リウマチ膠原病のQ&A

日常診療で出会ったギモンに取り組んでいきます!

バクタが飲めないSLE患者

バクタって、SLEの半数が副作用を経験するって知っていました?
 
Clinical Scenario
※実際のケースを一部アレンジしております。
 
22歳女性、ループス腎炎にたいし、PSL高用量とTacrolimusを投与して1ヶ月。ニューモシスチス肺炎の予防のためバクタを投与していたが、発熱、肝障害、リンパ節炎を来し中止した(こういうのを過敏性症候群という)。減感作療法(※)を行ったが失敗。ついで、保険適応のあるpentamidineベナンバックス)吸入を行ったが、これも咽頭刺激のため継続できず。。。
 
経験しませんか? バクタが飲めないSLE患者。。。(※)
 
でも、ニューモシスチス(PCP)は予防したいですよね。
 
さて、どうしましょう?
 
 
<疑問を解決する!>
1)Uptodate19.2で「pneumocystis」「prophylaxis」を入れ、Search
 
Treatment and prevention of Pneumocystis pneumonia in non-HIV-infected patients を読んでみよう。
 
バクタ(Trimethoprim-sulfamethoxazoleST)の記載は飛ばして、以下を拾ってきました。
 
・リウマチ性疾患に関するPCP予防のガイドラインはない。
 
HIV以外の免疫不全患者におけるPCPの予防のRCTのメタ解析ではPCPのリスクが3.5%より高ければ予防が妥当だとされる。
 
PSL20mg以上を1ヶ月以上内服する免疫不全患者(血液系、薬剤性)がさらに免疫不全の要素を有する場合(例;特定の血液系malignancyやその他の免疫抑制剤)、PCPのリスクが高いため予防投与をすべし
 
ST以外の薬―PCPの予防のために使えるその他の薬剤はatovaquonedapsone±pyrimethaminepentamidineの吸入or静注、primaquineclindamycinsulfadoxinepyrimethamine
 
non-HIV患者のRCTは限られている。ひとつのRCTの例が自己幹細胞移植後の39例を対象に行われたatovaquoneSTと比較した試験である。これによるとatovaquoneはこの患者群においてよく耐用できた。両群ともnが少なくPCPは発生しなかったため、確固たる結論は得られなかった。
 
・バクタ以外の予防薬の有効性はHIV患者では広範に研究されている。
 
 
2)non-HIVの患者に関するエビデンスはほとんどないといっていいでしょう。 仕方がないので、
 
Uptodate19.2; Prophylaxis against Pneumocystis infection in HIV-infected patients
 
→ Comparative efficacy に飛びます。
 
バクタ以外の薬の効果はバクタとの相対的な効果で報告されている。初期のバクタのRCTにおいてplaceboにたいし死亡率の低下を認めたため(placeboは倫理的にNG)。
 
CD4<200PCP既往(-)HIV患者215人を対象にAerosolized pentamidine (AP) 毎月300 mg vs STRCTを行った。9ヶ月後、PCP ST142例のうちゼロ、AP71例のうち6(8%)。副作用中止はSTよりAPで少なかった(24-25% vs 3%)。
 
PCP既往(+)HIV患者310例を対象に AP300mg4週間毎vs STRCTを行った。18カ月のPCP再発率は11%ST vs 28%AP
 
CD4<200PCP既往(-)HIV患者843人を対象としたフォロー中央値39ヶ月のRCTにおいてSTdapsone (50mg12)AP (300mg/4wks)を比較した。ITT解析(※)で36ヶ月以上でPCP発症の推定リスクは3群間で同等(18%, 17%, 21%)。ただし、終了時に決められた薬剤と投与量をちゃんと飲めていたのは23%だけ。治療中にかぎった解析によると、1年当たりのPCP発症率は1.2%ST, 2.6%dapsone, 5.7%AP。最初のCD4<100の患者に限ってITT解析を行うと、PCPのリスクはAPよりもSTDapsoneで低かった(19%, 22%, 33%)。APは他の2剤よりも耐用できた。決められた薬と投与量を完遂できたのは21%ST, 25%@dapsone, 88%APだった。
 
CD4<250HIV患者278人を対象とした平均フォロー6ヶ月間のRCTにおいて、dapsone100mg2回とAP100mg2週間毎が比較された。PCP2群で同等(18% vs 14%)。しかし、神経トキソプラズマ症がAPでは6例、dapsoneでは0例だった。
 
35試験、6583例を対象とした1996年のメタ解析によるとSTdapsoneAPよりもPCPを予防した。しかし、生存における有意な利益はなかった。
 
STに耐用できなかったHIV患者1057例を対象としたRCTにおいてatovaquone1500mg懸濁液とdapsone100mgが比較された。中央値27ヶ月のフォローにおいて、PCPの年間発生率において有意な差はなかった(15.7% vs 18.4%)。死亡も差はなし。
 
PCP予防の適応があり、STに耐用できなかったHIV患者549例において、atovaquone懸濁液750mg or 1500mgAP毎月300mgと比較した。11.3ヶ月後、PCPの発生率に差はなかった(26%22%17%)。死亡もしかり(20%, 13%, 18%)。
 
まとめると、STは飲めるなら最も有効。APSTdapsoneより耐用性が高いが、有効性が低い。とくにCD4低値の患者において。しかもトキソプラズマを予防できない。DapsoneSTよりは幾分耐用性がよく、APよりは有効。atovaquoneの経験は限られたものではあるが、dapsoneと同じくらい有効であるようだ。
 
→有効性は ST > Dapsone or atovaquone)> pentamidineのようです。保険適応のあるpentamidine吸入はplaceboとの比較試験はなく、本当に効いているのかどうか分かりません。Dapsonemeta-analysisSTに負けたものの、各々のRCTでは善戦しました。
 
 
Scenario caseの経過>
この患者にはDapsone(レクチゾール)を処方しました。もちろん、保険適応外の使用を了承してもらったうえで。
 
 
リウマトロジスト@ループス好き
 
 
ps;ちなみに、HIV専門の血液内科医に相談したところ、HIV診療ではAtovaquoneを使っているとのこと。厚生労働省AIDS治療薬研究班の臨床試験コホート研究)に入ってからということですが、対象はHIVのみであり、適応外とのことでした。
 
 
SLEとサルファ剤
SLE145例と104例のケースコントロール研究においてsulfonamideを含む抗生剤に対する副作用はSLEで高かった(52% vs 19%)。
 
※バクタの減感作療法
HIV患者でバクタの副作用が出た時に行う減感作の有効性が報告されています。バクタの継続をoutcomeとして、NNT=6! 1/8Tから始め、6日目より1Tに戻す方法で、日本ではバクタ配合顆粒を用いると簡単にできます。
1日目 0.125gを朝のみ
2日目 0.125gを朝夕
3日目 0.125gを毎食後
4日目 0.25gを朝夕
5日目 0.25gを毎食後
6日目 バクタ1Tを朝のみ
 
ITT解析