TNF阻害薬はリンパ腫の原因になるのでしょうか。
GLMの3年の安全性の報告を読んでいて、そんな疑問がわいてきました。
https://oiwarheumatology.hatenablog.com/entry/13368952
その論文のDiscussionには関連性を否定する二つの論文が引用されていました。
https://oiwarheumatology.hatenablog.com/entry/13382903
Pubmedを使って、自分でそのテーマに合った論文を探してみようと思いました。
<Pubmed>
lymphoma[title] AND (infliximab or adalimumab or etanercept or golimumab or certolizumab)を検索し、EnglishでLimitsすると、86件。
2010年代の3つのAbstractを読みました。
6. Risks of serious infection or lymphoma with anti-tumor necrosis factor therapy for pediatric inflammatory bowel disease: a systematic review.
Clin Gastroenterol Hepatol. 2014 Sep;12(9):1443-51
BACKGROUND & AIMS:
・その値をその他の治療において予測される数値、成人のIBDにおいて予測される数値、および一般人口の小児において予測される数値と比較した。
METHODS:
・潰瘍性大腸炎またはクローン病の小児におけるインフリキシマブの研究、またはクローン病の小児におけるアダリムマブ療法に関して、MEDLINE, EMBASE, the Cochrane Collaboration, およびWeb上で得られる知見を探した。
・標準化発生率 (SIRs)を計算し、TNF阻害剤に曝露された小児の患者における感染症と癌の発生率とTNF阻害薬に曝露されていない小児において予測される発生率、およびTNF阻害薬に曝露された成人患者における発生率を比較した。
・私たちの解析には5528例の患者の9516人年のフォローによるものである。
Our analysis included 5528 patients with 9516 patient-years of follow-up evaluation (PYF).
RESULTS:
・TNF阻害薬で治療される小児における重症感染症の発生率(352/10,000 PYF) は免疫修飾剤単剤で治療される小児の発生率(333/10,000 PYF; SIR, 1.06; 95% CI, 0.83-1.36)と同様であったが、ステロイドで治療される小児における発生率(730/10,000 PYF; SIR, 0.48; 95% CI, 0.40-0.58)、TNF阻害薬で治療される成人における発生率 (654/10,000 PYF; SIR, 0.54; 95% CI, 0.43-0.67) よりも有意に低かった。
・5例の治療関連死があった (敗血症4例、不整脈1例)。2例がリンパ腫になった(2.1/10,000 PYF)。
・この値は前章に人口におけるリンパの新生物の期待値と同様だった(5.8/100,000 PYF; SIR, 3.5; 95% CI, 0.35-19.6)。チオプリン単剤で治療される小児の人口(4.5/10,000 PYF; SIR, 0.47; 95% CI, 0.03-6.44)、TNF阻害薬 (6.1/10,000 PYF; SIR, 0.34; 95% CI, 0.04-1.51)で治療される成人と比べて低かった。
CONCLUSIONS:
23. Risk of lymphoma in patients receiving antitumor necrosis factor therapy: a meta-analysis of published randomized controlled studies.
Clin Rheumatol. 2012 Apr;31(4):631-6.
Abstract
・造血系・リンパ組織の腫瘍に関する2008年版WHO分類は新しい概念「その他の医原性免疫不全関連のリンパ増殖性疾患」を認めた。
・これは自己免疫性疾患のため免疫抑制剤を投与される患者におけるリンパ腫を際立たせるものだ。
・RAにおけるTNF阻害療法の役割とリンパ腫のリスクはいまだ謎のまま。そのため、この試験の目的はTNFα阻害療法が医原性のリンパ腫に関連するか否かを決めるものだ。
・TNFα阻害療法を受けるRA患者を対象とした全ての出版されたRCTのメタ解析を行った。14の研究が検索の基準全てを満たし、コントロール2306例、TNFα阻害療法(エタナセプト、アダリムマブ、インフリキシマブ)で治療された5179例を含んだ。患者数、年齢、性、リンパ腫の発生率とフォロー期間を含む情報が記録された。the DerSimonian and Laird methodを用いて全体の発生率と発生率の違いを解析した。コントロール群のうち4例が造血系新生物を発症した (4/2,306, 0.17%)。TNFα阻害剤で治療された患者のうちのうち11例 (11/5,179, 0.21%)がリンパ腫を発症した。
・リンパ腫の補正された全体の発生率はTNF阻害薬で治療されない患者1000人年あたり0.36、これに対しTNFα阻害薬で治療された患者で1.65。この差の95%CIは (-0.214, 2.79)。
47. Lymphoma in patients treated with anti-TNF: results of the 3-year prospective French RATIO registry.
Ann Rheum Dis. 2010 Feb;69(2):400-8.
※著者はMTXとHodgkin lymphomaの関連を報告した方なので、信頼できそうです。
OBJECTIVE:
TNF阻害薬に関連したリンパ腫の報告例について記述すること、危険因子を特定すること、発生率を評価すること、異なるTNF阻害薬におけるリスクを比較すること
METHODS:
・2004-2006年の間、適応疾患に限らずTNF阻害薬を投与されたフランス人患者におけるリンパ腫を全例集めるため、国立前向きレジストリ(RATIO)がデザインされた。
・フランスの一般人口のリンパ腫の発生率を標準として用いた。
RESULTS:
・リンパ腫38例、非ホジキン (NHL) 31例 (B細胞系26例、T細胞系5例), ホジキン型リンパ腫 (HL)5例、ホジキン様リンパ腫2例が集められた。
・EBウイルスはホジキン様リンパ腫の2例、HL5例中3例、NHL1例で検出された。
・アダリムマブまたはインフリキシマブを投与された患者ではエタナセプトで治療された患者に比べより高いリスクを有した:標準化発生率 (SIR)はADA 4.1 (2.3-7.1)、IFX 3.6 (2.3-5.6)、ETN 0.9 (0.4-1.8)。
・ケースコントロール研究においてADAかIFXへの曝露はETNに比べリンパ腫の独立した危険因子であった:各々のOR 4.7 (1.3-17.7)、4.1 (1.4-12.5)。
・性年齢補正したリンパ腫の発生率は10万人年あたり42.1。The SIRは2.4 (95% CI 1.7 to 3.2)。
CONCLUSION:
・TNF阻害薬で治療される患者ではリンパ腫のリスクが2-3倍上昇しているが、これは重症の炎症性疾患で期待される値と同様だった。
・免疫抑制に関連して発生するリンパ腫もある。
・リンパ腫のリスクは可溶性受容体製剤よりもモノクローナル抗体の両方において高かった。
Figure
※IFX、ADAはMTXの影響があったのではないかと思いましたが、MTXの影響の可能性について記載はされていませんでした。
<リウマトロジストのコメント>
TNF阻害薬がリンパ腫を増やすかもしれないことについては否定的とする報告と怪しいと見ている報告があるようです。
GLMの3年の安全性に関する報告でリンパ腫 は用量依存性に増加しましたが、有意差はありませんでした。
Discussionには否定的な見解が2報、引用されていました。
この度、Pubmedで調べて、3つの論文を見つけました。
2014年の小児のシステマチックレビューでは否定的な見解でした。
2012年の成人におけるメタ解析(IFX, ADA, ETN)では1000人年あたりTNF阻害薬(-)で0.36、TNF阻害薬(+) 1.65であり、その差1.29 (95% CI, -0.21, 2.8)は統計学的有意差に到達せず、傾向にとどまりました(p値 0.093)。
2010年のフランスのケースコントロール研究において、リンパ腫の標準化発生率 (SIR)はADA 4.1 (2.3-7.1)、IFX 3.6 (2.3-5.6)、ETN 0.9 (0.4-1.8)と、抗体製剤で高かったというものでした。
TNF阻害薬がリンパ腫のリスクになるか否かについて結論を言うには時期尚早なのかもしれません。
しかし、1000人年で1人余分に発症するというメタ解析のデータが正しいとすれば、100人を10年間フォローして1例発生するという極めてわずかな増加とも言えるかもしれません。
ps; GLMの3年のデータも含んだ、数年先のメタ解析の結果に注目したいところです。