(2011年2月)
<Clinical senario>
ある先生より質問を受けた。
たいへん深い問題です。
じつは、リウマトロジストも「静注なら2倍」ルールを教わり、順守してきました。
成功体験はいとも簡単に正当化されていきます。2倍にしたから何も起きなかったと。
そもそも、この伝統的な命題は、どこから来たのでしょう。
ちゃんと記載してあるものは、「膠原病診療ノート」という良書だけかと思います(↓)。
・静注すると、大量であるほど、血中から消失する率が増す。血中蛋白と結合できな
静注投与は治療効果の用量依存性に不確定さをもたらす。
・ステロイド経口量と静注量の換算式が、成書に記されていないことは同量でよいと
いうことを意味しない。筆者が教わって現在も原則的に従っている方法では、(経口
※著者は、この方法の根拠を探し、とある研究会で臨床経験に基づいて提案されたと
聞いたが文献がないこと、Still病で静注を内服に変更した日から解熱した自験例を
あげ経験則には限界があることを記載しています。
では、この命題「静注なら1.5~2倍」の根拠となった研究があるのか、探してみま
しょう。
う。
検索式は自由なので、いろいろやってみてください。
たとえば、以下はどうでしょう。
#62 ("Prednisolone"[Mesh] OR "Prednisone"[Mesh]) OR "Methylprednisolone"[Mesh] OR "Dexamethasone"[Mesh]→106823 hit
#73 oral or orally or orally-administered or peroral→709431 hit
#71 "Infusions, Intravenous"[Mesh]→42639 hit
3つをANDで結ぶと→393
LimitsでClinical trial、RCT、meta-analysisを選択(Case reportでは納得できな
いですよね)→166 hit
→ 題名だけ読んでいきます。 まあ、やってみましょう。
→ ほしいのはIVとOralを比較した研究です。
※解説
Prednisolone;日本、欧州でよく使用される標準的なステロイド剤。
Prednisone;米でよく使用される。
methylprednisolone(mPSL);mPSL4mgがPSL5mgと同等なので、同じmg数の力価は
1.25倍。ミネラルコルチコイド作用がほぼゼロ。
Dexamethasone;6.25倍の力価。ミネラルコルチコイド作用がほぼゼロ。
<見出しだけ読んで、興味が沸いたら読む>
以下の
4文献を読んでみました。
44; The bioavailability of IV methylprednisolone and oral prednisone in multiple sclerosis.
→疑問に迫る研究ですが、内服mPSLを用いなかったことが残念。パルス相当の内服量を静注に変えるとき、MSには同等交換でもよいということになりますね。
93;Oral versus intravenous corticosteroids in children hospitalized with asthma.
子供の入院を要する喘息発作にたいし、PSL120mgを朝夕内服群vs. mPSL60mg静注/4h(量はともに240mgだが、力価も考えると静注群が1.25倍強い)を比較。β2吸入が切れるまでの時間、退院までの期間は同じ。酸素の必要期間はPSL内服で短かった(p=0.04)。結語は、同じ効果ならmPSLは高価なのでPSLでいいでしょう。
→PSL内服を静注に切り替えるのなら、1.25倍にしてほぼ同等。
139;Methylprednisolone in multiple sclerosis: a comparison of oral with intravenous therapy at equivalent high dose.
ともに同じmPSL0.5gを静注と内服で比較したところ、効果、副作用とも同等。
→疑問に答える研究です。同じ薬をルートを変えただけで比較していますから。mPSLパルスは同量交換でいいでしょう。
163; Comparison of the oral and intravenous routes for treating asthma with methylprednisolone and theophylline.
喘息に対するmPSL80mg持続静注vs. mPSL80mg2*MAを比較したところ、効果は同等。
※以下もよかったのですが、レジメンが今回の疑問に合いませんでした。
25;Comparison of intravenous methylprednisolone therapy vs. oral methylprednisolone therapy in patients with Graves' ophthalmopathy.
67; High dose intravenous methylprednisolone pulse therapy versus oral prednisone for thyroid-associated ophthalmopathy.
69; Comparison of an intravenous pulse of methylprednisolone versus oral corticosteroid in severe acute rheumatic carditis.
104; Randomised trial of oral and intravenous methylprednisolone in acute relapses of multiple sclerosis.
146;Is intravenous glucocorticoid therapy better than an oral regimen for asymptomatic cardiac rejection? A randomized trial.
まとめますと、
・MSに対してmPSL1g静注とPSL1250mgは同等。
・子供の喘息にPSL内服を静注に切り替えるのなら、同量のmPSLにして同等。(量は1.25倍に相当)
・MS発作に対しmPSLパルスは同量交換
・喘息に対するmPSL80mg持続静注vs. mPSL80mg2*MAの比較;同等。
以上から、
「静注なら1.5~2倍」の根拠はなさそうです。