<Scenario case>
39歳男性、強直性脊椎炎。B27+。他院の眼科より再発性ブドウ膜炎のため紹介された。
腰痛は、ある時期とない時期があり、ある時は炎症性腰痛である(安静で悪化、運動で改善)。最近は後頚部のこわばりも併発している。
AS(腰痛)の第1選択はNSAIDsでよいのでしょうが、ブドウ膜炎となると・・・TNF阻害薬??
(症例は架空です)
< 疑問発生!>
ASのブドウ膜炎においてTNF阻害薬は有効か?
<Uptodate>
Uptodateで、Assessment and treatment of ankylosing spondylitis in adultsを読んでみます。Uveitisで検索していきますと、
Use of anti-TNF therapy may also decreasethe frequency of recurrences of uveitis in patients with AS [57,58].とだけあります。記載が十分とは思えません。
ASに保険適応のある、IFXとADAで調べてみました。
<Pubmed>
(((((ankylosing spondylitis) OR b27)) AND"Uveitis"[Mesh])) AND (adalimumab or infliximab)
タイトルだけ読んで以下の11件をチェックしました。
1. BMC Musculoskelet Disord. 2015 Feb
Efficacy of anti-tumor necrosis factortherapy for extra-articular manifestations in patients with ankylosingspondylitis: a meta-analysis.
Wu D, et al.
BACKGROUND:
AS患者の関節外症状の頻度におけるTNF阻害療法の効果を評価するためにメタ解析を行った。
METHODS
MEDLINE, EMBASE, Cochrane libruaryにおいて以下の用語を用いて、AS患者におけるブドウ膜炎、炎症性腸疾患、乾癬をTNF阻害薬とプラセボを用いて12週間以上治療したパラレルまたはクロスオーバーのRCTを探した。2014年2月までに出版されたものとした。
'ankylosing spondylitis', 'infliximab','etanercept', 'adalimumab', 'golimumab', 'certolizumab', 'TNF inhibitor/blocker/antagonists'or 'anti-TNF'
RESULTS:
私たちの基準を満たすRCTは8ケ。TNF阻害薬はAS患者においてプラセボに比べブドウ膜炎の減少に関連した (OR: 0.35,95% CI: 0.15-0.81, P = 0.01)。サブグループ解析では受容体結合蛋白製剤がプラセボに比べ有効であることを示したが (OR: 0.30, 95% CI: 0.09-0.94, P = 0.04)、モノクローナル抗体はそうでなかった(OR: 0.43, 95% CI: 0.12-1.49, P = 0.18)。TNF阻害薬とプラセボはAS患者のIBDを治療する上で有意な差はなかった (OR: 0.75, 95% CI:0.25-2.29, P = 0.61)。サブグループ解析においてモノクローナル抗体も(OR: 0.45, 95%CI: 0.10-1.92, P = 0.28)、受容体結合蛋白もIBDを治療する上で有意な差はなかった(OR: 1.52, 95% CI: 0.25-9.25, P = 0.65)。乾癬に関する適切な論文はなかった。
CONCLUSIONS:
TNF阻害薬はAS患者におけるブドウ膜炎の再発や新規発症を予防した。これらの患者において代賛的な治療になるかもしれない。しかし、モノクローナル抗体の抗TNF抗体とTNF受容体結合蛋白はAS患者のIBDに有効ではなかった。
2. Curr Med Res Opin. 2014Dec;30(12):2515-21.
Comparing the risk of developing uveitis inpatients initiating anti-tumor necrosis factor therapy for ankylosingspondylitis: an analysis of a large US claims database.
Wendling D, et al.
OBJECTIVE:
TNF阻害薬(adalimumab, etanercept,and infliximab)をASに対して開始した患者におけるブドウ膜炎発生のリスクを比較すること。
METHODS:
large claims database (2005 to 2011)の中でブドウ膜炎がないTNF阻害薬未使用のAS患者で、ASに対してTNF阻害薬を開始した患者(N = 2115)を登録した。多変量Cox propotional-hazards modelを用いてETN, IFX, ADAを投与された患者におけるブドウ膜炎のリスクを比較した。
RESULTS:
TNF阻害薬の開始後、最初のブドウ膜炎の発生までの日数は中央値191日。3つのTNF阻害薬の中でブドウ膜炎発生までの時間の中央値はADAで243日、ETA182日、IFX144日。1年間のブドウ膜炎の発生頻度はADAで最低 (2.4%, N = 717)で、ETAで最多 (4.5%, N = 1087)、IFXが中間であった(3.2%, N = 311)。ETAを投与中の患者においてブドウ膜炎のリスクはADAに比べ1.9倍だった (HR 1.91, 95%CI: 1.1 to 3.31). IFXを投与中の患者においてブドウ膜炎のリスクはADAに比べ有意に異ならなかった。
CONCLUSION:
ブドウ膜炎の病歴がないAS患者においてADAの初期治療はETAに比べブドウ膜炎のリスクが有意に低かった; しかしながら、そのリスクはADAとIFXとの間で差はなかった。この結語を解釈する際のLimitationsは罹病期間のような疾患レベルのデータがモデルの登録に入手できなかったこと、1年後以降のブドウ膜炎のリスクを評価できなかったことである。
3. J Rheumatol. 2014 Sep;41(9):1843-8.
Adalimumab significantly reduces therecurrence rate of anterior uveitis in patients with ankylosing spondylitis.
van Denderen JC, et al.
OBJECTIVE:
METHODS:
RESULTS:
77例の患者においてベースラインより前の1年でAU発作が52回起きた(68/100PY)。治療開始後には19回であった(14/100; 減少率80%)。ADA治療前の1年でAUを起こした26例が中央値2回の再発を起こした [interquartile range (IQR)1.00-3.00]。これに対し治療後の1年では10例が中央値0.56回(IQR 0.30-0.75)の発作を起こした。したがって1年当たりの発作の回数は72%減った (p = 0.000)。
CONCLUSION:
4. Jpn J Ophthalmol. 2013 Jan;57(1):104-7.
Treatment of recurrent anterior uveitiswith infliximab in patient with ankylosing spondylitis.
Matsuda J
症例報告;HLA-B27関連ブドウ膜炎の25歳日本人男性の再発性ブドウ膜炎にIFXが有効であった。
5. Eur J Intern Med. 2011 Dec;22(6):554-60.
Extra-articular manifestations ofankylosing spondylitis: prevalence, characteristics and therapeuticimplications.
El Maghraoui A.
レビューです。ASのブドウ膜炎について知っておきましょう。
1. Eye involvement
ブドウ膜炎は強膜、結膜、外側の前房、内側の網膜の間、眼の中間層にあたるブドウ膜管の炎症を記載するために用いられる一般的な用語。ブドウ膜炎はAS患者におけるもっとコモンな関節外症状。AS患者は疾患の経過中20-30%がブドウ膜炎を起こす。さらに、期間が長くなれば有病率は上がる。急性の片側性のブドウ膜炎が90%。臨床的には羞明、涙液の増加、視力障害を伴う有痛性の赤い目が特徴。炎症は前房の中で起き、硝子体の炎症細胞がレンズの後ろのスペースにあふれ出て、虹彩や毛様体のブドウ膜管に炎症が及ぶ。最初のエピソードは通常急性で軽度の目の違和感が1-2日先行し赤目と疼痛が起き、片側性である。再発の傾向が強く、しばしば反対側に起きる。ブドウ膜炎は通常視力障害を残さず2-3ヶ月以内に収まる。もし十分に治療されなければ、前房蓄膿、癒着、白内障、緑内障に至る。視力の低下は例外的ではない。
SpAにおけるブドウ膜炎の原因はよく分かっていない。ASに最もよくある急性の前部ブドウ膜炎は通常予後がよく、局所的な散瞳薬、調節麻痺剤、ステロイドに反応する。しかし、急性の合併症を避けるためにEmergencyとして速やかに管理されなければならない。局所的に投与されるプレドニゾロンアセテートは角膜を通しよく吸収され効果を発する。しかし、後部の炎症にはそれほど効かない。スコポラミンのような散瞳の点眼薬は後方癒着を避けるため、瞳孔サイズを調整するための毛様体筋の収縮から来る疼痛を緩和させるたえに用いられるかもしれない。局所療法にもかかわらず炎症が持続する場合、眼周囲のステロイド注射を使用してもよい。短期間の経口ステロイドと同様に。急性前部ブドウ膜炎の再発が頻繁であるとき(1年に3回より多い)、いくつかの研究ではスルファサラジンが再発の回数を減らすかもしれないことを示した。さらに、スルファサラジンで治療中の患者では新たなエピソードはより重症でない。最近では、いくつかの論文がASのブドウ膜炎の治療としてTNFα阻害薬の有効性を報告している。TNF阻害薬ETAとIFXのメタ解析はAS患者において両剤ともプラセボに比べブドウ膜炎の発生を有意に減らしたことを示した (placebo: 15.6/100 PY; infliximab: 3.4/100 PY; etanercept: 7.9/100 PY;P=0.01; TNF-inhibitors vs placebo)[10; Brau 2005]。SpAの患者の後ろ向き研究は前部ブドウ膜炎の再発を減らす上でのTNF阻害薬の効果を確かめた。しかし、この解析はETAと抗体製剤(IFX, ADA)との明らかな差を示した;ETAではブドウ膜炎の発生は変わらず (54.6 vs 58.5/100 PY;P=0.92)、TNF抗体製剤では劇的に減少した(IFX:47.4 vs 9.0/100 PY; P=0.008, ADA: 60.5 vs 0/100 PY; P=0.04)。
最近、システマチックレビューはASのETAの臨床試験のブドウ膜炎の報告に焦点を当てている (4placebo-controlled; one active controlled; and three open-label)。プラセボ比較の試験ではETAでは100PYあたりのブドウ膜炎の発生率 (8.6 [4.5, 14.2])はプラセボに比べ低い(19.3[11.0, 29.8] p=0.03)。Active comparatorの試験ではETA、SSZにおける発生率は同様であった (10.7[5.5, 11.6] and 14.7 [6.4, 26.5], respectively; p=0.49)。ADAのOpen-label studyはAS患者1250例においてブドウ膜炎の発作が減少したことを示した[13; Rudwaleit 2009]。全体としてADAは発作を50%減少させた。
次項につづく