistical analysis
統計学的なサンプルサイズの計算は行わず。疾患の稀さと(fundingが)5年の期限付きであったため、臨床的な知見から160例をゴールとした。Intention to treatで解析した
 
Results
Patients
Figure1においてpCY76例、dCY73例が登録され、18ヶ月の時点で評価ができたのは各々62例。ベースラインは同等(Table 1)。
 
Primary outcome
寛解に至るまでの期間は、中央値は両群とも3ヶ月。
Cox regression modelによるHazard ratio (HR)1.098 (95%CI, 0.78 1.55)と差がなかった(Figure 2Kaplan-myer曲線)。
 
Secondary outcomes
9ヶ月時(Primary end point)に寛解に至ったのはpulse CY, oral CY各々67/76 (88.1%)64/73 (87.7%)寛解に至るまでのwithdrawn or lost to followupは各々4/764/73※であり、死亡が各々3/765/73Figure 1)。※(追跡率>8割なので良し)
9ヶ月時までに寛解導入されたpulse67例、oral64例のうち、18ヶ月の観察期間中再発したのは各々13例(19.4%)(major7, minor6)、6例(9.4%)(major3, minor3)であった(Table2)。再発のHR, 2.01 [CI, 0.77 5.30]で有意差はなかった。
 
Additional secondary outcomes
死亡(Table2)はpulse5例、oral9例で有意差なし。腎機能も有意差なし(Figure 3)。副作用(Table 3)に関しては白血球減少がpulseにおいて有意に少なかった(pulse20 [26%],oral33[45%], p=0.016)。感染症41人に51回起き、Serious or life-threatening infectiondCY10例、pCY7例だった。
CYの総投与量の中央値(Figure 4)はpulseでほぼ半分量であった(15.9g vs. 8.2g, p<0.001)。PSL総投与量の中央値は同等(7587mg vs.7586mg)。
 
 
<リウマトロジストのコメント>
寛解後の再発率に違い(13; 19.4% vs. 6; 9.4%HR2.01)はあるものの有意な差ではなかった。サンプルサイズがこの差を検出するのに十分なサイズであれば、また経過観察の期間(18ヶ月)がもっと長ければ有意となった可能性は考えられます。しかし、少なくともPulseによる寛解導入のパワーはDailyと同等であり、白血球減少はより少なかった。投与量は連日の約半分で済み、Serious or life-threatening infection1割弱であった。
 
 
この結果を受けてからの、リウマトロジストの見解です。
 
CYCLOPSにおけるpCYはひとつのRCTにおいて、寛解導入においてdCYと同等とされた。高い寛解導入率(9割弱)と認容できる安全性(重症感染症1割弱)を有しており、投与量が多く長期的な毒性が懸念されるdCYよりも妥当な治療と考える。
 
・血管炎の寛解導入にはCYCLOPSのレジメンにしたがってパルス療法で始め、コントロールできそうにない場合は連日内服を考慮する。
 
 
以降、ここ3年あまりの8例全例にpCYを行い、寛解導入を得ております。再発を2例に認め、再治療で寛解を得ております。Serious infectionを1例経験しましたが、完治しました。
 
 
2000年代、日本では、CY内服よりも安全性の高いパルス療法が普及しつつあった頃かと思います。臨床の現場では、CYCLOPSの結果が出る前に良さそうな方を選んでいたのでしょうね。
 
 
CYCLOPSのレジメンで良いところはもう一点あります。
ステロイドをかなり速やかに減量しているところ」 です。
ここも大切なポイントなのですが、また別の機会にしましょう。
 
 
長文お疲れさまでした。
 
ps;CYCLOPSその2
 
 

 

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